第14話 隠れ聖女と手配犯
「どしたどしたぁ!!逃げ回ってばかりじゃ倒せねぇぞ!!」
廃墟だということも忘れ、豪快に拳を振り回して暴れるグランデス。身体強化・簡易風域・微風による空中浮遊....これらを使って避けてはいるが、相手のポテンシャルの方が高く反撃に出れない。
(体術は出来ますがリーチが違う....同じ土俵に上っても経験の差が顕著に出るから、下手に反撃に移れないのがもどかしい)
だが、ただ逃げ回るだけで終わるはずがない。グランデスは知らないだろうが、こっちとて歴戦の冒険者。踏んだ場数なら引けを取らない。
「そこっ!!」
「ぬッ?!」
足元から生えた蔓のような木の根。樹魔法による拘束トラップに引っかかったのだ。
足元かラ這いずるように絡みついていく木の根。だが、その根がグランデスの胸元まで行く前にその全てが消滅してしまった。
「?!」
「驚いたかよ魔法使い!お前が俺に勝てねぇってのはこういうことだ!」
そう言ってバサッと開いた前開きの服から見えたもの。それは銀色の縁に目のようなものを模った“何か”だった。
「これは“邪眼”だ。俺を逃がしてくれた奴からもらったものでよ、1つだけ『願った事象を本物にしてくれる』代物なんだとよ!
俺が捕まった時、相手にいた魔法使いにてめぇと同じように罠を張られてな。その隙をついて捕まっちまったっつう情けない話だ。
だからこそ、同じ轍は二度踏まねぇ!!俺には魔法は効かねぇよ!」
“邪眼”....聞いたこともない。だけど、名前だけでもそれが良くないものだってのは分かる。
魔法無効の加護、確かにそんなもので守られているのなら魔法使いとしては不利どころか最早ゲームオーバーだ。
「なるほど。あなたのその絶対的な自信は、『私が女だから』という理由での驕りではないようですね。
少しあなたのことを勘違いしてました。今まで会った盗賊たちは皆、私の体格と性別を聞くとなめてくる奴ばかりでしたから」
「安心しろ。お前は強い。この邪眼が無ければ危なかったかもな。強者は相手と技で語り合う!見た目が性別がと騒いでる時点で三流よ!!」
「でしたら、私も少し遊ばせていただきますね」
そう言って杖をクルリと回転させ、自分の正面に横にして構えた。
グランデスは不思議そうにこちらを窺っていたが、むしろ何が来るのかという高揚感からか手を出してくることは無かった。
私は魔力を右手に宿して光らせ、そのまま浮かぶ杖を右手でなぞる。
光り輝く魔力に包まれた杖はその形状を変えていき、そしてある“形”を模った。
そして柄と思われる部分を掴んだ瞬間、一気に光がはじけ飛びそのなかみが露わとなる。銀色に輝く刀身、真っすぐに伸びた刃、クリスタルのような透明感を思わせるほど洗練された色の銀の柄。
構えたのはレイピア。私の杖が変形した、白銀のレイピアだった。
***
廃墟を駆ける大男と少女の二人。体格・攻撃力・防御力....どれをとっても男に少女が勝てる可能性は無いと思えるほどの戦力差。
だが、圧されているのは男の方。小柄な体を生かした錐揉み回避に、1発は弱くとも的確にダメージを与える手数の多さ。
回避し、翻弄し、攻撃して、引く。レイピアを取り出した少女が完全にこの戦場を支配していた。
「チィッ....!!」
「遅いです」
繰り出された拳をすれすれで躱し、そのまま懐に踏み込んで斬りつける。1度付けた傷に追い打ちをするように、そして意識を裂けるように新たな場所員傷を付けて。
バックステップで下がったグランデスが膝をつく。出血量が酷く、息も切れ切れだ。
「ぜぇ....ぜぇ....てめぇ、魔法使いじゃなかったのかよ....!!」
「剣の心得もあるということです。心が折れたら大人しくすることをおすすめします」
「は....ははは....はははははははは!!確かに、俺は劣勢だが....これがあることを忘れてもらっちゃ困るぜッ!!」
取り出したのは先ほどの邪眼。魔法無効の願いがある以上、私の魔法は意味をなさない。でも、魔法が無効化されても剣術で圧せている。そんな物を取り出して今更何をしようというのか....
「邪眼よッ!!!俺の願いに応えろッ!!圧倒的な力を!目の前の強者を倒すだけの力を寄越せッ!!!!!」
その根がいい呼応するように禍々しく光りだす邪眼。今すぐに止めなければと思ったが、その禍々しいオーラで近づけない。
「来たぜ....来たぜ来たぜ来たぜェ!!!もうお前でも俺は止められない!」
眼が赤く変わり、最早口からよだれが出ることすら気にせずにこちらを睨む。体は一回り巨大化し、髪は伸び、荒く息を吐きだした異形の姿。
身の毛もよだつその姿に、さすがに私もゾッとした。
「オラァ!!!!」
「くっ....!」
襲ってきたグランデスを辛うじて回避。だが....
