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第108話 聖女姫と騎士王子のお買物《セレナ視点》

 〜竜迎大祭の数日前

 王都ドラグニアのど真ん中に佇む王城の中を、るんるん♪とスキップしながら進む。

 私は今日という日が楽しみで仕方がなかった。もっと言えばさらに数日後が本番ではあるのだが、今日はその為の準備が完了する日。尊敬するあの方が喜ぶ姿を想像すると思わずにやけてしまう。


「ふふっ♪ライラ様喜んでくれるかな〜♪」

「セ、セレナ様!あまりはしゃがれては転んでしまいます〜!(汗)」


 お付きのメイドが慌てて追いかけてくるが、そんな静止今の私には効かないもーん!

 スキップは止まらずむしろ段々と加速している。あはは♪ライラ様の喜ぶお顔が見られれば多少転けても全然大丈夫!

 うきうきしながら王城内の廊下をスキップし、そして案の上転けた。倒れていく最中、遅くなったように感じた時間の中でも私の笑顔は剥がれない。「わー」と満面の笑みのまま床に顔面ダイブした。


「へぶっ!」

「セ....セレナ様ー!!!!」


 メイドの絶叫が王城内に響き渡った。


「....何をやってるんだ?」


 赤くなった顔を上げると、目の前には何とも言えない不思議そうな顔をしたレオお兄様が立っていた。

 竜迎大祭は国を上げてのお祭りだ。開催されるメインは王都だが、国の各地で同じようなお祭りが小規模で開かれているらしい。それでも、やはり王都のお祭りを楽しもうと各地から大量の人が押し寄せる。

 そうなると当然宿の数も足りなくなる為、学園の敷地内に存在する別館を一時的な宿として貸し出すのだ。外部からの人の出入りが激しくなる為、学園は大祭期間中の授業が無くなっている。

 その為、今は一時的に私もレオお兄様も王城に戻ってきてるのだ。


「大丈夫か?セレナ」

「あひがとうございまふ....ズビッ....もう大丈夫です!」

「それならいいが....後で医務室に行くといい。それと、何をそんなに浮かれていたんだ?」


 見られてたらしい。完全に浮かれてて気が付かなかったが、私は王城の中をスキップしながら駆け回っていた。どこかで見られていても不思議はない。


「今日、頼んでいたオーダーメイドのアクセサリーが完成したんです!それを受け取りに行くのが楽しみで♪」

「そうか。セレナがアクセサリーとは珍しいな」


 確かに私はアクセサリーを滅多につけない。式典などで着飾るときは付けることがあるが、それでもせいぜい首飾りや腕輪くらいなものだ。

 そんな私がオーダーメイドで作るほどのアクセサリーだ。レオお兄様が興味を示さないはずがない。

 でも、そのアクセサリーを付けるのは私ではない。


「そうですね〜。でも、きっと似合うと思うんですよ!」

「どんなのかは分からないが、セレナならきっと似合うと思うぞ」

「え?」

「ん?」


 あーそうか。誰が付けるのかを説明してなかったですね。


「このアクセサリーを付けるのは私ではないですよ?」

「なら....誰が付けるんだ?」

「ライラ様ですよ」

「プレゼントということか?」


 うん?レオお兄様もしかして気づいてない....?


「そうですよ?というか、レオお兄様は何も用意してないんですか?」

「用意....?ライラにか?」


 あ、レオお兄様完全に知らないやつですねこれ。しょーがないですね....何も知らないレオお兄様に私が教えて上げましょう!ええ!とても気分がいいので!!


