第17話 隠れ聖女と銀狼の洞窟
お久しぶりです。また不定期で再開します。
「今日はありがとね!もうなんで素材が必要な時に限って面倒なのが住み着いちゃうかなぁ....」
森の中を歩きながらそなことをぼやくカレラ。
銀狼の洞窟へと進むために北の山に向かう。山の麓にある入り口から山の下に存在する洞窟へと入っていけるのだが、道中には魔獣が存在するため進んで入ろうという人は中々いない。
だが、『銀狼の洞窟』というだけあって得られる素材は一級品な物が多い。洞窟の主でもある討伐級12の魔獣『ヴァナルガリアス』の魔力に当てられた鉱石やらが変化するのだ。
「でも、どうしてわざわざ“銀狼”の住む洞窟にゴブリンが....?」
「“銀狼”ヴァナルガリアス....意思疎通が取れる魔獣とは聞いているが、俺達が入って大丈夫なんだろうな?」
「さぁ?私も入るのは初めてです」
「大丈夫だよー!私何回か入ってるから鉱石の取れる位置は知ってるし、何百年も前の王族との契約で王国には危害を加えられないらしいし。というか、そもそもあの洞窟で銀狼を見たことある人はいないらしいよ?」
どうにも不安と言えば不安だが、今回の依頼はカレラの護衛だ。彼女を守り、鉱石を採って帰ればそれで終わり。つまり、なんら大変なことではない。
「なら、大丈夫....ですかね?」
不安はぬぐえないが、無理やりにでも納得するしかない。
うん、きっと大丈夫。
「あ、着いたよ。あそこが入り口」
「へぇ....意外と狭いんだな」
見えたのは洞窟にしてはそこまで広くない入口。崖沿いにぽっかりと口を開けたその場所から、ダンジョン特有の空気感と風切り音がする。
数こそ多くないものの、私も何回か迷宮には潜ったことがある。そこそこ慣れているとはいえ、未だに緊張するのは経験の浅さからだろうか?
「その鉱石の位置は?」
「んっとね....右の道だね」
「銀狼の洞窟の割に特殊な魔力は感じませんね....ん?」
特に危険なこともなく進んでいく私たちの前に、何かが立ちはだかる。
それは人にしては小さい生物。吊り上がった目・上裸に棍棒・全身緑の体、そして何より額から小さく生える“角”がその存在が何なのかを語っていた。
「早速お出ましですね。戦闘準備です」
「あれが緑小鬼か。初めて見たな」
「2人とも~が、がんばれ~!応援はするから!」
出現したのはたったの5匹。ゴブリンの討伐級は2なので、AランクとCランクのパーティであればなんなく殲滅できる。
先に動いたのはゴブリン。雄たけびを上げながら、私めがけて走ってくる。
「グゴァァアアアア!!!」
ゴブリンは知性のない魔物。だが、何も本能のみで動いているわけではない。恐らく対峙したリオが近接戦闘、構えた私が後方支援とでも考えたのだろう。
パーティ戦の基本として、まず魔法職を倒すのは定石にして常識だ。ゴブリンながらなかなか考えるじゃないですか。
「ま、私を守ってくれるのが普通の前衛職ならですけど」
そう呟いた瞬間、一瞬にしてゴブリンと私の間に入ったリオが一閃。瞬時に2匹のゴブリンを葬り去った。
(リオさんの強さは私がよく知ってます。王国の騎士と比べても、リオさんの実力は頭3つ分は飛び出てる)
リオがグッと踏み込んだ瞬間に、支援魔法“身体強化”と“鋭閃”を無詠唱でかけてリオを強化する。
いつもより早く、一瞬のうちに懐まで潜り込んだリオがゴブリンを更に2匹真っ二つにした。
そのまま最後の1匹を....と切り返した瞬間、
「待ってください!」
と、リオの行動を私が遮った。
結果としてリオの刃が届かない位置で剣は止まり、ゴブリンはその隙をついて奥へと逃げて行ってしまった。
「どうして止めたんだ?」
もっともな疑問。だが、私だって考えもなしに止めたわけではない。
「最後の1匹は、ここで起きたことを上位の魔物に報告に行くと思います。なので、案内人になってもらいましょう」
「上位の魔物....ということはつまり」
「はい。今回のゴブリンの発生には、上位の魔物による干渉が考えられます」
***
「....いた」
洞窟の中でも少し高い空間からゴブリンを見下ろす。淡い青に光る空洞となった空間に、多数のゴブリンとその中でも一際大きい個体がいた。
「あれは?」
「緑大鬼ですね。討伐級は5くらいでしょうか?固有の特性を持ってる可能性がありますね」
「ひ、ひえぇ....怖すぎる....あ!あれだよ!空響鉱!」
「カレンはここにいてください。私たちが殲滅したら呼びますので」
「うん、わかった!」
リオとともに下の空洞に降り立つ。存在に気づいたホブゴブリンが、ゆっくりとこちらを向いた。
「数は20体ぐらいですかね。囲まれると面倒ですが....」
「何言っているんだ?アリアの魔法であれば広範囲殲滅など余裕だろう?」
「あら、信頼されてますね」
その言葉にフッと笑ったリオが、
「俺の背中はお前に預けた。信頼なら、出会った時からしているさ」
「そーですか。なら、その信頼に応えないとですね!」
第2階級炎属性魔法“溶岩炎球”。複数の燃え盛る溶岩の球を生成し、それを操作してぶつけることで対象を燃やす魔法だ。
リオがホブゴブリンと対峙したのを確認したため、私の仕事はリオの周囲にゴブリンを近づけさせないこと。広範囲魔法は味方が集団だと使いにくいが、個vs集団なら話は別だ。
杖を振り回し、その動きに呼応するように炎球が縦横無尽に飛び回る。4体、5体と次々にゴブリンの体に風穴を開け、傷口から全身を燃やし尽くしていった。
すると、隙をついたのか接近してきたゴブリンが数体。
だが、私が近接攻撃ができないなどといつ言った?
