第10話 隠れ聖女と謎の冒険者
「今日は....いないですね」
周囲をきょろきょろと確認しながら外に出る。昨日は冒険者ギルドに行こうとしたら監視の目があることに気づいてしまったがため、行けなかったのだ。
貴族寮の目の前にある雑木林。真隣にあるフラワーガーデンを囲っている林なのだが、その木の陰に隠れて貴族寮を窺っている輩がいたのだ。
てっきり不審者かとも思いましたが、見るだけで何もしてこない。結局私がプロデュースした有名ブランドの服屋で時間を潰し、そこの従業員の子に私のような格好をさせてお使いに行かせたところ動いたため、その人物を逆尾行して正体を掴んだ。
(あの人はたしかレオンハルト殿下の付き人の人....ということは、やはり疑われているんですかね?)
いやいや、そんなはずはない。私とイコールで繋がるような情報は開示していないし、なによりアリアとして会ったのもライラとして会ったのもそれぞれ2回づつ。
そしてしっかりと話したのはそれぞれ1回づつだけだ。話す内容に十分注意した。
「ま、今日はいないみたいですし気楽にお小遣い稼ぎでもしましょう!調合用の薬草が少なくなっていたはずですから、採取依頼とかあると嬉しいですね~」
るんるんとウキウキしながら冒険者ギルドに向かう。
私はこの日、まさかあんな出会いがあるとはこの時思ってもいなかったのです....
***
私がギルドに向かっている途中、道の真ん中で周囲を見回す男性が1人。
声こそ聴いていないが、肩幅と身長・体格からそこそこ大柄の男性であると判断できた。
(あんな大きな人が道の真ん中に立ってたら邪魔でしょうに....)
そう思いながらも、私は道の端を人混みを縫うように歩いていく。通り過ぎようとしたその瞬間、ガッ!!っと誰かに腕を掴まれた。
私は咄嗟にその腕を弾き、そのまま杖を構えて臨戦態勢に入る。本来、街中での冒険者の戦闘は禁止されているのだが、その時は身の危険を感じたという感覚が強くつい構えてしまった。
そして、私の腕を掴んだのは例のローブの男だったらしい。
「何か御用ですか」
「いや、そのローブ姿見たことがあると思ってな。冒険者のアリアだろう?」
「だとしたら?変な宗教とかの勧誘はお断りなんですが」
「いや、そういうわけじゃない。実は冒険者になろうと思ってな。だがギルドへの道がわからずに困っていたんだ」
「....」
その話に正当性があるかどうか、本当に迷っていただけなのかはたまた何か企んでいるのか....現時点では判断のしようがない。
仮にこの男のいうことが真実だったとして、ローブで隠れている物のある程度の筋力量は分かる。その力はパッと見れば騎士団の団員と遜色ないレベルだろう。
それほどの実力を持つ男が冒険者になりたい?騎士団の入団試験を受けた方がはるかにいいだろう。
だが、もしかしたらこの人も私と同じかもしれない。『自由』に憧れて冒険者になった私のように、この人も冒険者という存在に何かしら憧れを持っていたとしたら?私にはその夢を否定する権利なんてない。
「....その話、本当ですね?ほんとうに迷子なんですね?失礼ですが、私は道案内を所望と申してお茶に誘うようなナンパに複数回会ったことがあります。その手の輩であった場合はシバいて魔獣の餌にしますが」
「構わない。そして嘘じゃないと竜神様に誓おう」
この国....基、人界において『竜神に誓う』というのは最も重い契約の言葉でもある。それを口にできるということはやはり真実なのだろう。
そうまで言われてしまえば、私としては疑う理由なんてない。
「わかりました。ギルドまでの道案内をします」
「それともう1つ頼みがあるんだが....」
「何ですか?聞くだけ聞きましょう」
「冒険者として登録が終わったら、俺と依頼に行ってくれないか?無論、報酬は出す」
「....冒険者は全員もれなくF級スタートです。A級冒険者の私とは受けられる依頼の難易度が違いますよ」
(まぁ....この人の実力は未知数ですが、Cランクくらいまでならあっさりと上がってしまいそうですね)
「それでも構わない。仮に俺が使いものにならないと判断されれば斬り捨ててくれてもいい」
「なぜそうまでして共に冒険することを望むんですか?」
「たまたまとはいえ、A級冒険者なんて実力者と出会うことができたんだ。冒険者にもなっていない俺は未熟者そのもの。であれば、先駆者から学べる知識は盗んでおきたいというものだ」
(へぇ....中々勉強熱心な人ですね。その熱意は称賛します)
要するに師として仰がせてくれと言っているようなものだ。今までソロでの活動ばかりしてきたせいか、その感覚は案外悪くないと感じた。
「....わかりました。ギルドの方には私が教えるということにして伝えておきます」
「あぁ。よろしく頼む」
「で、あなたの名前は何て言うんですか?」
「レ....リオ。リオだ。よろしくアリア」
「リオさん、ですか。初めから敬称なしとはなかなか攻めた人ですが、堅苦しいのは嫌いなので良しとします。よろしくお願いします、リオさん」
ローブ越し、お互いにお互いの姿が見えない私たちは、握手を交わしたのだった。
***
「うわぁ!何ですかこの数値?!」
「む?そんなに悪いのか?」
「悪いなんてもんじゃありませんよ!!むしろ最高です!魔法適正についてはあまり高くありませんが、身体能力値・筋力値・状況判断能力値はA級クラスですよ!