「レオお兄様....」

「なんだ?」

「竜迎大祭の最終日、ライラ様のお誕生日ですよ?」


 私はこの日、レオお兄様が今年一番驚いた顔を見た。それはもう....ギャグのように面白い顔だった。




***




 ガタゴトと小刻みに揺れる馬車の中、窓の外を眺めているレオお兄様を見た。正面に座るレオお兄様は冷静を保っているように見えるが、内心焦っているのだろう。外を眺めている瞳が揺れているのが見えた。


「レオお兄様....」

「....なんだ?」

「流石に焦り過ぎでは?」

「うぐっ....」


 少し低い唸り声で反応するレオお兄様。たらーっと垂れる汗が、その焦りを物語っていた。


「ホントに知らなかったんですか?ライラ様の誕生日」

「....ああ。聞いたことが無かった」

「良かったですね。過ぎる前に知れて」

「セレナには感謝しないな」


 ぽんぽんと優しく頭を撫でられる。えへへ....嬉しい。レオお兄様とは本当は兄妹ではなく従兄妹なのだが、私はレオお兄様のことを本当の兄のように慕っている。ラインハルトお兄様とはあまり接点が無い分、レオお兄様のことを信頼しているのだと思います。


 窓の外を眺めると、大祭まで数日という事もあり街の人々は活気だっていた。王都は年中賑やかな場所だが、やはり大祭周辺の日はいつも以上に雰囲気が賑やかになっている。建物から建物へとかけられたデコレーションや、様々な飾り物が街中を彩っていた。

 毎年参加している竜迎大祭だが、今年はいつもと違って1人ではない。ライラ様やカレンさん、あとはリーアちゃんもいる。もちろん学園の友達も含め、今年は楽しくなりそうな予感がしていた。


 そうこうしている内に馬車が停止する。やってきたのは現王妃である叔母様御用達のお店、メロウリア。ここのメインは服なのだが、装飾品関係の制作も承ってくれる幅の広さが売りの店だ。

 その創作幅の広さや、女性受けのいい服やら装飾品を次々と売り出しているおかげか今では国内トップの服飾店にまで上り詰めた店。

 ライラ様も普段服はここで買うことが多いと聞いていたので、多少値は張るがメロウリアにオーダーメイドの装飾品を頼んだのである。


「ここは....マクリールでも訪れた事のある店だな」

「あーライラ様とデートした時ですか?」

「デー....あぁ、そうだ」


 少し言葉にするのを躊躇ったようだが、その言葉で何かを考えるようにレオお兄様は腕を組んだ。

 そんなレオお兄様を置いて店の中に入る。すると、いつも対応してくれる店員さんが話しかけてきた。


「あらぁ〜セレナ様〜!ようこそおいでくださいましたわ〜!相変わらず可愛いわね♡」

「お久しぶりですぺぺさん!依頼してたのできてます?」


 彼....いや、()()の名はぺぺロット·メロウリア。派手な格好だが対象的に少ない装飾品で上品に見せ、男性でありながらも細身の体は服で隠れているが、実は単なる細マッチョであることも知っている。

 東の領地であるティルナノーグ領で発足したメロウリアは、ある日を境に急激に成長し始める。元々ティルナノーグ領内では有名だったようだが、オーナーであるぺぺロットと“とある人物”の協力で国中で人気の有名店にまで上り詰めたのだ。


 ぺぺさんと出会ったのは叔母様とお母様が王宮にいる時だ。出張販売でぺぺさんが来ていたのをたまたま見かけ、そこからお買い物に混ざったのがきっかけだ。

 最初こそ、男性でありながらメイクにオネェ口調のぺぺさんのことを不思議に思ったが、今ではぺぺさんの事を尊敬までしている。


「....女....いや、男か....?」

「あらぁ?そこのイケメンは誰〜?」

「レオお兄様です!ほら、ぺぺさんにご挨拶してください」

「あ、あぁ....エキドナ王国第2王子のレオンハルト·アヴァロンという。以後よろしく頼む」

「あら!リアル王子様!あたしはぺぺロット·メロウリアよ。よろしく頼むわね〜」


 差し出された手をお兄様が握り返す。その瞬間、蛇のようにスルリと腕伝いにレオお兄様の体を弄る。唐突なことに驚いて硬直するお兄様。だがその体を弄るぺぺさんの動きは止まらない。


