第12話 隠れ聖女とリオの実力
こちらに気づく吸血鼠の群れ、それに呼応するように剣を抜くリオ。
私も戦闘しないわけにはいかないため、そのまま杖を前に構えた。
「視認できるだけでも20以上....リオさんは好きに突っ込んでください。私はバックアップに徹します」
「好きに行っていいんだな?」
「はい。どうぞお好きに」
「任せろ」
獰猛な獣のような目で鼠を睨むリオ。その視線が向けられたのが自分ではないとわかっていたが、さすがの私も背筋に寒いものが走った。
(顔は見えなくても今どんな顔をしているかくらいは分かります。あれは....笑ってる)
駆け出したリオに向かって、数匹の鼠が突進してくる。
吸血鼠は名前の通り血を吸う鼠だ。サイズも少し大きく真っ赤な瞳が特徴であり、血を吸うという性質上家畜や人的被害も多い害獣でもある。
向かってきた鼠に対して剣を一振りする。牙を向け、襲い掛かる鼠を一瞥もせずに斬り裂いた。
鮮やかすぎるその一挙手一投足は、私がン慣れ親しんだその動きにとても似ていた。
(王国式戦闘術....?いや、似てはいるけど何かが違う。我流なんでしょうか....?)
そう思考している間にもリオは次々と鼠を屠っていく。既に5匹以上の鼠を狩った後だった。
私もうかうかしてられないと風を纏わせた杖を大きく振り、カーブを描いて発射した風がリオの側面から攻撃しようとする鼠を斬り裂いた。
「ん....!」
「フード、見にくいんじゃないですか?」
その言葉に少し動揺したようだったが、小声で「助かった」と呟くと戦闘に戻って行った。
意外とお堅い人なのですかね....と思いつつ、リオの身体能力にバフをかけ、極力邪魔にならないように水魔法でぬかるみを作って足止めしたり、風魔法のカッターで攻撃して後方支援に徹した。
(リオさんの戦闘能力は十分すぎるほどですね。これならAランクなんてあっという間に来れます。
そもそも、この鼠はそこそこ皮が固いから的確な角度で刃を入れないといけないのに、それをすぐに見抜いていとも簡単にやってます)
そして残りが3匹となった時、走っているうちに崖際へ追いつめた鼠が威嚇してくる。
「背水の陣、だな」
「魔獣に意思はありませんから情けを駆ける必要はないですよ」
「そうか。なら苦しまないようすぐに狩る」
その瞬間、2匹がリオに飛び掛かる。
突然すぎた行動に素早く対応したリオが剣で受けるが、その間に最後の1匹がリオの股の下を抜けて森へと走って行ってしまった。
「アリア!!」
「わかってます!!」
すぐに踵を返して後を追う。以外にも足が速く、視界の外へと消えて行ってしまった。
(逃がした....でも、吸血鼠は一度補足した獲物は絶対に狩ろうとする習性がある。多分この先にいるはず)
警戒は解かずに進んで行く。リオの斬り捨てた鼠の死骸があるのかと思いきや、意外にも少なかった。だが、斬り捨てた数よりも死骸の数が少ない。それが表す事実は明白だった。
「面倒くさいことになりそうです」
「アリア!逃げた奴は」
「リオさん。この先にいます。でも、これを見てください」
見せたのは何かの骨。サイズからして先ほどの鼠のものとみて間違いない。
「この骨がどうかしたのか?」
「吸血鼠が血を吸うのは、成長するためと同時に力を蓄える為でもあるんです。つまり、今まで斬り捨てた分の鼠の死骸の内、肉まで食われてる死骸が多いとなると....」
そう話した時、ズズン....ズズン....と森に響く足音。バキバキと気をなぎ倒して現れたその生物の方を見る。
その目は4つに増え、最早原型をとどめていないほどに巨大化した鼠のなれ果て。
まさに“魔獣”と呼べるような存在がそこにはいた。
「ギシャァァァアアアア!!!」
「討伐級6くらいでしょうか?」
「これは追加報酬が出るんじゃないか?」
「どうでしょうね?ま、このまま放置するわけにはいかないので倒しますが」
そう言った瞬間にいの一番に駆け出したリオが剣を振るう。まっすぐに首に向かって行った刃だったが、瞬時に横から出てきた何かによって弾かれた。
「くっ....!」
「リオさん!!風柔息!」
リオの着地点に風域によるクッションを作って受けとめる。
リオを弾き返した“何か”それは....
