第104話 隠れ聖女とお墓参り
王都を出て馬車に揺られること数時間、途中何回かの休憩を挟みつつも私達はシャングリラ竜爵領へと入った。目的地であるレサル村はシャングリラ竜爵領の中でも内陸側にあり、王都からも当日中に行ける近さにある。
出発したのが朝だった為、現在はお昼前。私達は最後の休憩地点であるレサル村の手前の街に来た。通り道ではあるのだが、ここは私達のもう一つの目的地でもある。
ここはタモアン伯爵領の中心部の街、チャンカ。伯爵家が直々に収める街であり、魔法研究の盛んなシャングリラ竜爵領の中でも薬草学で有名な場所だ。内陸側ということもあり、育てられる薬草の質が良いからなのだそう。
そんなチャンカの街の一角に馬車を止め、私達は降りた。長時間座っていた為か腰が少し変だが、普段から鍛えていた為大した問題ではない。伸びをして、一度深呼吸を挟む。
「すぅ....ふぅ....さて、私は目的地まで向かいますけど、お二人はどうしますか?」
「私もライラ様と行きます!」
「なら俺も付いていかないとな。1時間ほど休憩を挟む。自由にしてくれ」
殿下が馬車を運転していた従者と護衛として付いてきていた騎士達に言った。彼らは護衛であるため付いてこようとしたが、この場所に用があるのは私とセレナ様だけ。付いてきてくれるのは護衛の仕事上仕方ないが、あまり気を張り詰めず休憩の時くらい気楽にして欲しい。
「ですが殿下....」
「大丈夫ですよ。何かあっても私と殿下がいますから。用事が済んだらすぐに合流します」
彼らも私の言葉に納得してくれたのか、先に昼食を取るために街中へと消えていった。それを見送った後、私達も移動を開始する。
向かう先はこの街にある共同墓地の1つ。それも一番大きい所だ。場所は事前に調べておいたので問題ない。
馬車を停めた場所から歩いて数分の位置にある共同墓地。街外れにあるためか人通りはほとんど無かったが、特にトラブルなどに巻き込まれることも無く無事に辿り着けた。道中でお供え用の花を買い、柵で囲まれた共同墓地の中に入る。その中でも一際大きいお墓の前まで歩いて行った。
お墓参りに来たよ、メイルゥ....
「このお墓が目的か?」
「はい」
墓石に書かれていた名前は『タモアン家の墓』。個人のものでは無く、家系で纏められた方のお墓だ。
私があのお茶会で出会った少女メイルゥは事故で亡くなったと言っていた。つまり、他家に嫁いでいない為、納骨されたのは恐らくこのお墓だろう。
「メイルゥ、会いに来たよ」
彼女が亡くなったのはもう何十年も前。このお墓に彼女の意思が残っているのかはもう分からない。だけど、彼女に「会いに来たよ」と一言伝える。それが私の目的だ。
お花を供え、ゆっくりと祈る。それを見て、背後で殿下達が同じように動いたのを感じた。数分間祈り、私はゆっくりと顔を上げる。
「お昼ご飯、食べましょうか」
微笑みながら私は二人にそう提案した。
***
チャンカの街から更に1時間ほど馬車に揺られ、とうとう目的の村が見えた。私もこの村に来るのは初めてである。
「あれがレサル村....」
事件の影響か騎士達の数が多い。が、それを除けばなんの変哲もない村に見えた。のどかで平和そうな村だ。まるで....あの場所を思い出させるような。
馬車が村に入ると、気づいた騎士が寄ってくる。窓を開けて殿下が対応すると、すぐさま私達は村の中央部まで通された。まだ事件後の処理があるらしく、大勢の騎士が忙しなく動いている。
従者の方が扉を開けてくれ、私達は村に降り立った。のどかでさな雰囲気の村だ。自然の音や香りで私の心が安らぐ感覚がする。
「レオンハルト殿下!ようこそおいでくだいました!」
村長と思わしき男が殿下に歩み寄る。殿下には私達の目的を伝えてある為、村長には同じようにその内容を伝えてもらった。
すると、私の名前が聞こえたタイミングで村長がこちらに寄ってくる。
「初めまして。レサル村村長のボードと申します。ティルナノーグ竜爵令嬢様でございますでしょうか?」
「はい。ライラと申します」
「今回の一件、話は聞かせていただきました。ギャレンの馬鹿を止めて下さり、ありがとうございます」
そう言ってボードは私にお礼を言った。まさかそんな事を言われるとは思っておらず、動揺してしまう。
「いや....そんな大した事は....」
「いえ、私共は感謝しております。妻と娘を失ってから、アイツの心は壊れたみたいに何かを追いかけていました。私共はアイツが良い奴なのを知ってます。皆、家族の様に昔から暮らして来たのですから。
今は牢獄ですが、いつか罪を償って今度は自分の為に生きてほしい。私共はそう思っているのです」
「....それなら、多分大丈夫ですよ」
今のギャレンは既に前を向き始めている。過去との決別、そして相棒の言葉。今のギャレンにはその2つが刻まれている。もうこれで、彼が道を踏み外す事は無いだろう。
「ギャレン先生は、『もう振り返らない』って言ってましたから」
「....そうですか。それなら良かった」
笑顔で「もう大丈夫」と伝えると、ボードもそれを理解したのか自然と笑みが溢れていた。
「そういえば、此度の目的はお墓参りですよね?先程レオンハルト殿下よりお聞きしました」
「そうですね。カレンのお墓参りに来ました。来られないギャレン先生の代わりです」
「カレンちゃんの....!案内します。こちらへ」
ボードに案内され、殿下を置いてレサル村の隅にある墓地へと向かう。お供え物はギャレンから聞いた彼女の好物であるクッキーだ。王都で代々続いている洋菓子店の物らしい。
そして案内された場所にあった『アルドノトス家の墓』の前で止まる。
「私がいては邪魔でしょうから、外させていただきますね」
そう言ってボードは村の中心部へと戻っていく。私は持っていた花をお供えし、セレナ様がクッキーの入った袋を置く。
そしてゆっくりと祈るように手両手を握り、目を瞑った。
(カレンちゃん....お父さんの代わりに会いに来たよ....)