「ちゃんと鍛えられてるわね〜。普段から鍛錬してるのかしら?」

「そ、そうだな。一応騎士団に所属している」

「なるほど〜?学生なのに現役騎士なのね?それならこの筋肉にも納得だわ〜」

「そろそろいいか....?」

「あら、ごめんなさいね。改めていらっしゃい。今日はどういった御用かしら?」


 パッとお兄様から離れたぺぺさんが優雅に礼をする。私だけならまだしも、レオお兄様が来ることは予想外だったのだろう。


「私は頼んでたオーダーメイド品を受け取りに来ました」

「あーあれね!出来てるわよ〜!」


 ぺぺさんが周りにいる店員に指示を出し、指示を受けた店員がパタパタと店の奥に消えていく。しばらくして戻ってくると、シンプルながらも高級感溢れる箱をぺぺさんに渡した。

 ぺぺさんが箱を開けてこちらに見せる。中に入っていたのはブローチだった。ライラ様の瞳と同じ蒼のブローチであり、真ん中の宝石は魔力によって色彩が変化する魔鉱石:ビレライトを採用している。


「わぁ!綺麗です!」

「セレナ様の要望どおり、付けやすく目立ちにくいサイズにしたわ。でも、もう少し大きくできたけどいいの?」

「はい!プレゼントするのはライラ様ですので」

「あら〜確かにあの子の誕生日だものね!それならこの位のサイズで丁度いいわね!」


 メロウリアをこれほどまでに有名にした張本人は、オーナーであるぺぺさんともう1人いる。それがライラ様だ。メロウリアのデザインと技術に惚れ、ライラ様がぺぺさんと共同開発して作り上げた服の数々が大ヒット!というのがおおまかな流れである。

 つまり、ぺぺさんとライラ様は古くからの知り合いなのだ。


「それでそれで、相談なんですけど」

「あら?何かしら?」

「実はレオお兄様がライラ様へのプレゼントを用意してないんですよ」

「それは男として情けないわね」

「なので、是非プレゼント選びに付き合ってほしいと思いまして」

「いいわよ。任せておきなさい!」


 コソコソと話した後、スッとぺぺさんが立ち上がった。そしてそのままレオお兄様の元へと歩き、ポンと肩に手を置く。キラキラした目でレオお兄様を見つめ、サムズアップして言った。


「あたしに任せなさい!!」

「不安しかないが....大丈夫なのか....?」


 お兄様の顔が引きつったのが見えた。


「そうねぇ....まずは王子様がどんな物をあげたいかを聞かせて頂戴?」

「ライラはあまりアクセサリーを付けないからな....服はこの前買ってやったのがあるし....」

「ん?服?」

「やはり小物がいい。渡しやすく、身につけやすい物」

「となると腕輪とか、ネックレスとかかしら?」

「そうだな....」


 考えながら店内を歩き回るお兄様。そして、ふと目線の先に止まった物を手に取った。


「これなんかどうだろうか?指輪なら身につけやすく、邪魔にもならない」


 お兄様....まさか誕生日プレゼントで指輪を上げるつもりですか?それって最早プロポーズの域なのですが....?!


「チョイスはいいと思うわ。指輪ならこの辺りかしら?」


 ぺぺさんが持ってきたショーケースの中に、宝石の収まった指輪が何個も並んでいた。多種多様な指輪が並ぶ中、レオお兄様はふのとある指輪を手に取った。


「これは....」

「良い物に目を付けるわね。それは2種類の魔石を埋め込むタイプの指輪よ。それにする?」

「埋め込む魔石は選べるのか?」

「ええ。もちろんよ」

「なら....」


 そんなこんなでレオお兄様からのプレゼントは指輪に決まった。選んだ魔石はライラ様の瞳と同じ色のスターマリンと金色に輝くテオゴールドの2つ。オーダーメイドとなる為、受け取りは竜迎大祭が始まってからになるそうだ。


「必ず間に合わせるから、安心してちょうだい!」

「ああ。頼んだ」


 ぺぺさんとお兄様が握手をし、これにて買い物は終了した。馬車に乗り込んだあと、窓の外を眺めながらお兄様が言った。


「今日はありがとうな」

「どういたしまして。ちゃんとライラ様に渡す際は雰囲気とか考えるんですよ?」

「大丈夫だ。任せろ」


 和やかな雰囲気で、王族の馬車は王城へとゆっくり走っていった。

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