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第107話 隠れ聖女と竜迎大祭〜前日

 王都から少し外れた森の中、走り回る複数の獣の足音とそれを追いかける風切り音が森の中に響いていた。

 私は木々の間を飛行し、風属性魔法のウィンドカッターを数発放つ。木々をの間を縫うようにコントロールされたウィンドカッターは、容赦なく目の前を走る魔猪を切り裂いた。だがそれでも数匹には避けられてしまい、真っ直ぐに魔猪達は森の中を駆けていく。


(逃しません....!)


 更に加速して森の中にある岩場に出た。すると、目の前を走っていた魔猪達が一際大きな魔物の下まで走っていく。

 そこにいたのはベアロックボア。熊のように硬い皮膚で覆われた巨大な猪の魔物だ。物理攻撃に対して高い耐性を持ち、またその硬い皮膚で覆われた体から放たれる突進は岩をも豆腐のように砕く威力を誇る。鋼の盾ですら粉砕するその威力に、討伐級は7が付けられた割と強い方の魔物だ。


「なんだか久しぶりに見た気がしますね」


 ベアロックボアの討伐に関しては初めてではない。今まで何度か討伐してきた実績がある。そのため弱点も知っているし、行動パターンもある程度分かるから大丈夫だ。


「ブモォォォォオオオオオ!!」


 鼻息荒く、自分の縄張りに入ってきた侵入者である私に向かってベアロックボアが突撃してくる。ベアロックボアに限らず、魔猪系の魔物の攻撃手段は突進がメインだ。たまに絡め手を使ってくる魔物もいるが、少なくとも魔猪系の魔物が使ってきた試しは一度もない。

 真っ直ぐに突進してくるベアロックボアを、サイドに身をひねるように跳んで回避した。そのまま風域を使って浮き、ベアロックボアを見下ろす。


(ベアロックボアは皮膚が硬い代わりに体内の構造がかなり脆い。見た目の割にお肉は柔らかいし、骨も割と簡単に壊すことができる)


 そして、ベアロックボア最大の弱点は眉間だ。額の部分は頭蓋骨がある為、その分皮膚が引き伸ばされダメージが比較的通りやすいのだ。

 だが巨大な鼻と牙のインパクトが強く、大半の冒険者がこの弱点を知らない。


 岩にぶつかり、岩を粉砕しつつ停止するベアロックボア。方向転換し、再び私に向けて突進攻撃の構えを取った。

 ベアロックボアは魔法攻撃に対する耐性こそないが、魔法攻撃は拡散するように広範囲をカバーできるのが強み。いくら耐性が無いと言っても、魔法攻撃ではあの硬い皮膚を突破するのは至難の業だろう。

 ではどうすれば突破できるのか?

 答えは簡単だ。魔法攻撃で、物理攻撃と同じように1点を集中して狙えばいい。


 ベアロックボアが猛スピードで突進してくる。本来であればこの攻撃を横や上に逃げると考える人が多いだろう。だが、実際はそうではない。正解は....


 ベアロックボアの鼻と牙が目前に迫る中、私はベアロックボアに向けて飛行した。お互い直線上で視線が交差する。ベアロックボアと正面衝突する直前、私は地面スレスレにまで体を急激に落とした。

 ベアロックボアも混乱しているようで、真っ直ぐ走り抜けるベアロックボアに対して私はその足の間を飛び抜けた。その瞬間に地面に向いた腹から背中まで貫通するように雷属性魔法を放つ。


「ボルトショット!!」

「ブモォ?!?!!」


 股下を通り抜け、そのまま空中へと飛び上がる。停止したベアロックボアは私を睨むが、そこから先の動きがない。

 それもそのはず、 先程のボルトショットは本来であれば雷の魔法弾を放つ魔法。魔力操作のし方に応じて、雷魔法の集団率を調整できる。集団率を高くすれば魔法であれ貫通力が増すし、集団率を低くすればその分空中に霧散して放電できる。

 そして、私の高い魔力操作ならもっと高度な魔法にする事ができるのだ。先端のみ集団率を高くして貫通率を上げ、螺旋状に形成したそれ以外の集団率を下げて拡散するように調節する。そうすれば腹を貫通した上でベアロックボアの体内で雷魔法が拡散するといった芸当が可能になるのだ。


「痺れて動けないですよね」


 ニヤリと笑いながら眼下のベアロックボアを見下ろす。痺れが切れるまであと数十秒はある。それだけ猶予があれば負けることはない。

 魔力を練り上げ、杖の先に魔法陣を展開する。赤と黄色の魔法陣が混ざり合い、そしてその魔法陣が縮小して高い魔力波を放つ。


「炎×雷属性複合魔法!スパイラル·レイボルト!!」


 魔法陣から放たれた魔法がベアロックボアに迫る。レーザーのような炎の魔法の周囲に雷が纏い、螺旋のように回転しながらベアロックボアの額を貫いた。高威力の魔法がベアロックボアの額から体の中を貫通し、風穴が空けて地面に着弾する。その瞬間、地面が魔法着弾の暴発によって爆発し、ベアロックボアごと周囲の魔猪を吹き飛ばした。

