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第106話 愉悦魔族と嵐の前の静けさ《ルムン視点》

 ライラ達のいる大陸とは別の大陸、レギオンと呼ばれる大陸には1つしか国が存在しない。そこは魔族達の暮らす国“ゲーティア”のみが存在し、その真ん中に存在する通称:魔王城こと“魔天宮殿(パンデモニウム)”の中を、僕は歩いていた。


 涙とハートのフェイスメイクをした、マジシャンの様な格好の少年。小さなシルクハットを頭に乗せ、薄暗い城内を歩く。

 レッドカーペットにサイドから射す松明の灯りのみの廊下は薄暗く、まるで僕の今の心を表しているかのようだった。

 その時、前からコツコツと音を立てて歩いてくる女性が目に入る。その女性は人間的な容姿でありながらも明らかに人ではない角を生やし、長い長髪と四角い縁眼鏡をかけていた。女性は少年の前に立つとペコリと礼をする。


「ルムン様」

「パイモンか。どうしたの?」

「こちら、先日のイザヤ戦の報告書です。フォルネウスの事は残念でしたが....」


 そう言われて思い出すのは大海原に散っていった魔族のこと。ルサールカ....君は凄い魔族だったよ。“彼女”相手に善戦したんだからね。


「リヴァイアサンは手に入らず、フォルネウスとヴァプラは消滅....結果としては何の成果も得られませんでしたね」

「仕方がないよ。この計画を立案したのはアイツだ。立てるだけ立てておいて人任せとは....」

「この件も報告しましたが、特に気にはされていない様子でした」

「どちらが“悪魔”かわからないね。君達はどうなんだい?()()が殺されたわけだけど」

「そうですね....フォルネウスとは長い付き合いですから、悲しみはあります。ですが、()()の主はあのお方ですから。あのお方が『死ね』と言うのならそれに従います」

「従者の鏡だね。彼女の分のお墓には後で花を添えておくよ」


 アイツは墓参りなんかする奴じゃない。アイツにとって、僕達他の魔族は計画を立案遂行する為の“駒”でしかないのだから。

 先程僕が口にした「どちらが“悪魔”かわからないね」という発言も、あながち間違いではない。


「それと、もう一件。あのお方がルムン様を探しておりました」

「....そうか。どこにいる?」

「私に話をされた時には書斎にいましたが....」

「分かった。向かってみるよ」


 パイモンの横を通り過ぎていく。パイモンはペコリと礼をし、反対方向へと歩いていった。

 宮殿内を歩いて書斎へと向かう。だが、書斎に入って探してみるも目的の人物はいなかった。呼び出しておいて何でいないんだとは思うが、いない人物に文句を垂れても仕方がない。書斎を後にし、別の部屋も回って探してみる。


(一体どこに....ま、後回しでもいっか)


 僕のモットーは『最高の愉悦』だ。楽しい事をする事が生きる目的であり、今の人探しには楽しみなんてない。

 そんな時、ふと宮殿内のとある場所を思いついた。アイツはあの場所によく籠もっているのを思い出す。


(行ってみよう。そこに居なければもう僕はしーらない!)


 書斎の扉を閉めてその場所へと歩き出した。入り組んだ宮殿内を歩き、とある離れの塔へ入る。ただでさえ雲がかかっていて薄暗いのに更に暗い場所へ入るのか....と思いながらも松明の灯のみを頼りに塔を登る。

 ようやく見えた階段の先の扉を開けて中へと入る。本やら火の玉などが空中を浮遊する空間の中、目的の人物がそこにはいた。

 白い髪に黒いコート、長身のその男は本を片手に目の前の水晶を見つめている。彼が僕な存在に気づき振り返る。


「ルムンか」

「むっ、呼び出しておいてその反応はなんなのさアジット。僕だって忙しいんだけど?」

「そうだな。お前には苦労をかける」


 よく言うよ。そんな事を言いながらもその赤い瞳に僕の姿なんて映っていない。所詮は“駒”程度にしか思われてないのだ。

 目の前の男、アジットを少し睨みながら言ってみる。が、この男が特に気にする様子はない。つまらない反応だ。


「お前を呼んだ理由は分かるか?」

「どうせ次の任務でしょ?僕を酷使し過ぎじゃないのかい?」

「なら....」


 パタンと本を閉じる男。今度は顔だけでなく、完全に体ごと振り返ってこちらを見ている。


「お前が俺に勝って、トップの座を奪えばいい。魔族の掟は弱肉強食。お前が俺に勝てば好きなだけ休暇が貰えるぞ?」


 あぁ....イイ....♡ゾクゾクするね、その目。

 今、アジットの瞳の中には完全に僕がいた。アイツが、僕の事を認識したのだ。それはつまり、アジットにとって今の僕は敵として認識するに値する存在となっているということだ。

 あの戦いは楽しかった。この僕が、生まれてから感じたことの無い“最高の愉悦”を感じた戦い。魔族のトップを決めるあの戦いは忘れられない。


(あの頃と同じ....狩人の目だ)


 またあの戦いの続きが出来るのならここで反抗しても良い。だが、僕たちの中でも彼は突出した強さがある。僕一人では相手にならないだろう。


「止めておくよ。僕じゃあ君には敵わない」

「そうか。今のお前なら傷を負わせるくらいは出来ると思うがな」

「回被りすぎさ。僕にそのまでの力はないよ」

「お前がそういうならそういうことにしておこう。それで次の任務の話だが、お前には“ある物”を回収してほしい」


 回収任務か。物によっては難易度が跳ね上がる訳だが、何を回収するのだろう?


