第二話 不真面目大学生、乙女ゲームと出会う
「Galaxy beat EXE〜君の瞳はブラックホール〜」
宇宙帝国の宇宙伯爵ドミリニオ家の内情は火の車。だが伯爵家として恥ずかしくないようにその令嬢(主人公)アイレーンは「伝統あるブランセブル高等学院」への入学をしなければならなかった。貴族の本分、領地経営をしながら学生らしく生活をする。それが「伝統あるブランセブル高等学院」である。再建を胸に領地経営へと乗り出す。学園で宇宙海賊、宇宙帝国軍大将、宇宙商人、宇宙皇子とたくさんのイケメンたちとの恋ありトラブルありの学園生活を楽しもう!!
「Galaxy beat EXE〜君の瞳はブラックホール〜」
あらすじより抜粋
それは乙女ゲーム界に舞い降りた期待のゲーム。
狙いを外さない個性的なイケメンキャラクター。
旬な声優を配置して話題をさらい、発売前からその注目度の高さでイベントをすれば大盛り上がり、グッズを出せばバカ売れ。池袋界の救世主。
そんなスーパーコンテンツとなったゲームは遅延に遅延を重ね、その間にコンテンツの人気はうなぎのぼり。
そんな中待望のゲームが発売したが、それは宇宙伯爵令嬢となった夢見る乙女たちに阿鼻叫喚の地獄絵図をプレゼントした。
ゲームの進行は経営破綻しかけた自国の領地をなんとかして盛り立てていく領地育成ゲーム+学園生活。
領地育成ゲームらしく、たくさんの数値の羅列とコマンドを駆使して領地の発展と安定を目指す。その数字の羅列にまず辺境令嬢プレイヤーは「?」の嵐に飲まれる。
なんとなくナビゲーターの宇宙執事の指示に従い、ゲームを進めても領地に起こるトラブルは尽きず、数字は上がらず、学園では主要イケメンに会うことなく領地没収。
宇宙執事に罵倒され、家を追い出されるエンディングを迎える令嬢たちが続出。
イケメンたちとデートをしても好感度が上がらない、なんてのは当たり前。ノーマルendの条件を達成するだけでも一苦労。そんなイカレたゲームであった。
だがイケメンに魅了された真の乙女たちは一度放り投げたコントローラーをゾンビのように手に取り、SNSでお互いを叱咤激励、情報共有し、己が愛する彼のため、死屍累々、幾千もの屍を乗り越えて押しに愛されるために寝ずの努力をする猛者が増えていく。
ネットでも条件が特定できないものが多く、できた、できない論争でネットは炎上し「くそゲー」の名をほしいままとする。
だが、その一方でその異常な難易度はヌルゲーに埋没したゲーム業界の希望の星として多くのヘビーゲーマーを虜にした。イケメンを攻略するため色物ゲームなどやならいと言いそうな堅物ゲーマー(男)たちがこぞってこの乙女ゲームの攻略を熱烈に行っていたのは異様な光景だった。
そして徐々に白日の元にさらされるゲームロジックは多くのゲームプログラマーやプランナーたちが舌を巻くほど性質の悪いもとい、巧妙かつ秀逸なバランスに保たれていた。
そんなゲームに俺、上場 真澄もどっぷりとハマった一人だった。
あの日、友人の健人が珍しく電話で朝までゲームしてついさっき寝て俺を叩き起こして大学に呼びつけ
「このゲーム、激ムズだぜ?どうやってもトゥルーendたどり着かねーってネットでも噂でさ」
そう言って持ってきたのがきっかけだった。
パッケージを見て眉をしかめたのは当然のことだった。
ふわふわした女の子のキャラの後ろにイケメンが四人。
「……乙女ゲームじゃねーか」
俺の嫌そうな顔をニヤニヤしながら見る健人。
「そっ。いまネットでも騒がれてんだぜ?そうとうえぐい難易度だってな。あのダークストームズ」を超えるんじゃね?ってさ」
「ダークストームズ」は難易度の高いので有名だ。
死ぬことを前提に作られたゲームで「3歩歩けば死ぬ」という謳い文句はわりと嘘じゃなかったゲームだ。このゲームには俺もドハマりした。
「そりゃ言いすぎだろ。俺もこの絵見たことあるけどたしかスゲー人気だったろ?ゲームって結構前に出てなかったっけ?」
俺は興味なさげにふらふらとパッケージをもてあそびながらシュタバのコーヒーを飲む。
「いや、もともともゲーム出るって発表されてたらしいんだけど伸びに伸びてさ、その間にキャラだけ先行して大人気だったらいいのよ。キャラソンバカ売れしてたらしいぜ?」