(速ッ....!!!)
すぐさま反転して襲ってきたグランデスの攻撃が私を捉える。
そのスピードと重さに回避もままならず、私は捕まって壁に打ち付けられた。
「かはッ....」
「捕まえたぜ」
両腕を掴まれ、剣を落とした私を笑いながら見下ろすグランデスを睨む。
「おいおい、まだ反抗的な眼をしてんのか?安心しろ。お前を殺した後にあの男もあの世に送ってやるからよ」
「うぐっ....!!?」
さらに力を込められた両腕から変な音が鳴る。ミシミシと骨にダメージが入っていくのが両腕から感じ取れた。
この野郎....乙女の腕を何だと思ってるんですか....!!
だが、現状“詰み”であることに変わりはない。邪眼で強化されたグランデスに私は追いつけなかった。この状況を打開するには、捕らわれた人々を助けたリオさんが倒してくれるという可能性に賭けるしかない。
(恐らくですが、リオさんでも勝てません。これは....詰みですね)
諦めがいい方ではない私ですら、これは無理だと判断した。
人生....短かったなぁ....
「終わりだ。じゃあな、魔法剣士。お前は強かったよ」
振り上げられた拳が迫りくる。
本能的に目をつむったその瞬間ー--
ガキィンッ!!!
「うおッ??!」
唐突な衝撃波と共に両腕が解放された。何事かと薄っすらと目を開けると、目の前には吹き飛ばされたグランデスがもがきながらのたうち回っていた。
「一体....何事なの....?!」
状況を理解していない私だったが、すぐにグランデスを吹き飛ばしたものの正体が分かった。
それは光り輝く左手の甲。赤く刻まれた紋章が、手袋の上から輝いていた。
「ぐぅあぁぁああああ!!!!て、てめぇ....何だその光はッ!!くそっ....!!体中が....焼けるように痛ぇ!!!」
「紋章....邪眼....そっか、そういうことですか」
わかってしまった。まだ道はある。
自分に治癒魔法をかけて痛覚減少と疲労麻痺の効果を重ねる。少しは回復したおかげで剣を振り回せる程度には動けるようになった。
(あの邪眼に対抗できるのは“光の魔法”だけ。そして、光の魔法は聖女の専売特許です)
自分自身を“聖女”であると認めるのは心底腹立たしいが、今はこの力のおかげで助かったし、突破口も開けたので良しとしよう。
光の魔力をレイピアに付与する。
「やめろ....!止めろやめろヤメロォ!!!こっちに....来るんじゃねぇええええええ!!!」
最早正気を失い、訳も分からぬまま突進してくるグランデス。
(哀れな強者よ....せめて、私の光で安らかに浄化されなさい)
身体強化・風域・そして感度強化でこの一撃に向けて全ての力を注ぐ。
グランデスの一撃が入る直前にその拳を強烈な一撃で弾ね退く。そのまま1歩踏み込んで刃を向け....
「はぁぁああああああ!!!」
雄たけびのまま邪眼ごとグランデスにの体を斬り裂いた。
邪眼が割れ、前面から出血し意識を失っていくグランデス。彼が倒れ、廃墟はその振動に揺れた。
さすがに強すぎた。魔力も枯渇しそうな状況でぺたんと座り込み、ぜぇはぁと息を吐く。
(リオさんは....大丈夫でしょうか....)
満身創痍だが、行かないわけにもいかない。ボロボロの体に鞭打って廃墟の奥へと進んで行く。
扉の向こうから聞こえる男の声。リオのもので間違いないと扉を開ける。そして中で見た光景は....
「あの、助けてくれてありがとうございます!お礼とかしたいんですけど!」
「あ、あの....彼女とかっていますか?!」
「村に帰ったら是非家に!!」
「ちょっと!ずるいわよ!」
先ほどまでの様子とは打って変わって真っピンクな空間。リオが困ったような顔をしながら無数の女たちに囲まれていた。どうやら、こちらには気づいていないらしい。
(私が....せっかく頑張ったのにこの男は....)
そう思うのも仕方がないが、リオも内心困っているのだろう。ただこういった状況に対応できないのか女性陣を止めようとするのに必死だ。イケメンの癖に。
扉を開けた時点で何かが切れたように力が入らなくなる。
私はそのまま扉ごと前にふらつき、部屋の中で倒れた。薄れゆく意識の中、リオが必死に呼びかける声が聞こえる。
こうして私は、そのまま意識を失ったのだった。
全くこのイケメンは....です