杖を使ってゴブリンの腹に一発。そのまま遠心力を利用して1体巻き込み、地面に叩きつけた。次のゴブリンの棍棒を杖で受け、弾いたところを回し蹴りで一蹴。吹き飛んだゴブリンに光属性魔法“小光弾”で脳天を貫く。
ちらりとリオを見ると、既に片腕を斬り落とされたホブゴブリンが忌々しそうな目でリオを睨んでいる。
あちらも決着はすぐにつきそうだ。
こちらも残り数匹。早々に片づけてしまおう。
「風切刃」
溶岩球と複合させ、燃え盛る風の刃と化した攻撃が次々とゴブリンを斬っていく。ものの十数秒で、全てのゴブリンが地に伏せた。
それだけでは終わらず、そのまま刃をホブゴブリンに当てた。
「グガォォオオオ??!!」
裂傷と炎傷によるダメージで呻くホブゴブリン。その隙をついて、リオが左肩から右脇腹にかけてを斬り裂いた。
肉厚と骨の太さで完全分離とまで刃は通らなかったが、それでも致命傷。ホブゴブリンは出血しながら地に倒れた。
「戦闘終了、だな」
「はい。お疲れs....ッ?!」
戦闘が終了し、油断しきった瞬間に気づいた。まだ終わってない。
ボロボロのホブゴブリンが、リオの背後から棍棒を振り上げている。それにリオは気づいていない。
「くっ....!!」
咄嗟に臨戦態勢に入り、前方に魔法を展開する。
(一撃で仕留めなくちゃ....!!)
聖女だとバレる可能性もあるが、カモフラージュならするつもりだ。大丈夫と言い聞かせて、聖属性魔法“簡易聖剣”を展開。
そこに光属性魔法で魔法の質をカモフラージュ、そしてそのまま強化を重ねて射出した。
放たれた簡易聖剣は綺麗にリオを避け、そのまま動くホブゴブリンを串刺しにした。
「ッ?!」
「危なかった....」
ふぅ....と息を吐きながら額に垂れる汗を拭う。正直ギリギリでした。
リオが驚いた様子でホブゴブリンを眺める。魔物を狩るには“聖属性”が特攻だったため、咄嗟に魔法を使ってしまった....バレてないよね?
そう考えた瞬間ーーー
ゾクリ
一瞬にして背後から何者かに睨まれる感覚。
全身が警戒し、冷汗が止まらない。リオもカレラも気づいてない。
つまり....私にだけ?
『ーーー』
え?何....?
『ーーー様....』
全身が発する警告で心臓がうるさい。上手く聞こえない....
『主....巫女様....』
ーーーーッ?!
「かっ....はあっはあっ....」
ふらりと足元がふらつき、呼吸が乱れる。目の焦点が合って無い。急に襲われた寒気から一転、心身が対応できてないのだろう。
そのまま倒れそうになった瞬間、ふわりと誰かが受け止めてくれた。
「大丈夫か?!」
銀髪のイケメンが覗き込んでくる。あれ....フード取れてないよね....
自身の頭に布が被さっていることを確認し、そのままリオを支えにして立ち上がった。心配そうな顔で覗き込まないでください....全くこのイケメンは罪だ。
「....大丈夫です。少し立ち眩みがしただけです」
「回復薬いるか?」
「一応飲みます。多分大丈夫ですけど」
回復薬を飲み、段々と身体が癒されていくのを感じる。
それにしても先ほどの悪寒....思い出したくもないが、それでも脳裏に鮮明に染みついている。
(そしてあの言葉....巫女って、『竜の巫女』様のこと?)
意味が解らない。それに、これほどの威圧感を出せるのはこの洞窟の主たる『銀狼』以外にあり得ないだろう。
「一体何が何やら....」
もう色々ありすぎて頭がパンクしそう。さっさと帰って寝よう....
カレラを呼んで空響鉱を採取し、私たちは『銀狼の洞窟』を後にした。




