ここにて婚約破棄を宣言する。
「アリーナ・カステルス公爵令嬢。私は真実の愛に目覚めたのだ。お前とは婚約破棄をし、
ここにいるマリア・スティル男爵令嬢と婚約を宣言する。」
この国のジルト王太子が男爵令嬢マリアを横にはべらせて婚約破棄を宣言した。
すると生徒達から一斉に文句を言われる。
「おかしいですよ?何も今、宣言することですか?」
「そうだそうだ。」
「卒業パーティで宣言するのが常識でしょう?」
「何も入学式で宣言しなくてもいいじゃないですか?」
一斉に詰め寄る生徒達。
婚約破棄をされたアリーナ・カステルス公爵令嬢はホホホホと笑って、
「いいんですのよ。皆様。ああ、学園長。わたくし、この学園に入学する必要がなくなりましたわ。王太子殿下の婚約者だったので、この国で学ぼうと思っていたのですから。入学は取りやめて、かねてからの夢である隣国へ留学しとう存じます。」
学園長は真っ青になって、
「それは困ります。アリーナ様。カステルス公爵家の寄付があってこそ、この学園はなりたっているのですぞ。それなのに…」
扇を手にしてアリーナはオホホホと笑って、
「そうですわね。この学園の備品、机やら色々な諸々、返していただこうかしら。
わたくし、この学園に通わないんですもの。返して貰うのが当然ですわ。」
生徒達が文句を言う。
「机無しで勉強しろと???」
「床に座って勉強するなんて聞いたことが無いぞ。」
「椅子がないなんて信じられないわ。」
そして一斉にジルト王太子に生徒達が迫って、
「王太子殿下のせいですっ。」
「どうしてくれるの?」
「責任取ってくださいっ。」
ジルト王太子は学園長に、
「貴族達から高い学費を取っているのではないのか?」
学園長は言いにくそうに、
「実は他の事業に失敗しまして、そちらの補填に使って…火の車状態で…
カステルス公爵家にご寄付を頂いて何とか学園が経営出来ている状況なんですよ。
王太子殿下、王家がなんとかしてくれませんか?」
「出来るかっ。」
アリーナはジルト王太子殿下に、
「出来ませんわよね。今回の婚約破棄の事、国王陛下は当然、知らないのでしょう?
お怒りになりますわよ。」
「しかしだな。私は真実の愛を…マ、マリア?」
マリアは真っ青な顔で、
「こんな事になるなんて。真実の愛なんて知りませんっ。ごめんなさい。」
慌てて、生徒達の中に紛れるマリア。
「マ、マリアっ???そんな…」
ジルト王太子はがっくりと肩を落とす。
その時である。
背の高い黒髪碧眼の凄い美男が現れて、
「アリーナ嬢。どうか、この学園に残って頂けないだろうか?」
「貴方様は?」
「私は学園長の息子である、リュート・レリウスと申します。」
「リュート様。」
アリーナはうっとりとした眼差しで、
「このような素敵な方がいらっしゃったなんて…」
「ちょっと待ちなさいよ。」
そこへ現れたのはパツパツのドレスを着た、体形がふくよかな女性が声をかけてきて。
「わたくしは、留学している隣国の王女、デブリーナよ。わたくしがお金を寄付して差し上げます。ですから、リュート。わたくしの婚約者におなりなさい。」
アリーナはデブリーナの前に進み出て、
「これは王女様。我が公爵家の寄付がありますから、必要ありませんわ。
わたくし気が変わりましたの。リュート様。わたくしと婚約して下さいませ。
わたくしの美貌はこの通り、美しいでしょう。そこのブ…いえ、ふくよかな王女様と違って、お美しい貴方様のお眼鏡に叶うと思いますの。」
「豚とは何よっ。」
怒り出すデブリーナ。
「ブとしか言っておりませんわ。」
アリーナはリュートを見上げて、
「それとも貴方様はふくよかな方がお好き?」
リュートは真面目な顔で、
「私が好きなのは…」
「「好きなのは?」」
「お か ね です。」
「「まぁ、正直な方。」」
アリーナは叫ぶ。
「カステルス公爵家の学園への寄付を倍増致しましょう。」
負けじとデブリーナも叫ぶ。
「わたくしがお世話になるんですもの。倍額、いえ、三倍返しですわ。寄付致しますわ。」
生徒達は呟く。
「三倍返しって…返しじゃないだろ…」
「それにしても、恋って恐ろしい。」
「まぁ俺達は床で勉強しなくなっただけでも良かったと思えるんだけど…」
ジルト王太子はアリーナに向かって、
「すまなかった。反省した。婚約破棄は無かったことに。」
アリーナは爽やかな笑顔で、
「一度言った事を覆すなんて、王族らしくありませんわーー。わたくし、婚約破棄をお受けいたします。」
くるりとジルト王太子に背を向けると、リュートの傍に行き、
「ああ、リュート様。これからお昼はわたくしと一緒に食べましょう。」
負けじとデブリーナもリュートの腕を取って、
「わたくし、料理なら得意ですの。わたくしのお弁当を食べて下さいませ。
お昼はこれからわたくしと食べる事に致しましょう。」
アリーナはデブリーナを睨みつけて、
「デブリーナ様。わたくしがリュート様とお昼をっ。」
デブリーナもアリーナを睨みつける。
「いえ、わたくしがリュート様とお昼をっ…」
リュートはにっこり笑って、
「今の段階で私はお二人どちらとも言えません。多大なるご寄付有難うございます。」
学園長もモミ手をしながら、
「本当に助かります。これで我が学園は持ち直しますぞ。」
生徒達は思った。
平和な学園生活を送りたいと…
そして、婚約破棄は卒業パーティで行うのが一番だよなぁ…とも…
入学式で婚約破棄という前代未聞の事件の末、
公爵令嬢 VS 王女 の恋の戦いは今、始まる。