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婚約の申込みは卒業パーティーで

作者: 千子

「エリオット・フォンテーヌ様!貴方にお話がありますの!」




この数年、学園の卒業式には婚約破棄が流行っていて毎年幾組かの婚約が破棄されていた。

今年も流行りに乗ったお馬鹿さんが出たのかと遠巻きに見ていると、そもそもエリオット・フォンテーヌはまだ誰とも婚約していないとの噂だ。

それではあのご令嬢―――エリザベス・ココレット嬢は何の用でエリオットを呼び出したのか?




「わたくし、ずっと言えませんでしたが貴方のことが好きですの。もしよろしければわたくしとお付き合いしてくださいませんか?」


婚約破棄ではなかった。

むしろ婚約の申込みだった。




エリザベスは婚約者を見付けるのが目的で学園に入学した。

もちろん、その前から八方手を尽くしたがなかなか田舎の弱小貴族に入婿に来てくれる人物がいなかった。

一人娘として、新たな縁と入婿を探すため一族の未来と期待を背負って入学したものの、特に顔がいいわけでも成績がいいわけでもなく突出したものがないうえに引っ込み思案なエリザベスは誰にも声すら掛けられずにいた。



そんな学園生活もこれがもう最後。

ならば恥はかき捨て世は情け…せめて卒業パーティーで好きな方に告白致しましょう!

婚約破棄を告げることが流行りとして流されているなら、婚約を申し込んでも許されますわよね!

という結論に至った。

惜しむらくはこれを止める友人がエリザベスにはいなかったことである。




エリオット・フォンテーヌは困惑した。

突如見知らぬ令嬢から告白されたのである。

「なぜ、僕を?」

「お顔がとてもよろしいからですわ!」

とエリザベスは豪語した。

ちなみにエリオットは顔がいいわけではなく、単なるエリザベスの主観である。好みである。

エリザベスは内心、あーーー!!!わたくしのばか!!もっと色々理由考えてきたしあったのに!!

これもエリオットさまのお顔がよろしいのが悪いのですわ!とエリオットの顔のせいにして、そのまま勢いでエリオットに迫る。

「さぁ、エリオット様!どうなんですの!?わたくしとお付き合いしてくださるんですの?どうなんですの!?」


今日はエリオット好みの外見で仕立ててきている。少しは関心を持ってくださる筈だとエリザベスは考えた。

エリザベスはエリオットのことで知らないことはほぼなかった。

知った瞬間から婚約者の有無から始まり好物や特技、友好関係などストーカーの如く調べあげた。偵察向きである。


対するエリオットは周囲からこんなに注目されることもなかったし、早く騒動を終わらせて普通の平凡な卒業生の一人に戻りたくて仕方がなかった。

そのためにはエリザベスに返答しなくてはならない。

エリザベスの情報収集能力のおかげで本日のエリザベスはエリオットの好みだ。好感が持てる。

それに同じ衆人環視の中、エリザベスのせいであってもレディを待たせるわけにはいかない。

かといって即婚約とはいかない。家にも話を通さねばならないし、このエリザベスというご令嬢はなんとなく面白そうだとは思うが一生の問題をそんな風に簡単に決めてしまってはいけない。

結局、エリオットが出した答えは非常に無難なものになった。

「まずはお友達からでよろしくお願いします」

頭を下げ差し出される右手。

煮え切らない返答だったが、それを見た瞬間エリザベスは右手に飛び付き両手で握りエリオットの右手を上下にぶんぶんと振りながらありがとうございます!と返した。

周囲からは拍手が贈られた。


「やりましたわー!エリオット様とお友達になれただけではなくて初めてお友達が出来ましたわー!」

小躍りしそうなエリザベスに、エリオットは早まったかもしれないと後悔を抱いたが、この事が原因で卒業パーティーでは婚約破棄より最後の想い出として婚約者がいない者が思いを告げることが後々主流となり、エリオットとエリザベスが数年後には式を挙げ、夫婦となりたくさんの孫に囲まれ幸せな老後を過ごすことをまだ誰も知らない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 学生生活最後の日の思い出作りに愛の告白、昔の「第二ボタンください!」的な感じで良いですね。 失敗しても、暫くは当人と会わないから気まずさも感じなくていいし誰も不愉快にならないからいいと思いま…
[一言] 勢いは大事 伝説の木の下ではなく伝説の大広間での告白劇が伝統になるのですね
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