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第16話 隠れ聖女と薬屋のお嬢

 月明かりが照らす平日の深夜、第一王女に目を付けられた日から実に3日が経った。

 その日のうちに国王にまで話が通り、そのまま騎士団長のお父様にまで伝わってスケジュールが決定した。

 本人に拒否権は無いらしい。


(結果、平日は毎日指導確定....休日は何とか回避できたけど、正直王族とほぼ一緒は気が気でない....)


 第一王女であるセレナは聖結晶を持っていない。だから自分が聖女であるとバレることはないとは思うが....


「でも....いやだぁ~~~~!!!!」


 机に突っ伏してバタバタと足をばたつかせる。ただ、今更自分がとやかく言っても指導係の役目が変わるわけではない。

 はぁ....と諦めて机に広げた薬草をゴリゴリと擦った。


 最近になって、手持ちのポーションが少ないことに気づいた私は手作りでポーションを作っている。

 調合に必要なのは知識だけで、魔導書を読み漁ったわたしからすれば知識()()はある。ただし経験はやって積むほかないうえ、なにより知識だけでは得られない情報は実際にやってみるしかない。


(ん?この薬草と鉱石....こんな少なかったっけ?)


 そう言って手に取ったのはバルサ草と夜明拍。バルサ草は毒を持った草であり、夜明拍の中和効果でその毒を解毒効果に変える。つまり、これは解毒剤を作るのに必要な素材なのだ。


「あ~....言われてみれば、これ貰い物で自分で取ってきたことなかったですね....」


 王都にあるとある薬屋で、私は薬の勉強をしたことがある。その時に仲良くなった看板娘の子に、レシピと素材を貰ったのだが....


「そもそも解毒剤を使う頻度があまり高くないですからね。ん~また素材を貰えるか交渉しに行ってみましょうか」


 明日は休日、冒険者として活動しようと丁度思っていたところだ。

 どうせ出るなら丁度いいと思い、明日の行き先が決定した。



***



「あれ、リオさん」

「アリアか」

「こんなところで買い食いですか?それとフード、外すことにしたんですね。人だかりが出来てるのですぐに分かりました」


 目の前にいる銀髪のイケメン。串焼きを買い食いしてるところをたまたま見つけた。

 どうやら付けていたローブのフードが壊れたらしく、そこそこ経っているにも関わらず直っていないということは直す気がないのだろう。


 既に周囲にはざわざわと人だかりが出来ている。大半は女性だ。


「アリアこそ、そろそろ素顔を見せてくれてもいいんじゃないか?」

「嫌です。乙女の素顔は隠しておくからいいんですよ」

「そうか。いずれそのフードの奥が見えるときが来ることを祈ろう。

 ところで、今日はどこに行くんだ?冒険者ギルドとは反対方向だが」


 どうやら串焼きを食べながら冒険者ギルドに行こうとしていたらしい。そしたら、ギルドとは反対方向に私が歩いてくるものだから驚いた、と。


「えぇ。少しポーションの補充をしようかと」

「ポーション?いるのか?」

「(どういう意味ですか....)必需品です。回復・解毒・増強などなど....冒険者の多くは魔法が使えません。その為、ポーションで代用するんです」

「アリアほどの魔法使いならいらないものと思っていたが」

「私だって万能じゃないんです。それに、ポーションは持っておいて損はないです。丁度いいので、リオさんにポーションの種類について授業をしてあげます」

「フッ....助かる」


 銀髪のイケメンを連れて、私は例の薬屋に向けて歩き出した。




 十数分歩いて辿り着いた大通り沿いの店。店頭に飾られたポーションからも、薬屋であることはすぐに分かる。

 “アデルネーゼの薬屋”ここが私たちの目的地だ。

 リオが珍しそうに見あげている間に扉を開けようとする。すると....