数分間祈り、私は目を開いて顔を上げた。それに呼応するようにセレナ様も動く。今日の目的はこの数分間のお祈りだ。まだ村に来て十数分しか経っていないが、もう目的は達成した。後は殿下が事後処理について何か話をするらしく、それを待てば完了である。
立ち上がって振り返った時、一人の女性がお墓の前で祈っているのを見た。彼女もお墓参りだろうか?と思いながらも、邪魔してはいけないと考えて素通りしようとする。
だが、その瞬間私の目はとある一点に釘付けになった。
「ファナ....レーベル....?」
その呟きが聞こえたのか、お墓の前で祈る女性がバッと振り返った。私留めがあった女性はすぐさま立ち上がってペコリと会釈をする。
「こんにちは、お貴族様。お墓参りでしょうか?」
「あ、はい。邪魔してしまいごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。それより、そのお方の方が心配なのですが....」
女性の言葉を聞いてふと横にいたセレナ様を見てみる。すると、セレナ様の頬につーっと涙が流れた。それもそのはず、“ファナ”というその名前は....
「ファ....ナ....?」
「お貴族様方はこの子の事を知っているのですか?」
「はい。色々ありまして....」
一応公開情報では無いのだが、目の前の女性は恐らくファナの母親だろう。それならば話してもいいと判断し、学園の幽霊騒ぎの時に彼女と出会ったこと、そして彼女の望みを叶えるという形でお茶会を開いたこと、最後に....彼女の魂を浄化したことを女性に伝えた。
「そんなことが....あったんですね....」
そう言うと、女性はポロポロと涙を零しながら膝から崩れた。我が子を失った悲しみが溢れたのか、女性は泣いた。
「あの子は....ファナは笑って逝きましたか....?」
涙で目を腫らした女性が尋ねる。彼女の問に対し、セレナ様が同じく目を腫らして答えた。
「はい。とても満足そうに笑って逝きましたよ」
「あの子....お貴族様のお茶会に憧れていたんです。ドレスを着て、お菓子を食べながら他愛もない話をする....そんなお茶会に強い憧れがあったんです。お貴族様方のおかげであの子の願いが叶えられたのなら....本当に感謝してもしきれません」
「いえ、私達もするべきことをしたまでです。ファナとはまたいつか出会う約束をしました。だから....今度会った時に笑顔で迎えられるよう、私も前を向いて行こうと思ったんです」
「お貴族様にそう言ってもらえたら、あの子も報われると思います。お墓参り....しますか?」
ファナの母親の好意により、私達はファナの墓の前で祈りを捧げる。横に座り、母親も同じように祈ってくれた。
数分間祈り、私達は立ち上がる。まさかファナの出身がこの村とは驚いた。だが、よくよく考えれば何故ファナの願いのみ叶えられたのかが不思議だったのだ。憶測でしかないが、教祖の答えが出た気がする。
(ファナとカレンは亡くなった年齢がほぼ同じ。それに、時代は違えど同じ村で生まれ育った少女。もしかしたら、カレンちゃんに情が湧いた結果あのお茶会が叶えられたのかもしれない)
もうカレンにもファナにも会うことはできない為真偽は不明。だが、なんとなくこれまでの内容を纏めるとそんな風になりそうだ。
あのお茶会のおかげで私はベアやメイルゥに出会うことが出来た。ファナとカレンには感謝しかない。
「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ娘の為にありがとうございました。村までは私が案内いたします」
最後に立ち上がったセレナ様を連れ、私達は女性の案内で村の方角へと向かう。
その瞬間....
『『『『ありがとう』』』』
そう聞こえた気がして振り返った。すると、ファナのお墓のそばに白い靄に包まれた人影が見えた気がした。それも一つではなく複数の人影。だが、瞬きを挟むと既にそこに人影はなく、ただお供えした花が風に煽られて揺れるだけだった。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありません」
女性の問いかけに対し、何も言わずに私は付いていく。私画振り返ったタイミングでセレナ様も同時に振り返っていた為、恐らく同じ声は聞こえていたのだろう。
セレナ様の目から流れる涙はすでに止まっており、私と同じように笑顔をお墓に返していた。
「行きましょう!ライラ様!」
「はい。行きましょうか」
私達は女性に付いていき、レサル村へと戻っていった。
後に残された花々が風で揺れる。その横をふわりと綺麗な蝶が通り過ぎ、青空へと飛んでいった。
これにて第3章の本編は終了でございます。
“学園夢郷編”いかがでしたでしょうか?
次のお話は一旦ライラから離れた幕間のようなお話となります。もう1話だけ、お付き合いください。
まだまだライラ達の戦いは続きます。
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次回更新日は1月29日AM 7:00の予定です。




