第105話 水龍少女と奇妙な日常《リーア視点》
朝、窓から射した日で目を覚ます。
ふかふかのベッドから上半身だけを起こし、のび〜っと伸びをした。寝ぼけた頭を何とか回転させながら立ち上がり、ふらふらと扉に向かって歩いく。まるで酔っ払いのように覚束ない足取りで歩けば、案の定周囲など目に入っていないわけで....
「あうっ!....なの」
思いっきり壁に頭を打った。ヒリヒリと痛みを感じるが、おかげで少し目が覚めた。まだ覚束ない足取りではあるが、それでも一段一段ゆっくりと階段を降りていく。
「お、おはようリーアちゃん」
「おはゆぅ....なの....」
目の前のこわ〜いおじさんはセルフォードおじさん。何でも、ママの知り合いらしいなの。
朝日で輝く頭にサングラスと、見た目だけなら怖いおじさん。でも、リーアはこの人が優しい人なのを知ってるなの。
「お嬢はまだ寝てるのかな....」
「カレラおねーちゃんならまだ寝てると思うなの。昨日夜におトイレに起きたらまだ起きてたから」
実は「ぐふふふふ....」という少し気持ちの悪い....独特な笑い声が聞こえた事は内緒なの。誰にでも知られたくない秘密くらいあるなの。
そんな事を考えながら席に座り、用意された朝食を食べ始める。今日の朝食はトーストにベーコンエッグ、それとコーンスープと簡単なサラダ。分かりやすくThe☆朝食といったメニューだ。
焼き立てのトーストをちぎり、コーンスープに浸して食べる。ほんのり甘い味が口いっぱいに広がり、自然と頬が緩んだ。
「さて、あっしはお嬢を起こしてきやすかね」
そう言ってセルフォードおじさんが2階へと上がっていく。
ここはアデルネーゼの薬屋。ママのお友達が経営してる薬屋さんで、リーアが王都に来てからお世話になっている場所なの。
ことの発端はイザヤの町での出来事が終わった後のこと。リーアをリヴァイアサンから引き取る事を了承したはいいものの、ママはリーアをどこに引き渡すかで悩んでいたようなの。リーアだってそんなに子供じゃないもん!とは思ったけど、ママと離れちゃうのは寂しい....そう思っていると、ママは閃いたようにどこかに連絡し始めたなの。それがここ、アデルネーゼの薬屋の主であるカレラおねーちゃんなの。
結果、同じ王都であれば会いやすいうえ、リーアはママの契約神獣でもあるから近い方がいいって事でここに預けられたなの。
最初はセルフォードおじさんの事も怖がってしまったけど、今ではすっかり仲良しなの♪
(今日はママに会える日なの♪)
今日はママのいる学園までお薬を届ける用事があるなの。そのついでにママと会うことを約束してるなの。
今日の予定にうきうきしながら朝食を食べていると、セルフォードおじさんに起こされたであろうカレラおねーちゃんが目を擦りながら降りてくる。
今日もいつもと変わらない平和な日....そう思っていたの。
「....?」
なんだろうなの?この胸の奥で感じる違和感は....
何とも言えない違和感が胸の奥にいる気がして、ゆっくりと胸元を擦ってみる。でも、特に痛みなどはなく病気ではなさそうだと感じた。
(気のせい....?)
何となく胸のもやもやが残っている気がしたけど、特に気にせず朝食の続きを食べ進めた。
このベーコンエッグ....黄身がトロトロで美味し〜なの〜♡
***
午後、お薬を持ったカレラおねーちゃんと一緒に学園へ向かった。おねーちゃんは学園の生徒では無いけど、まほーやくがく?の知識は凄いらしく、たまにお手伝いで学園へ行っているのだとか。
今回はおねーちゃんのお手伝いとして、来客扱いでリーアも学園に入れるなの。
受付でネームカードを受け取り、学園の中へ入る。その時、カレラおねーちゃんが薬を持って話しかけたきた。
「さて、私はこの薬を魔法棟まで持っていかないとだから。リーアちゃんはライラと会うんだよね?」
「そうなの!ママはどこにいるの?」
「今の時間だと....空き時間かな?どこにいるんだろ?」
「大丈夫なの!何となくママの気配は分かるから、探してみるなの!」
「なら後でこの受付に集合ね。困ったら魔法棟までライラに案内してもらって」
「はいなの!」
カレラおねーちゃんと分かれ、取り敢えずママの魔力を探す。リーアとママは契約してるから、ママの魔力の気配は分かるなの。
見つけた位置は2階の反対側の部屋。それだけ分かれば、後はそこまで行くだけなの。
「えっ?何この子!かわいい〜!」
「あのヒレって、海人族の子だよね?何でこんな所に?」
「初めて見た。可愛い」
リーアが歩く度、周りから凄い見られた。でも、色々な人から可愛いと言われて悪い気はしないなの。むしろ嬉しいなの。
そう思っていると、見知った人が人混みを掻き分けて顔を出した。
「やっぱり、リーアちゃんね」
「?あ、セレナおねーちゃん!」
イザヤの町で一緒にいたセレナおねーちゃんを見つけた。セレナおねーちゃんが近づいてきたことで、周りの人達から「セレナ様の知り合いか〜」という雰囲気に包まれた。
「どうしてこんな所に?あ、いや....さてはライラ様に会いに来たのね?」
「そうなの!どこにいるかは分かってるなの!」
「なら、そこまで一緒に行きましょうか。1人だと迷ってしまうかもしれないし」
「ありがとうなの!」
セレナおねーちゃんが手を繋いでくれて、リーア達はママのいる場所まで歩き始めた。向かうは広ーい部屋、多分図書館なの!