「ありがとうございました。また来ます」

「おじちゃんバイバーイ!」


 そう言いながら出てきた母娘とすれ違う。先に譲り、開いた扉をくぐって店内に入った。


「アァ....?いらっしゃい」


 黒いサングラス、スキンヘッド、ゴリゴリの筋肉、いわゆるマ〇ィアと呼ばれそうな雰囲気の男が、こちらを睨む。

 そのあまりの迫力に咄嗟にリオが剣を抜こうとする。が、私がそれを諫めた。


「お久しぶりです。セルフォードさん」

「....?あぁ、アリアちゃんかぁ~!久しぶりだね~!」

「??!」


 私を見た途端に態度がコロッと変わるスキンヘッドの男。よくよく見たら、カウンターに隠れていたのはピンクのエプロン姿だった。


「おいそこのお前、店内での戦闘はご法度だ。ミンチにされたくなきゃその剣から手を放しな」

「リオさん、彼はこの薬屋の店員です」

「あ、あぁ。すまない、店員だと知らずに無礼を働いた」

「あぁいいよ。こんななりだと誤解されやすいからな。なんだアリアちゃん、ついに男を引っ掛けてきたのか?」

「不本意です。カレラさんはいますか?」

「お嬢なら上で調合してるぜ。あ、でも3徹してるかも....」


 セルフォードに「上がりますね」と一言言って、店の奥へと進んで行った。


「ちょいと待ちな。お嬢がどんな格好してるかわからねぇ。お前さんはここにいな」


 セルフォードに止められたリオが、仕方ないというように店内に残る。私は階段を進み、2階へと進んで行った。

 一番奥の部屋の扉をノックする。


「カレラさん、入りますよ」


 ガチャリと開けて中に入ると、開かれた窓から入る風がフードをなびかせる。

 散らかった資料、沢山の薬草や鉱石、調合途中の壺やフラスコなど散らかった部屋の奥にある木製のデスクに、彼女はいた。

 赤い髪色にあどけない顔立ち、茶色いエプロンを纏った彼女は机に突っ伏してすぅすぅと寝息を立てていた。


「んぅ....?」

「起こしちゃいましたか?おはようございます。カレラさん」

「ん....ふわぁ~....あれ、誰ぇ?」

「私です。ライラです」


 フードを取り、顔を見せる。


「あれぇ?ライラちゃんだ?」

「おはようございます」

「ん、おはよ~。今日はアリアスタイルなのね。で、どうしたのさ~?」

「解毒ポーションに使うバルサ草と夜明拍を少し分けていただきたくて」

「おっけ~すぐに準備するよ。ちょっと待っててね」


 欠伸をしながら立ち上がったカレラは備え付けの扉から隣室に入っていく。数分待って、着替えたカレラが材料を持って出てきた。


「ん、これでいい?」

「ありがとうございます。これでまた調合が出来ます」

「いいよいいよ。私たち姉妹弟子じゃん?....ところでライラちゃん、材料を分ける代わりに1つお願いがあるんだけど」

「何ですか?私に出来ることなら」

「実はね、北の方にある“銀狼の洞窟”で採れる“空響鉱”が欲しんだけど、最近どうやら緑小鬼(ゴブリン)を見た人がいたらしくてね?1人で採りに行けないんだ」


 要するにその鉱石を採りに行くのに護衛が必要とのこと。

 ゴブリンは魔族と魔獣どちらにも該当する少し変わった種族だ。今回は“魔獣”側のゴブリンなのだろう。


「わかりました。その役目、引き受けます。報酬はこれで」


 そう言って掲げた袋の中に入っている夜明拍がジャラジャラと音を立てる。


 その返答で笑顔になったカレラが準備をするために隣室に引っ込み、私は事の説明をするために下に行こうとした。


「あ、カレラさん。私のことは“アリア”と呼んでください。素性がバレると色々と面倒なので」

「ん~?おっけ~。下に誰かいるんだね?任せておいてよ!!」


 微笑んだ私はそのまま階下に降りて行った。


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