「何を回収するんだい?」

「人界の秘宝、“神秘の竜涙石”を回収してもらいたい」

「それはまた....大胆だね」


 “神秘の竜涙石”は人界側に伝わる秘宝であり、そして“竜の遺産”と呼ばれる類のものだ。かつて存在した創世記の3神竜である“創世竜”、“破滅竜”、“傍観竜”が、各々の産み落とした生命に与えた神秘の秘宝。

 人界と魔界にそれぞれ2つずつと、亜人の国ニンフに2つの系6つが存在している。


「近々人界では世界の創世を祝う祭事が開かれる。そのタイミングならゴタゴタに紛れて秘宝を盗ることくらい可能だろう?」

「一つ、聞いていい?」

「なんだ?」

「3神竜がいなくなったのはもう数百年も前の話だ。その時から人界での世界創世の祭事は行われている。なぜこのタイミングで奪いに行くんだい?」


 そう、最近僕が感じていた不信感はそこだ。創世の祭事はそれこそ数百年前から執り行われているし、アジットが命令する人界への攻撃もここ十数年で唐突に活発になった。

 なぜ今になって動くことにしたのか?その理由が分からない。


「やっぱり....竜の巫女の影響?」

「それもあるが、もう1つ理由がある」

「もう1つの理由?」

「ああ。この世界に足りていなかった最後のピースが降り立ったのだ。竜の巫女が持つ最後のピースが」


 アジットの言葉でそれが何かを考えてみる。そして、特に悩むことなくその“最後のピース”の正体に感づいた。竜の巫女の持つ最後のピースとは....


「聖女の力....それを引き継ぐ者か。もしかして“勇者”....?!」

「そうだ。先日この世界に勇者の誕生を感じた。そして、その男が最後....1()0()'()()()()()()だ」

「待ってくれない?いくらなんでも早すぎる!前の勇者が覚醒したのですら20年前だ!そんな短いスパンで勇者が誕生すると?」

「実際にいるのだからそうなのだろう。そして何より、この時代に“竜の巫女”の生まれ変わりと“最後の勇者”が現れた。これは世界が変わる前兆だ」


 僕はそこでようやく気がついた。普段無表情のアジットの顔が歪んでいる事に。その瞳の奥はまるで漆黒の暗闇、だがその笑みから彼の瞳にはきっと何かが映っているのだろう。

 ゾクリとした。やはり、この男こそが魔界最強の存在。僕では太刀打ち出来ないだろう。


「なるほどね。ということは、計画が次の段階に動くのかな?」

「そうだ。そしてその次の段階に進む為に秘宝を入手しておきたい。だが、これはあくまでも保険だ。仮に入手出来なくても、情報を持ち帰ってくれればそれでいい。やり方はお前に任せよう」

「そう。ならさっさと行ってくるよ。そうそう、秘宝奪取作戦を行うなら人手が欲しい。悪魔達を何人か貰ってくよ」

「構わない。好きにしろ」


 今の話には興味深い話がいくつもあった。アジットの計画の話、勇者の話、そして巫女の話。どの線がどう交差するのかは分からないが、これから愉しい事が始まる予感をビンビンに感じ取っている。

 扉が閉まる直前、アジットの独り言が聞こえた。


「もうすぐだ....新たな世界を、君と共に見よう。待っていてくれ....マリア」


 あの部屋の中に存在した一際目立つ大きい水晶。その中に眠るように凍結された人間の女性。彼は彼女にゾッコンだ。恐らく計画に必要なピースなのだろうが、アジットからはそれ以上の感情を感じる。


(あの女の名は何だったかな....あ、そうそう、マリア·アルカディアだ)


 何がそこまであの男を惹きつけるのかは知らないが、他人の深いところまで詮索するのは野暮なので流石にやめておくことにする。

 宮殿に戻り、パチンッと指を鳴らすとお付きの悪魔がすぐに来た。若々しい見た目でありながらモノクルに1:9分けの髪型と固そうな男。だが、この悪魔は頭がキレる。知能戦においては魔界の中でもトップクラスだろう。


「お呼びでしょうか、ルムン様」

「バラム、これから人界へ攻め入る。竜の秘宝を盗ってこいだとさ。何かいいアイデアある?」

「そうですね....こういうのはどうでしょうか?」


 バラム作戦を聞き、思わず顔がにやけてしまった。


「いいね、それで行こう。何人か作戦に連れて行くから、悪魔達を選出してくれる?」

「はっ。仰せのままに」


 バラムがいなくなり、僕はにやけた顔を戻そうと顔に触れる。だが、それでもにやけ顔が直ることはなかった。

 ただアジットの計画に従うだけなのも癪だ。やはりバラムは僕のことをよく分かってる。


「フフフ....愉しい事になりそうだね♪」


 笑った僕の顔はきっと。どの悪魔よりも醜悪に、残虐に、愉悦に、悲哀に、幸福に、そして狂気に見えただろう。

 そしてこの日、魔界の宮殿にとある悪魔の笑い声が響き渡ったという。


1日ズレました。申し訳ございません。

間髪入れず新章開幕します。

第4章:竜迎大祭編のはじまりです。


当作品が面白い!気に入った!という方は評価やいいね、感想などお待ちしております。


次回更新日は2月3日AM 7:00の予定です。


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