目の前の階段を登って少し歩くと、すぐに目的の部屋が見えた。でも、何やら扉に看板が掛けられているなの。
「『現在私用調査中の為、立ち入りを禁ず』....学園長先生の調べ物中か....これは入れないわね」
「でも、ママはここにいるなの」
「う〜ん....事情を説明してリーアちゃんだけライラ様に会わせる事は出来る....かも?」
「....むむ、この気配....」
セレナおねーちゃんが考えてくれてる間、リーアは中にいる魔力に何だか近しい気配を感じた。その気配を持つ存在をリーアは知らないが、身内に似た人物がいる。そして、その気配はリーアとも酷似したものだ。
(中にいるのは....神獣?ということはまさかママ....浮気したなの?!)
ぴっしゃーん!とリーアに稲妻が奔った。まさか....ママがリーア以外の神獣と浮気....?!
そう考えるといてもたってもいられなかった。リーアはバンッ!と扉を勢いよく開け、セレナおねーちゃんの静止も振り切って中に入った。図書館の中は張り紙のせいもあってかがらがらで誰も居なかったが、リーアはママの魔力を追跡してその位置を割り出した。
図書館の一番奥、隠されたように隅に存在した半開きの扉を思いっきり開けた。
「ママ!浮気は駄目なの!!」
「うわっ!!びっくりしたぁ…」
中にいたのはママと白髪白髭のおじいちゃん、そしてイケメンな男の人と小さな精霊と鼻の長い豚?のような生物が何かを話していた。
「リーアちゃん?あ、そっか....今日ってその日でした....」
「ママ!浮気は駄目なの!」
「う、浮気??」
「何〜?ライラ、浮気してたのぉ〜?」
ニヤニヤと笑う精霊に小突かれてママはそれを否定していた。でも、リーアなら分かるなの。ここまで来てはっきりと分かったなの!
「そこの豚さん!ママの契約者はリーアだけなの!!絶対渡さないなの!!」
「僕は豚じゃなぁぁああああい!!!!」
豚さんの絶叫が響き渡った。
暴れる豚さんを男の人が取り押さえる。すると、ママが前に出てきて取り敢えず落ち着くようにリーアに言った。リーアはいつも冷静なの!
「リーアちゃん、浮気っていったい....?」
「ママとの契約者はリーアだけで十分なの!」
そこまで言うと話が伝わったのか、豚さんを抑えていた男の人が何かに気づいたように言った。
「ああ、そういうことか。さては彼女、神獣だな?」
「もがもが....む?っぷは!神獣ぅ????」
豚さんと目が合う。お互いにじーっと見つめ合うと、豚さんが言った。
「確かに....リヴァイアサンに近い気配だな」
「リーアはリヴァイアサンの分身なの!ママと契約してるから当然なの!」
「ほぅ....まさか海竜リヴァイアサンの分身に出会えるとは....!長生きはしてみるものじゃな」
「俺も死んでなお別の神獣に出会えるとは思わなかった」
リーアの正体がバレたところで、ママがこの場にいる人達を紹介してくれた。
白髪白髭の人はオルトラおじいちゃん。学園長先生らしいなの。
男の人はハクキお兄ちゃん。今は記憶体だって言ってたから、きっとリヴァイアサンの記憶の中で見たエノクみたいなものなの。
精霊さんはリム。夢の精霊さんらしく、この子もママと契約してるらしいなの。
そして問題なのがこの豚さん!ムーバっていう名前らしく、神獣:夢獏らしいなの!
「あぁ....浮気ってそういう....」
「なの!」
「う〜ん....」
「ま、諦めてもらうしかないね」
む!出たな横入り神獣!リーアのママは渡さないなの!
ママが返答に困っていた時、横からムーバが口を出した。
「ライラには僕達神獣の契約が必要だ。リヴァイアサンの片割れ、君の彼女を独占したいという気持ちは分かるが、こればかりは諦めてもらうしかない」
「む....でも....」
「君も神獣なら分かるだろう?彼女には僕達の力が必要だ」
ムーバの言ってる事も分かるなの。リーアだってわがままを言いたい訳ではないけど....
何もわからず、薄暗い神殿の中で目が覚めたリーアには家族がいなかった。村の人達はリーアを仲間として迎えてくれたけど、リーアにとっての“家族”の形とは違ったなの。
そんな中、リーアは初めてママにあった時にビビっときたなの。ママは孤独だったリーアに家族の温かさを教えてくれた。ママはリーアに居場所を与えてくれた。ママはリーアに愛情をくれた。リーアにとって、それは人生が大きく変わった出来事だったなの!
