第11話 隠れ聖女と採取クエスト
「....で、最初の依頼はなんだ?」
「薬草採取です。冒険者になりたての新米が必ず行うクエストで、まずは“自然”という危険を学ぶために行います」
「魔獣討伐とかの依頼ではないのか?」
「メルトさんも言っていましたが、『冒険者というものを知らなさすぎる』は冒険者に対する価値観や考え方が本来のものとは違うという意味を表します。
つまり、リオさんの考えている“冒険者”は、実際の冒険者とは少し違うということです」
西の森の中を歩きながら、私とリオはそんな話をする。
少し俯きがちになりながら考えていたリオは、低く「うむ....」と困ったような声を出していた。
大抵、“冒険者”という言葉で思い浮かぶのは『野山を駆け、魔獣を狩り、依頼を受けて報酬をもらう傭兵のようなもの』と考える人が多い。
だが、ロジックこそあっているものの実際は規則と実力によって纏められた“軍団のようなもの”だ。
だからこそ野宿などのサバイバル技術から報酬の駆け引き、依頼に対する絶対的信頼感や薬草・魔獣の扱い方まで依頼を通して学ぶ。
ギルドは各国に根を張る巨大組織。人界最大国のエキドナ王国でさえ、冒険者ギルドを支配下に置くことなど出来ない。だが、ギルドのトップが『人界の実権を握る』などの支配行為に興味のない人物で助かった。おかげで今まで対等な立場で各国とギルドは連携しているのだから。
だからこそ、冒険者に課せられた規則は多い。それが一種の“軍団”と呼ばれる所以でもある。
「つまり、まだリオさんは冒険者という存在に成れていない。
だからこそこうして知識と経験を依頼で得て、冒険者に成っていくんです」
「....思っていたより不思議な世界だな」
「想像と違いましたか?」
「まぁな。だが、悪くない。こういった鍛錬や経験というのは必ず役に立つと知っているからな」
(だいたい『初めは薬草採取』と聞いた初心者は嫌な顔をするもんですが....リオさんはやっぱり何かが違いますね。なんというか....肝が据わってます)
正直、薬草採取なんてつまらないクエストの代表格だ。でも、リオはそんな顔1つせずにクエストを遂行しきるつもりだ。
冒険者は、本人が語らない限りプライベートの詮索は禁止となっている。だから私が、リオさんの過去やどういった人物なのかについて深く探りを入れるのはいけない。
ちょっとだけ聞きたい気持ちはあったが、ぐっと堪えた。
***
しばらく歩き、目的の場所が見えてきた。
そこは大きな滝から供給された水で出来た泉。周辺には釣りスポットなどもあり、釣り専門の業者などがたまにここにいたりする。
泉の透き通るような水は空の色を反射し、そこに揺らめく魚の影が水面を波打たせて雲を動かす。
「着きました。ここが採取ポイントの『乙女の泉』です」
「これは....すごいな。中々に絶景だ」
「童話『鏡の乙女』の舞台のモチーフにもなった場所ですね。目的の薬草である“セシリアの花”はこの先にある滝の下に咲いてます」
泉に繋がる川を1分ほど上ると、そこには崖沿いに落ちる大きな滝があった。そして溜まった水の周りに、確かに白い花がいくつか咲いているのが見える。
「あれがセシリアの花です。あれを20個採集して、ナタク村にいる薬師に渡せば完了です」
「王都の冒険者ギルドではダメなのか?」
「今回の依頼は新米用のF級依頼ではなく、リオさんに合わせたD級依頼です。セシリアの花は、討伐級4レベルの魔獣を惹きつける効果があります。魔獣との戦闘は恐らく避けられないからこそ、少し高めの依頼となっているのです。
仮に王都で手渡した場合でも、どちらにしろ直接持っていくように追加でクエストが出るでしょう。
なら往復する分の体力が勿体ないので直接持って行った方がいいです」
「依頼書に『遠征が可能な方』と追記してあったのはそのためか」
「私もかつてやったことがありますが、あの時は王都に持っていって結局また出る羽目になりました。今回の同じパターンでしょう」
私が一度経験した事例があるのだ。リオも納得したようだ。
リオは回収したセシリアの花の茎をひもで束ねて結び、冒険者ギルドから支給された『魔法書』を読んで覚えた思念鞄にしまった。
「さて、ナタク村は森を出てさらに西です。街道がありますし、王都からそこまで離れていないので夕方には帰れるでしょう」
(まぁ、一部懸念事項を除けばですけど....)
懸念事項は分かりやすい。セシリアの花の副作用は先ほど話した通り、『討伐級4レベルの魔獣を引き寄せる』というものだ。
討伐級4はD級冒険者で討伐可能なレベル。この採取クエストが依頼難度D級である理由がそれだ。
「夕方には帰れるくらいなのか。ならまだ昼前だし、迅速に行ってしまおう」
「リンリーさんが言った話だとリオさんは魔法適正が高くないんですよね?強化魔法とか使えるんですか?」
「最低限の魔法くらいは使える。後は炎属性魔法もな」
「なら....そうですね、すぐに済ませてしまいましょう。身体強化と体力増強の魔法をかけてください。そこに追加で強化をかけます」
そう言うと、リオは自身に“肉体強化”と“体力増強”の魔法をかける。その所作がスムーズだったことからおそらく使い慣れてるなと思いつつ、私は私のやるべきことをする。
(詠唱魔法は久々ですね)
「逆巻く風よ、流れし自然の摂理の中に、我らの魂を乗せ給え“風流駆動”」
詠唱と共に杖の下端を地面につける。すると、巻きあがった風がリオと私の足に絡みついた。
風圧はあまり強くなかったので、お互いのローブがめくれることは無かった。
「これは?」
「風属性魔法です。局所部位に風域を付着させて、移動速度と空中機動を強化します。さ、行きますよ」
そう言いながら駆け出す。リオは風域の強化による駆動強化に驚いていたが、すぐに感覚を掴んだようで私の後を追いかけてきた。
私はあまりスピードは出していなかったが、それでもかなりの速さで森を駆けていた。リオはそれにしっかりと付いてくる。
(このスピードに付いて来れますか....体力や適応能力は高そうですね。あとは戦闘面を確認したいです)
そう考えながら、本来進む方向とは少しずれた方向に進んだ。
この先には討伐級3の魔獣“吸血鼠”の群れがいる。
ギルドマスターのメルトから「ついでに駆除してきてくれ。依頼はあるから達成したら追加報酬もあるぞ」と半ば無理やり受けさせられたのだ。
(まぁ、今後本当にパーティを組むのなら戦闘力は知っておいた方がいいですからね)
目の前に見えてきた吸血鼠の群れ。それに気づいたのか、リオの雰囲気がピリピリしてくる。戦闘スイッチが入ったのだろうか。
「前方に吸血鼠の群れがいます。恐らくセシリアの花に引き寄せられて襲ってくるので、迎え撃ちましょう」
「....あぁ。任せろ。前衛は引き受ける」
お互いに臨戦態勢に入り、そのまま数十匹といる鼠に向き合う。
私はリオさんの後ろにいるのをいいことにニヤリと笑い、
(さぁ、お手並み拝見です)
と心の中で呟くのだった。