 飛び散る土や石、そして立ち上る煙を眺めながら私はゆっくりと降下する。

 周囲には飛び散った魔猪の死体や、丸焦げになったベアロックボアが倒れていた。


「思わぬ収穫でしたね」


 今回は冒険者アリアとして受けた素材収集の依頼をこなす為に森に来ていたのだ。本来の依頼は“魔猪の牙を20本、毛皮を10枚以上、可能なら魔石の回収”の3つ。とっくに目的の量は集まっていたのだが、久々にアリアとして活動できるのが楽しすぎてついつい興が乗ってしまった。

 ちょっと派手に放ち過ぎたかな....


「ついでにベアロックボアの素材を....」


 魔物は基本、死してなお体が残り続ける。だが体内に存在する魔物の核、つまりは魔石を切除することで肉体が塵となって消えていくのだ。

 冒険者にとって当たり前のことであるが、魔物の素材は高く売れる。『魔石は最後に回収する』というのが、冒険者が学ぶ最初の教えとなっている。


 ベアロックボアの特徴である硬い皮膚は毛皮を用いた製品や、その硬さを利用して盾などの中に入る衝撃緩和材として使われることもある。その為、想像以上に高く売れるのだ。

 焼け焦げたベアロックボアに近づき、皮膚や牙を剥ぎ取る。ある程度回収できたところで魔石を切除した。その瞬間、ボシュウゥゥゥゥ....と体が塵となって消えていく。


 さて、用事は済んだ。帰ろうかと思って振り返ると、私の頭上を複数の影が通る過ぎていった。

 影の向かった方角を見ると空を飛ぶ大型の生物が数体確認できる。


飛竜種(ワイバーン)....」


 この時期、竜たちが王都に近づくのは恒例だ。知能があるのか、はたまた本能で感じているだけなのかは分からないが、ワイバーン達は王都へと向かって飛んでいく。


「そろそろですか....竜迎大祭」


 ワイバーンを追いかけるように私も王都に向けて歩き出す。

 今年は今までとは違う。魔族と戦い、権能も増えた。今まではあくまでもお祭りを楽しむ為に参加していたが、今年に限ってはそうはいかない。

 私は竜の巫女なのだから。権能も手に入れ、神獣との関係が強固になってそれが私を巫女へと引き上げている。


(だからってワイバーン達までが頭を下げるとか、そんな大げさなことはないでしょうけどね)


 そんなことになれば、私が聖女であるとバレてしまう可能性がある。現状、ライラ=聖女であるとイコールで結び付けられる人物は、ティルナノーグ家の人間を除けばセレナ様とマナ様の2人だけだ。

 一番まずいのはそのさらに先、竜の巫女の生まれ変わりだとバレるのが一番駄目。竜の巫女はこの世界創世の歴史にも記される大人物であり、マナ様が口止めしてくれなければ私はとっくに聖女として教会に囲まれていただろう。


 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか洞窟の入り口まで来ていた。それも、過去に何度か入ったことのある洞窟に。


「銀狼の洞窟....」


 神獣である銀狼:ヴァナルガリアスがいるとされる洞窟。今まで何千何万という冒険者が挑戦してなおその最奥が分からないほど深いダンジョンであり、そしてこの奥には銀狼がいるとされている。

 誰も見たことのない神獣だが、私だけ唯一声を聞いたことがある。かれらを連れてこの洞窟まで素材集めに来たときだ。


(あの時の声....私のことを『巫女様』と呼べるのは1人しかいない)


 やはり銀狼なのか?とは思うが、だとしたらなぜ姿をみせないのだろう?

 そこまで考えてから、私は首を横に振った。

 最近聖女のことばかり考え過ぎだ。勇者とか巫女とか神獣とか、ここ最近になって急に忙しくなったのも相まって余計なことを考え過ぎだ。


 (私は....自由になりたいんです。聖女という呪いを手放し、自由に....)


 聖女であるが故に私は今まで色々なことに巻き込まれてきた。ここ最近は魔族との戦闘が多いのも相まって完全に聖女であることを肯定し始めてる自分がいる。

 だが....


(やっぱり私は....)


「聖女ではなく、一人の女の子として生きたいです」


 そっと洞窟の入り口にある岩肌を撫で、そんなことを思った。誰も私の心の声など聞けるはずもなく、ただ私の呟きが先の見えない洞窟の中に響いた。

 ハクキも一度銀狼に会ったことがあると言っていた。いずれ私の前にも姿を表すのだろうか?


 だがそんな事を思っても銀狼が出てくるわけじゃない。私は諦めて王都に向けて再び歩き出した。


 竜迎大祭が始まる。


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