「流石は吸血鬼の眷属ってところですか....!!」
自身の傷から滲み出た血が刃の形となり、鼠の両腕から計4本もの血の刃がこちらに向けられていた。
「ギシャァァァァァアアアア!!!」
「吸血鬼の眷属....って何のことだ?」
「今はその話は後です。これの討伐は少し骨が折れそうですよ」
鼠は四足歩行で駆けてくる。途中、構えた血の刃をブンブンと振り回して周囲の木を切り倒しつつ、雄叫びを上げてこちらを睨んだ。
「リオさん、作戦があります」
「聞かせてくれ」
「.......」
鼠との距離が少し空いているのをいいことに小声で作戦を話した。リオはその作戦を聞いて、すぐにこくんと頷いた。
「了解した。バックアップを頼む」
「はい、任せてください」
リオが鼠の刃を受ける。受けた瞬間に側面から襲い掛かる別の刃を見て、受けていた刃を再度に受け流してそのまま跳躍。空中で体をひねって刃を弾き返した。
「強くはなっても、所詮は血の刃だ。本物の刃と比べれば....脆い!!」
リオの件が紅く輝く。炎魔法“熱伝導”を高火力で付与したもの。魔法の付与は順当に行けば高等技術に値する技術なのだが、惜しげもなく使っていく。
高温に包まれたリオの刃が血の刃を溶かし、そのまま空中で回転して鼠の片腕を斬り裂いた。
「ギィシャァァアア!!??」
片腕を切り落とされた痛みか驚きかは分からないが、鼠が悲鳴を上げて仰け反る。
その傷口が見えた瞬間に、後方にいた私が貯めていた空気砲を鼠の傷口めがけて発射する。
その空気の塊が傷口から体内に入っていく。
最初は何が起こったのかわからないのか戸惑っていたが、急に鼠が苦しみ始めた。
「ギュエッ....ギヤ....!??!」
「空気塞栓って知ってます?魔獣に言っても解らないとは思いますが」
“空気塞栓”とは血管の中に入った空気が栓となり、血流を止めることを言う。
止まった血流は流れた血を溜めていき、空気の塊を操作して首筋であえて止める。段々と首い溜まっていった血によって首筋部分が内側から膨らんでいき、形を整えられなくなった血の刃がびちゃびちゃと音を立てて形を崩した。
だが、ただではやられないと口から血の弾を吐いてリオを攻撃する。
「?!リオさん!!」
一瞬のことではあったが、リオはそれを間一発で避ける。その時、リオのフードが取れた。
そして見えたリオの顔。白銀の短髪に金色の瞳、その顔立ちはどことなく第2王子に似ていた。
「悪いな。恨みは無いが、消えてくれ」
横薙ぎ一太刀。薄くなった血の塊部分から首を落とした。
ブシャァァアアアアと吹き出した血が森を赤く染めていく。魔獣の血と肉は特殊な液体と混ぜなければ蒸発して消える。その為、斬り裂いた鼠の肉がサラサラと空気となって消えていった。
「戦闘終了、ですね」
「....俺の実力は証明できたか?」
リオが私に聞いてくる。どうやら、リオの実力を計るためにあえて仕向けたことに感づいていたらしい。
「十分ですよ。これからもよろしくお願いいたします」
「あぁ、よろしく頼む」
何度見ても第2王子にそっくりだ。だが髪色も瞳も違う。それだけで判断するのは失礼だと思い、その言葉をぐっと飲み込むのだった。




