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2-2

 「主人……何言ってんの、お前?」


 アイーシャはメイスを握る手に力を込めた。魔法カナリアは緑色のまま魔導人形の上をせわしなく飛び回っている。危険な意思は感じられないようだが、気を抜く気にはならなかった。

 だが突然左手の甲に焼けるような熱を感じ、思わず叫んでしまう!


「あちちち! ちょっ、何! 何なのよこれ! お前の魔法?!」


 魔導人形は不思議そうにアイーシャの様子を見ていたが、自分の右手を持ち上げ手の甲をアイーシャに向けた。


「契約だよ。君と僕の間に主従関係が結ばれた」


「主従関係ですって?!」


 知らぬ間に下僕にでもされたのか?! アイーシャは狼狽えながらも左手の手袋を外し、焼けるような痛みのあった手の甲の様子を見る。さっきまでは鋭い痛みがあったが今は治まり、しかし甲にはミミズ腫れのような模様が浮かんでいた。

 真ん中に目のような形があり、それを囲う一回り大きな丸の左側から三本の棒が羽のように生えている。石棺の表面にあった模様と同じものだ。


「私があんたの下僕って事? 冗談じゃない! 何なのよこの手の模様は! お前みたいなポンコツ、ぶっ壊してやる!」

 アイーシャがメイスを振りかぶると、魔導人形は落ち着いた声で言った。


「違う。逆だ。下僕なのは僕の方だ。主は君だよ」

 そう言うと魔導人形は立ち上がり、石棺をまたいで外に出た。そして石棺の中を探って白い色の奇妙な剣と鞘を取り出した。


「何よ! や、やる気?!」

 剣を見てアイーシャは慌てるが、それを悟られないように大声でごまかす。まるで小型犬が必死で吠えているかのようだった。


「君はまだ誤解しているようだな。本当はもっと先の時代で目覚めるはずだったような気もするが……目覚めた以上は仕方ない。君を守ることが私の使命だ。とりあえずそのメイスを下ろしてくれないか?」

 そう言い、魔導人形は鞘を腰の左の金具に取り付け、剣を納めた。


「……敵じゃない。このダンジョンの魔物でもない?」


「そうだ。私は君の味方だ。突然のことで面食らっているのだろうが……それは私も同じだ。どこなんだ、ここは?」

 魔導人形は部屋の中を見回しながら聞いた。


「どこって……ここは物見の洞の奥のダンジョンよ。なんてダンジョンか名前は知らないけど」


 アイーシャは警戒しながらもメイスを下ろし、魔導人形の様子を見ていた。なんだか急に疲れてきた。魔導人形が勝手に目覚めて、しかも自分の下僕になったとは。一体全体何が起きているのか理解が追いつかない。まるでめまいが起きそうだった。


「ダンジョン……知っている言葉だな。しかし……分からない事の方が多そうだ。第一、僕は一体何なんだ?」


「そんなの私が聞きたいくらいよ! なんでそんな石棺に入ってたの? 魔導人形をダンジョンに埋葬するなんて聞いたことがない」


「埋葬じゃない。休眠だ。その時が来るまで眠りについていたんだ……その時って、何だ?」

 魔導人形は自分の言葉の意味さえ分かっていない様子だった。


 動いて喋るから壊れていないと思ったが、やはり内部はだめになっているのかもしれない。アイーシャはこの魔導人形が売り物になるかどうかを考え始めていた。見つけたのは自分だし、この魔導人形自身も自分を主人だと言っている。ならば売り払っても誰も文句は言わないだろう。ただ――。


(この左手の模様は一体何なのかしら……どうすれば消えるの?)


 魔導人形は主従関係の契約と言っていたが、何にも同意していないのに勝手に契約されてしまった。一生このへんてこな模様が描かれたままなんてふざけた話だった。


「おい、大丈夫か」


「え?」


 グラリと視界が揺れた。何だ、これは? アイーシャはメイスを構えようとするがうまくいかない。急に地面が顔に近づいてくる。視界が暗くなり……やがて何も分からなくなった。

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