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1-1

 アイーシャ・ラクアは、祖父エルデンの制止を振り切って家を出ていこうとしていた。鎖帷子と革製の兜を身に着け、手にはまだ新品で錆止めの油も取れていないメイス。心には強い決意を秘め、その決心が揺らぐことはなかった。アイーシャは自分を止めようと肩を掴むエルデンの手をそっと引きはがすが、エルデンもまた諦めずに今度はアイーシャの腕を掴んだ。


「一人でダンジョンに行くなんて、お前にはまだ無理だ! しかも物見の洞のダンジョンにはずっと誰も入っていない。今現在どうなっているか分からんのだぞ!」

 エルデンはアイーシャを引き留めようと必死に説得を続ける。悲痛な声が部屋に響き渡るが、それでもアイーシャを心変わりさせることは出来なかった。


「だからこそ行く価値があるんでしょ? ずっと誰も入っていないなら、その分魔力が蓄積されてすごいお宝が生み出されてるかもしれないじゃない!」


 アイーシャは腕をつかんだエルデンを引きずるようにして、廊下を歩いてドアに向かっていく。


「すごい何かが生み出されるというのなら、それは魔物についても同じだ! 罠もそうだ! 魔力で財宝が生まれるように、危険な物だって生み出される! とにかくやめるんだ!」


 エルデンから顔を背けていたアイーシャだったが、足を止め、思いつめた表情でエルデンに鋭い視線を向ける。


「アストラダンジョンに一緒に潜ってくれるパーティはどこにもいない。この街中を探したっていなかったのよ?! だったら一人でやるしかないじゃない! それにダンジョン管理組合に払うお金もないんだから、アストラにはどのみち入れない。大昔の古ぼけた非正規ダンジョンでこっそり財宝を探すしか方法はないのよ!」


「金の事なら……わしが、何とか……。確かに疫病のせいで仕事が減ってはいるが……昔の知り合いに相談して、何とかしてみる」


 力無くエルデンが言う。それが無理なことである事を、理解しながら……。


「無理よ! これ以上内職を増やしたってたかが知れてる。森の魔物を狩っても大した金にはならない。娼婦に身をやつすか、ダンジョンで稼ぐか。そのどちらかしかない……私は体を売るなんて、それこそ死んでもいやよ……」


 アイーシャにそう言われ、エルデンは言葉を失った。


「しかし、やはりダンジョンは危険だ……」


 エルデンは自分の足元に視線を落とした。そしてアイーシャを掴んでいた手を放し、自分の右脚を押さえる。エルデンの右脚の膝から下は義足……七年前にアストラダンジョンで魔物の生体材料を集めていた際に負傷し、結果的に脚を切断することになってしまったのだ。

 それ以来エルデンは調達士を引退し、家の中で籠を編んだり動物の皮の加工等の内職でアイーシャとの生活を支えてきた。


「深層には潜らない。魔物の相手はしない。お金になりそうなものを集めて、さっさと帰る……約束するわ……」


 アイーシャはエルデンの右手を取り、まっすぐにエルデンの目を見つめた。

 エルデンが心配する気持ちはわかる。ダンジョンを恐れている理由も分かっている。しかし、それでも行かなければならない。そうでなければ今までの暮らしを守ることはできないのだ。自分と祖父のために、アイーシャは覚悟を決めていたのだ。


「……行くわ」


 アイーシャはエルデンの手を放し、ゆっくりと家を出ていく。


「……早く帰ってくるんだぞ」


 ドアの向こうに消えたアイーシャの姿に、消え入りそうな声で声でエルデンは言った。

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