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第18話 隠れ聖女と飛竜の群れ

「で、今日はどこに行くんだ?」


 冒険者ギルドを出たところでリオさんに聞かれる。

 今回受けた依頼はそう難しいものではない。まぁ、多少は大変な目に合うと思いますけどね。


「今回の依頼は“怪鳥卵の採取”ですね」

「卵?」

「今回の相手は怪鳥、北側にある山脈で卵の採取任務です」



***



 王国の北側に存在する山脈。高度は3000メートルに及ぶ高さの山で、そこに存在する怪鳥“ロックバード”の卵を採取するのが今回の任務だ。

 ちなみにロックバードは討伐級5である。


「アリアの魔法で浮いたりできないのか?」


 岩山を歩いて登りながらそんなことを聞いてくるリオさん。


「ロックバードは比較的弱い魔獣です。空中戦を得意としてますが、討伐級が5とそこそこな理由は空中で戦える人材が少ないことから来ていますね。

 そして何より、ロックバードは“魔法探知”を使います。詳しい原理は知りませんが、魔法を探知して逃走を図ろうとするのでうかつに使えないんですよ」

「へぇ....なら、今回は剣で戦うのか?」

「いえ、戦闘はしません。卵は怪鳥の大きさに比べると本当に小さいので、回収だけしてさっさと帰りましょう」


 ごつごつした岩山が行く手を阻むが、普段から冒険者として鍛えている私たちにはさして問題ではない。

 目標は頂上より少し降りた標高2500メートル地点。酸素濃度は薄くなるが、そこも問題には成りえないだろう。


 そう考えた時、ふと道の端に何かが倒れているのを発見する。岩の影になっててよく見えなかったが、道に沿って垂れる“何かの液体”が、それが何なのかを物語っていた。


「どうした、アリア」

「これは....」


 岩の影まで駆けていく。岩裏を見ると、そこには食い荒らされた鹿の死体が転がっていた。

 まだ傷口が新しい。それに流れる血の様子からして、まだ食い殺されてから数時間しか経ってない。


「鹿の死体か」

「はい。ですが何より不思議なのが、この山脈には肉食系の魔獣が少ないんです。そのうえでこんな場所にこの死体....少し急いだほうがいいかもしれません」

「と言うと?」

「この山脈は合計で5つの山から連なっています。今私たちがいるバービナ山にいる肉食の魔獣はベノムタイガーのみ。

 ですが、ベノムタイガーがいるのはもっと標高が下の部分。それに食い荒らすような真似は習性上しません」

「つまり、別の魔獣が絡んでると」

「魔獣....()()()()()()()()()()()()

 隣のワーバン山、そこに生息する肉食の獰猛な生物....」


 考えたくはないが、この標高でこんな真似ができる生物は一種しか思いつかない。


飛竜(ワイバーン)が、いるかもしれません」

「飛竜、か....竜信仰のあるこの国で竜殺しは大罪だからな。飛竜は理性のない竜とはいえ、魔獣としては認定されていない。尚更戦闘に入る前に目的を済ませた方がよさそうだ」


 コクンと頷く。

 鹿の遺体を後にし、私たちはさらに山の上へと登って行った。




 そして訪れた目的地。

 だが、やはりというべきか想像通り最悪な状況になっていた。


 そこは無数の飛竜がロックバードを追いかける地獄絵図。だが、ロックバードの方が速く中々捕まえられないでいる飛竜が鼬ごっこを行っていた。

 炎のブレスが空を裂き、雄叫びを上げて飛び回る魔獣の群れ。

 やはり予想していた通り最悪のタイミングで出くわしたようだ。


「さて、どうする?強硬手段に出るか?」

「いや、どうしましょうか....」


 正直、無理やり魔法を使って攻めるのはありだとは思う。ロックバードが飛竜にしか構っていられない以上、卵の守りは手薄になっているだろうから。

 だが、強硬手段を取れば当然飛竜にも見つかってしまう。それだけは避けなければならない。


「今ある手持ちのカードは2つ。俺と君だ。それ以上のものは外的要因に任せるしかないからな」

「それって要するに、“駒”として自由に使っていいってことですか?」

「あぁ。アリアの策なら喜んで乗ろう」


 すーぐこういうこと言うからこの人は....ま、使っていいなら喜んで使いますけども。

 もう一度、私は計算を始める。正解のルートを、円満に解決できる道を....