健人は妙に詳しかった。
「んで、こないだゲームがでたんだけどさ、えぐいくらい攻略条件が難しくってネットで話題になってさ。俺も彼女に頼まれてやったんだけどどうしてもトゥルーendに辿りつけなくて……」
”彼女”と言う単語にコーヒーのストローを加えたまま俺の眉間にしわが寄る。
「……お前、彼女できたの?」
「あ、いやぁ……こないだちょっとSNSで知り合ってさ。それが同じ大学で……」
とニヤニヤとのろけ話を始めた。だいたい理解した。要は俺の仕事はクリアしてデータを渡すことのようだった。
「だいたいわかった。んじゃ俺はこれをやってみるわ」
「え?話はまだ……」
健人がのろけたがってたのが分かったから俺は話を切って講義室に戻る。
たまに学校こい、とか声かけてきたのはこのためかよ。
俺はうんざりして出席だけ取ってこっそりと家路についた。
その日から俺はそのゲームに夢中になった。
寝ずにプレイし、何度も怒りでコントローラーを投げた。
ネットの情報を探り、ステータス上げでリセットを繰り返す。
一人目の宇宙商人のトゥルーエンドを見た時はうっかり感動で波がこぼれたほどだった。
そして2人、3人とクリアしていく。
5人全員クリアしたときは感無量な気分で1時間ほど放心したほどだった。
だが、CG達成率は64%。
俺は我が目を疑い、ネットの情報を読み漁る。
だが、ネットの情報こそすでにうさん臭さ満載で、クリアできなかった毒乙女たちが腹いせに偽情報を流し、どれがほんとでどれが嘘なのか分からぬ状態。
こうなると誰も信じれない。俺はよく一緒にゲームをするオンライン仲間の力を借りで
CG達成率98%までもっていった。
あと埋まってないのはったの3枚。
どうもほとんどの攻略プレイヤーがこの3枚を埋め切れてないようだった。
そこで一つの噂が流れてきた。それは悪役令嬢ラフィリアとの百合end説。
この作品にはことあるごとに主人公に嫌味を言いに来るライバル令嬢がいる。
俺は付き人の宇宙執事ケーニッツよりこいつのことが嫌いだった。攻略には一切関与しないシナリオ上でてくるだけの脇役キャラだと思っていたため、気にも止めていなかった。
「なるほど。たしかにあり得るかもな……」
俺疲れた身体を休めるためベッドへダイブする。
公爵令嬢 ラフィリア・ガイアシュナン。
どのシナリオでも絡んで来て最後は必ず死んでしまう。
嫌味なキャラでステータス上げに失敗したときなど、全力で嫌味を言ってくるこのキャラに、俺はムカつきつつも必ずラストはザマァミロ!!という気分を味合わせてくれるキャラだった。
さて攻略できるとすればどのあたりだ?なんのステータスが関与してどのキャラのシナリオが関係してくる?
このゲームの今までのロジックを考慮しつつ思考を走らせ……俺はそのまま深い眠りに誘われた。
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目を覚ますとなにやらへんな明るさだ。
まだ薄暗い。青いブラックライトのような光が室内を照らしていた。
ん???ブラックライトなんて部屋にあったか?
俺は身体を起こす。
真夏だったのに部屋が暑くもなく寒くもない。
エアコン調節してたっけ?
なんだか胸が重かった。
ふっと目を胸元に落とすと
そこには見たこともないほど立派な双丘が。
「な、なんじゃこりゃああああ」
俺は飛び上がるとそのまま天井まで飛び上がり頭を打ち付けた。
そのまま今度は地面に向けてゆっくりと身体が移動していく。
落ちるのではない。そう移動していくのだ。
俺は慌てふためきわちゃわちゃと手を動かす。すると今度は身体が回りはじめた。
「な、な、な」
そのままぐるぐる回りながら地面に向かって移動していく。
「なんだこれ、ちょっと、助け……」
プシューっという小さな空気の漏れるような音がなり、眩しい明かりが入ってくる。
「なにしてらっしゃるのですか?お嬢様」
俺は声のした方に視線を送る。明るい光を背負った長身のイケメンが立っていた。
≪お前はっ!!大宇宙執事レイニール!!≫
「ちょっとレイニール、早く手を貸しなさい!!」
ゲーム中、悪役令嬢ラフィリアの隣にいつも立っている糸目のイケメンがティーポットセット片手にあきれ顔で立っていた。