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ターフのカノジョ ~武里真愛編~  女子高生トレーダーへの一歩

スポットライトが私達を照らす。

「タフラジの時間です。どうも皆さん、こんにちはー!さなです」

スタジオに元気なさなの声が響くのを皮切りに、次々とアイドル達の挨拶が続く。

「IMAIでーす!」

「こんにちは。Alisaprojectのアリサです」

「マーナです。よろしくお願いします」

「「「「本日、奈良競馬場で行われるメインレースは大仏特別です。」」」」


こんな感じでいつものように番組の撮影が進んでいく。

もう、このラジオ番組収録も何度目になるだろうか。

最初はアイドル活動と聞いて面食らったけれど、だんだん慣れてきた自分がいる。

場数を踏めば簡単だ。何事も試行回数を重ねてうまくなっていくものだ。

最初は緊張して臨んでいたが、今では程々に気を抜いて、時々ふと他のことに意識を向けている瞬間もある。

番組の途中で、ふと先日の出来事が脳裏をよぎった。


そういえば三原は、朱龍学園でダート未勝利戦に行くって言ってたっけ。

三原、大丈夫かな?うまくやってるのかな。


私は自分で思っているよりも、三原のことが気になっているらしかった。

ラジオ収録が終了し、スタジオを簡単に片付けながら考える。


明日、三原の様子でも見に朱龍学園に顔出してみるか。



朱龍学園の校門前に私が着いたのは水曜日の朝のことだった。

格式高そうな校舎、厳しい真紅の門構え。

まさしく、朱龍の名にふさわしい豪奢な建物だ。



「これが朱龍学園か・・・」


初めて足を運んだ学校だが、流石の私も背筋が伸びる。

いざ行かん、と中に入ろうとすると、一人の少女が声をかけてくる。


「お座敷学園の関係者の方ですか?」


見知った顔だ。



「ああ、そうだよ。案内してもらえないか?」

「いいですよ!」


〇〇はあっさり快諾してくれた。〇〇の案内で格調高いエントランスホールへ入るとよく知る顔がそろっていた。


「なんだ、武里?どういう風の吹きまわしだ?」


目の前に立っているのは海老沢先生と三原たち。三原は嬉しそうな笑顔をつくる。


「真愛さん、来てくださったんですね」

「ああ。三原が不安がっていないか、ちょっと気になっただけだよ」

「嬉しいですわ!」

山口が人懐っこく寄ってくる。掌には調教時計が光っている。

「武里さん、今から調教時計図るんだけど見ていかない?」

おずおずと私の服の裾を引っ張る山口。

「そうだな、見ていこうかな。どんな結果が出るか、私もパソコンで分析するよ」

山口に絆されたわけではない。朱龍学園の練習風景は私にとって貴重なデータ資料だった。


「武里さん、こちらへ」

記者室へ案内される。机と椅子だけの殺風景な部屋だ。

「武里さんは記者席初めて?」

「初めて入るよ。何も無い部屋だな」

あたりを見回し、素直な感想を呟いた。あれだけ豪華なエントランスと比べると、どうしてもこういう感想になってしまう。



「さあ、時計をとるよ」

山口は右手に調教時計を構えながら左手で遠くの馬を指さし、

「武里さん、あれがベコだよ!」


あれが三原雫の愛馬、ベコか。私は山口から手渡された双眼鏡を目に当てる。そしてストップウォッチのスウィッチを入れる。まずはベコが単独で一頭走っているタイムを計る。そして次に、並走調教と言われる二頭並んで走るタイムを計る。