「....」

「....」

「あ、そうか」

「思いついたか?」

「まぁ、強硬策ではありますが....いいですか?」


 リオに了承を貰い、策を話す。策と言えるほどの策ではないが、少なくとも無事に卵の回収は出来る。


「確かにな。ゴリ押しに近いが....やってみよう」

「では、作戦開始で」


 そう言った瞬間にリオさんが駆け出す。ロックバードも飛竜も岩陰から出てきた人間には気づいていないようで、未だに追いかけっこを続けている。

 そこに向かって、リオさんがとある物を投げた。


「3....2....1....今!」


 私がカウントダウンをするのと同時に空中で爆ぜる球。唐突な光が周囲を白く染め上げる。

 リオさんに渡したアイテムは閃光弾。それも、おと爆弾も兼用で内蔵されているちょっとお高いやつだ。


 何故これを投げさせることが作戦のスタートになるのか。それはリオさんを“囮”として使うためである。

 何気ない夜道で、唐突に花火が上がったら気になるでしょう?あれと同じです。

 つまり、争ている魔獣同士の注意を1点に向けさせることが狙い。そして、真の狙いは....


「やっぱり、成功ですね」


 岩陰からぐるりと回った私はロックバードの巣の近くまで接近していた。

 そして目の前にいる()()()()()()()()()。これが真の狙いだ。


 巣から卵を運び出すだけなら簡単だが、習性上卵を守る母鳥が必ず1匹以上は巣にいる。

 普段は周囲を警戒しているその怪鳥は俊敏性に優れた個体のことが多く、このクエストの難易度がそこそこあるのもそれが原因だ。


 だが、そうは言えども生物であることに変わりはない。

 争いのど真ん中で弾ける“閃光”と“音”。自然と争いの渦中にいる生物全ての意識がそちらに向くはずだ。


(....今!)


 一瞬の隙をついて自身に“身体強化(ブースト)”と“隠遁(ステルス)”をかける。

 猶予は気を逸らしてから意識を戻すまでの数秒....数秒あれば行ける!


 卵の数は合計で6個。そのうちの2つを持ち帰れば勝ちだ。

 ロックバードに触れないように一瞬のうちに懐まで潜り込む。

 だが、ロックバードは“魔法探知”持ち。つまり、私が自分にかけた魔法のせいで、気づくまでのスピードが速かった。


「1個....もう1個を....!!」


 目の前にある卵に手を伸ばす。だが、魔法に気づいてからのロックバードの方が反応が速かった。

 私の目にも負えないほどスピードで卵を回収し、そのまま飛び去ろうとする。


(なんとか回収できたのは1個だけ....任務失敗は許されない!これは私のプライドの問題だ!!)


 自身にかけていた“隠遁”を解除し、魔力を手に集中する。

 水属性+炎属性+造形魔法の合わせ技....意識を、集中しろ!!


「アドヒージョンウィップ!!!」


 手から放たれた粘着性のロープがロックバードの足に絡まる。そのまま飛び上がったロックバードにぶら下がる形で私も空へと連れていかれた。


「?!アリア!!」

「きゃぁああああ!!!」


 浮遊の魔法を正直高くまでは飛べない。だからこそ、空に一番近い位置まで飛んだ経験のない私は悲鳴を上げてしまった。

 

「ッ....リオさん!キャッチしてください!!」


 空中で振り回されながらも指示を出し、遠心力を利用してさらにロックバードに近づく。

 そして懐まで入った瞬間....


「恨みは無いけどごめんなさい。“空重域(キログラビティ)”」


 手で体に触れた瞬間にロックバードの動きが変わる。自身の体重に飛行能力が耐えられなくなり落下を始めたのだ。

 その瞬間に零れ落ちた卵に手を伸ばし、そのまま2個追加で獲得する。


「やった!!」


 だが目的を達成して気が緩んだのか、接近してきている存在に気が付かなかった。

 唐突に私が繋いでいた粘着性の魔法が溶ける。目の端で確認したが、溶かした要因は炎のブレスだったようだ。


(ということは....飛竜!!)


 真っすぐに向かってくる飛竜。空中では身動きが取れない。


「簡単には食われません!!」


 自身の杖に空間魔法“衝撃(インパクト)”を纏わせ、空中で回転してそのまま飛竜にぶつけた。

 飛竜と杖の間に発生した衝撃波でお互いにノックバックする。そのまま私は山の上から空中ダイブしていった。


「きゃぁぁぁああああああ!!!」

「アリア!!」


 飛び出してきたリオさんが私の体をキャッチする。だが、スピードが死ぬことはなくそのまま地面が目前に迫る。

 私は杖の先端を下に向け、必死にタイミングを計った。


(タイミング....タイミング....ここ!!)


 地面に当たる瞬間に、先ほど纏わせたインパクトを地面に放ちスピードを相殺。そして2人で山を転げ落ちた。

 止まったのは山の下にある大きな木の根元。2人して仰向けに山を見上げていた。


「....生きてるか?」

「....生きてます」

「怪我はないか?」

「かすり傷くらいなので大丈夫です」

「ってことは依頼完了だな?」


 私は仰向けの状態で付近を手探り、手元に卵が3個あることを確認した。


「任務完了です。お疲れさまでした」

「あぁ、お疲れ様だ。相棒」


 仰向けの状態で、私たちはコツンと拳を当てたのだった。


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