「むぅ....じゃあ、ムーバの契約は許すなの!」
「なんで君に許される必要が....」
「でも、ママの最初の契約神獣はリーアなの!分かったなの?!」
「はいはい、それでいいから。用事が済んだなら出ていって欲しいんだけど」
「む!むきー!!」
やっぱりコイツ嫌いなの!!
そうは思うが、ママ達が何かしていた時に邪魔しちゃったのは事実なの。今回は引き下がって上げるなの!
「ごめんねリーアちゃん。また会いに行くね」
「絶対来てなの!リーア、待ってるなの!」
ぷんすかと怒りながらではあるが、ママがリーアに会いに来てくれる約束をしてくれた。それだけで十分なの。
実際、今日は会いにきだけであって特に用事はない。ここは大人しく下がってやるなの!
でも、やっぱりあの豚さんは嫌いなの!!
***
翌日、アデルネーゼの薬屋に戻ったリーアは店番をしていた。今日はセルフォードおじさんが外に出てるらしく、新しい看板娘であるリーアが頑張る日なの!
そう考えていると、カランカランとベルが鳴って扉が開く。
「いらっしゃいませなの!」
中に入ってきたのはママよりは小柄な身長の人。黒い執事のような制服に身を包んだ獣耳の少年は、キョロキョロと周囲を見回しながらカウンターに座ってるリーアの下までやってきた。
「君がお店の人ですか?」
「そうなの!何をお求めなの?」
「事前発注していた薬を受け取りに来ました。セルフォードさんに伝えてあるはずですが」
「確認してくるなの!」
パタパタと走り、2階にこもっているカレラおねーちゃんを呼びに行く。事情を説明すると、「ああ〜あの薬ね」と準備を始めた。
それを見て大丈夫だと判断したリーアは少年の下へと戻る。
「もうすぐ来るなの」
「そうですか?なら少し待たせてもらいましょう」
「所でお客さま」
そういった瞬間、水魔法で作り出した剣を少年の首元に突きつける。予備動作も少なく、一瞬で少年の首に剣が触れた。
ピリピリとした緊張が走る。リーアだって、何の意味もなくこんな事をしたわけではない。
だが、それでも少年は冷静なまま。慌てる様子は無かった。リーアの睨みつけるような視線を受けても、少年は微笑みを崩さない。
「穏やかではありませんね」
「何しに来たなの?」
「先程も言った通り、薬を受取りに来たんですよ。私の仕えている方は腰を痛めやすくてですね」
「何を企んでるの?」
「何も。というか、薬一つ受け取るのにこれほど疑われないといけないのですか?」
少年は顔色一つ変えることなくそう言った。敵意を感じなかった為魔法を解除し、少年を離した。
すると、今度は少年が瞬間的に振り向いて殴りかかってくる。その拳を間一髪で回避し、カウンターの上で体を回転させ足でその拳を弾いた。少年は弾かれたことに驚きつつも、少し下がって停止する。
「中々やりますね。流石はリヴァイアサンの片割れ」
「そーいうお前もなの。どこの神獣なの」
「それは時が来たら分かりますよ。それに、私はいずれ巫女様と出会いますから」
「む!また新しい神獣と浮気なの....」
「浮気?」
ママはまた新しい神獣と出会うらしいなの。リーアという契約神獣がいながら....!
そうは思うが、ママはなんだかんだ色々な人を惹き寄せる不思議な感覚があるの。だから仕方ないといえば仕方がないの。
「はーい、お待たせしましたー....って、どうしたのリーアちゃん?」
その時、トントンと階段を降りてきたカレラおねーちゃんが薬を持ってやってきた。カウンターから素早く降り、それに合わせて少年も臨戦態勢を解除したようだ。
「ううん?何でもないの」
「そう?あ、こちらお薬です」
「ありがとうございます。それでは失礼します。さこのお嬢さんも、またね」
「ありがとうございましたなの〜」
少年が店を後にした後、扉の方をじっと見つめる。最近感じる違和感....この国で何かが起ころうとしてるのかもしれない。
「嵐が....来そうなの」
「えっ?そうなの?全然そんな天気じゃ無いけどなぁ....」
ふと口にしてしまった言葉にカレラおねーちゃんが反応する。そういう意味では無いのだが、下手なことを言って巻き込んでしまってもいけない。
「冗談なの。適当言っただけなの〜」
そう誤魔化した。“何かが起こる”そんな妙な胸騒ぎを感じつつ、リーアはカウンターに戻った。
今日も王都は騒がしい程賑やかなの。
いつもより長めに書きました。
これにて第3章終了となります。
間髪入れず第4章が始まるわけですが、この物語はまだ終わりません。
長い道のりですが、読者の皆様にもお付き合いいただけると幸いです。
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次回更新日は1月31日AM 7:00の予定です。