「実際どうなんだ?ベコは嫌がっているのか?嫌がっていないのか?」

私には動物の表情、喜怒哀楽がわからない。山口に尋ねる。山口だって馬の気持ちがわかるかどうか怪しいものだが、私よりはマシだろう。

「大丈夫・・・だと思う。結構ベコ、雫が言ってたみたいにダートの方が合うのかも」

山口はベコを観察しながら、真剣な目で答える。

「そうか、ベコはダート血統からな。うちの学校にダートコースがないだけで、実際ダートの方が合うケースがあっても不思議じゃない」


そして何周繰り返しただろう。私は、ふと気づいた。ベコは他の馬と並走している時の方がタイムが遅い。

「時計が思ったより上がらないな。でも、他の馬と並走してる時のベコの様子に山口は気づいたか?」

「うーんなんとなくベコ、後ろ走るの嫌みたいだよね」

「多分、ベコは顔に砂がかかるのを嫌がっているんじゃないのか?」

私の言葉に、山口の黒い瞳が驚いたように丸くなる。

「もしかして!それ、すごい気づきだよ。武里さん、すごいヒントだよ!」

早速、山口はその発見をみんなに共有したらしい。


午後からは、原因を探るべくベコにパシュファイアを装着させて再度時計取りを行った。時計は飛躍的に上がった。

ベコは他の馬の蹴り上げた砂が顔にかかるのが嫌でタイムを落としていたのだ。


「これは期待できそうだな、武里、でかしたよ!さっすが、うちの優等生!」

先生は上機嫌で私に話しかける。

「よし、ベコの弱点も潰したし、あとは勝つだけだな。頑張れよ、三原!」

私は三原にそう声をかけ、記者席を後にした。





エントランスホールへの廊下で、私は見知らぬ少女の存在に気付いた。特徴的な緑のツインテールに青いリボン。

彼女は近づいてきて、私を睨みつけた。

「あんたが武里さん?」

「何だい君は?」

不意に声をかけられ、思わず素っ頓狂な声で尋ねる。こんな子、知り合いにいたっけ。

「あなたが武里さんでしょ?なんだっけ、あのソフト。当てる君だっけ?作ったんでしょ?」

こんな離れた学校の子にも私の研究の成果が知り渡っていることに驚きを隠せない。

「ああそうだ。当てる君は私が作った。それが何か?」

私の返答にその少女はすかさず食いついてくる。

「あたしと勝負しなさいよ。あたしの予想とあんたのそのソフト、どっちが上なのか。勝負よ!」

いきなり、この子は何を言っているんだ。初対面なのに、上だの下だの勝負だの。到底付き合っていられない。

「何で私がそんなくだらないことに付き合わないといけないんだ?だいたい、そんな勝負に何の意味がある。私に何の得がある。馬鹿馬鹿しい。なぜそんなことに私が時間を割かなければいけないんだ?」

「ははーん、武里さん。さてはあたしに負けるのが怖いんだね!そうだよね~、当てる君の評判いいもんね。天才のあたしに負けると評判落ちちゃうから、それが怖いんでしょ?だから勝負できないんでしょ!はいはい、わかったわかった。じゃあいいよ、別に勝負しなくても」

「私は君と勝負しに来たんじゃない。三原を応援しに来たんだ。邪魔だからどいてくれないか?」

子供じみた挑発に対して、私は冷静に返した。こんな餓鬼っぽいやつ、真剣に取り合うだけ時間の無駄だ。

「は?あたしが邪魔?勝負しに来たんじゃないですって?もしかして、あんた本気であたしにビビってんの?」

なんだ、この子は。すごい言いがかりで食らいついてくる。いよいよ相手にしたくない。

私は言いがかり少女を振り切ってエントランスホールに向かう。

「ちょっと、待ちなさいよ!!!」

彼女は全速力で追いかけてきて、出口の扉前で両手を広げて通せんぼうした。

「勝負しなさいよ!あたしは当てる君なんかより凄い予想出来るんだから!」

何がこの少女をこんなに必死にさせるのか。

「急ぐことはない。いずれその時が来るよ。一応、きみの名前を聞いておくよ」

埒が明かないので私はそう切り出した。

「あたしの名前は池田里美!」

「池田里美、今度勝負しよう。今日は時間がない」

私の提案に里美は納得したように頷いた。

「時間が無いなら仕方ないわね。いい?次に会った時はは必ず勝負だからね!」

「わかった、池田里美。次に会った時はな」

「ちょっと!」

里美が声を荒げる。

「なんだ池田里美、いきなり大きな声を出すな」

「なんでフルネームで呼ぶの!?」

「嫌なのか?池田里美」

「あんた、もしかしてあたしのことバカにしてる?」

「別に。バカにするもしないもないだろ、会って間も無い人間に。時間がないからもう行くぞ。またな、池田里美」

「フルネームやめてー!」

顔を真っ赤にした里美の金切り声を背中に、私はエントランスホールを後にする。


帰りの電車の中で思い出した。

「池田里美。彼女の付けていたあの腕章、調教師か」

馬匹を預かり調教するという職業上、馬を見る目は自然と養われる。ポッと出の当てる君が競馬界を席巻して、内心面白くなかったのかもしれない。自信を持つことはいい事だ。しかし、自信過剰は考えものだ。彼女とは近いうちにまた会うことになるだろう。


スマホのアラートが鳴り響いた。チェックしていた銘柄の情報が公開された。

やはり、MACDの波である程度短期の株価変動は見ていけそうだな。私も早く自分の手で投資がしたいものだ。しかし、先立つ費用が無い。どうやってその資金を工面しようか・・・。


考えなくてはならない。


私は資金調達のことを考えながら眠りについた。


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