まさに冒険者としてのダイヤの原石!!今まで何をしてたんですか?!」
「今まで....は、鍛錬だな。ずっと野山を駆けて訓練し、剣を振ってきた」
(おぉ....!このレベルはすごいですね。普通冒険者になりたてなんて、この数値の10分の1以下がいい所でしょうに....)
今2人が行っているのは適性検査だ。特殊な魔道具に血を垂らすことで、冒険者に必要な適性を数値とランクで表してくれる優れもの。
『血は人生を記録する』と人界では言い伝えられているように、人間の血にはその者の人生が刻まれているというものだ。その記憶、現在のパラメータなどを数値化する魔道具にでた数値は、余裕でB級以上はある。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね!ギルマスー!いますでしょうかぁー--!!」
「おぅ、なんだなんだうるせぇな。リンリー、またアリアが何かやらかしたのか?」
「不本意ですメルトさん。なぜ私がやらかす前提で話をしているのですか?」
後ろ頭を掻きながら出てきたのはメルトと呼ばれたガタイの良い白髪・白髭のお爺ちゃんだった。だが、見た目とは裏腹に数十年前までは最後方のS級冒険者として名を馳せた人物でもある。
「いたのかアリアの嬢ちゃん。で、今度はなにやらかしたんだ?」
「だから不本意です」
「そ、そんなことよりギルマス!!この人、この人の数値がぁ!!」
「あ?このローブの男は嬢ちゃんの連れか?とうとう男を引っ掛けてきたのか」
「焼き滅ぼしますよ?」
「おぉ、怖い怖い。で、この男の数値がなんだって....へぇ、こりゃすげぇ」
あの王都最強と名高いギルマスのメルトが感嘆の声を上げるほどだ。周囲の冒険者はこぞってどよめき、視線がリオに集中した。
メルトは数値から目を放して品定めするようにリオを見る。そして「なるほどな」と小声でつぶやき、
「お前さん、簡単な質疑応答がしたい。ちょいと来てもらえるか?」
そう言ってリオを連れて行った。
***
数十分ほどして、リオとメルトが帰ってきた。
その間リンリーと2人で話していた私たちに近づいてくる。
「あ、ギルマス!どうでしたか?」
「試験はしなくてもいいだろう。それと、初期のランクはDランクだ。早々に冒険者カードの発行を進めろ。アリアの嬢ちゃんと組むって話も聞いた。どうせすぐB級くらいには上がるだろうが、『冒険者』というものをこいつは知らなさすぎるからな。最初はD級でいい」
「は、はい!すぐに始めます!」
慌ただしくリンリーが動き始める。
その間にリオに近づき、話しかけた。
「メルトさんと何を話していたんですか?」
「....簡単な質疑応答だ。今までの経歴、冒険者のことをどの程度知っているのか、後はプライベートのこととかな」
「ふーん....ま、最初からD級なんて凄いじゃないですか。これなら見捨てていくなんてこともなさそうですよ」
よかったですね。と私は少し微笑んだ。
ローブに隠れていて相手の顔は見えないし、私の微笑みも見えていないはずだ。でも、なぜか彼は少し顔をそらしていたのだった。




