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わたし、魔女の弟子になります!  作者: ふえるしむ
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7話「決意」

「私は馬鹿だ!」


当然こうなる可能性はあった。

考えが甘すぎたのだ。


この日も私は学園で生徒を相手に授業をしていた。

すると突然、コートの内ポケットにしまっていた探知のサファイアが、今までと比べ物にならないほど赤く光りだしたのだ。

これはダフネの魔力が覚醒に至った事を意味するのは疑いようがない。


魔王の記憶を取り戻したのか、それとも…。


いずれにせよ、彼女のこの変化を見過ごすわけにはいかない。

私はこの光の意味も分からず驚く生徒たちをなだめてから授業を切り上げ、急いで飛行魔道具に飛び乗った。


この魔道具は魔力を風に変えて噴き出す事で、凄まじい推進力を得るための魔道具だ。

ただ魔力を込めただけでは真っ直ぐにしか飛ばないので、上下左右に込める魔力量の差で操縦しなければならない。

私が操作した時の最高速度は音速を超える。

この速度に合わせて微細な魔力コントロールと膨大な魔力が要求されるため、乗られる者は限られていた。


私は自身の前に魔力障壁を展開し、迷わず全速力を出してカリスの家へ向かった。


こんな事なら私の家とカリスの家も魔法陣で繋げておくべきだった!


カリスが弟子を卒業した際にそういった提案をしたのだが、過保護すぎると言われて断られていたのだ。


ヘフトからテネリザの森にあるカリスの家まで十分弱。

私は最悪の事態を想定して背筋に汗が伝うのを感じながら、音を置き去りにした。


------------------


ダフネが瞑想を始めてから十分ほど経過した。

ダフネの魔力は瞑想の時間が進むにつれて、球体のように丸みを帯びていった。

これは魔力をコントロールできるようになった証拠であり、その事実は私をますます驚愕させた。


この馬鹿げた魔力量を差し引いて考えたとしても、通常は魔力の知覚まで一ヶ月はかかる。

その魔力をコントロールして自由に動かせるようになるのにもう一ヶ月。

ダフネはこの短時間でそれらの過程をすべて飛び越えてしまったのだ。


「平常心、平常心。」


私は心を落ち着かせるために、ダフネに聞こえないように小声で呟いた。

まだ魔法が使えないとは言え、魔力だけ見れば私の師匠と比べてもさほど遜色ない。

しかしダフネの人柄のせいもあるのか、強大な魔力をまとっているのにも関わらず、不思議と威圧感は感じなかった。


常軌を逸した天才だっただけでダフネはダフネなんだし、ちゃんと私が師匠しなきゃね。


先程までソフィアに預ける事も視野に入れていたが、真面目に瞑想をしているダフネを見てなんとか思いとどまった。

まだ二週間程度しか一緒に暮らしていないが、なんだかんだ言って私を慕ってくれる初めての弟子が可愛くて仕方ないのだ。

そんな事を考えていると、突然背後から巨人が槌を振り下ろしたような轟音が鳴り、私は驚いて振り返った。


一瞬地面が爆発したのかと思った。

しかし、振り返った視線の先にある地面の隆起を見て、何かが墜落してきたのだと察した。

その落下物について敵襲か隕石くらいしか思いつかなかったが、前者には全く心当たりがないので、後者の可能性が高いだろうという予想を立てた。


しかし私の予想は大いに外れた。

そのクレーターのようになってしまった地面から出てきたのは、私の師匠だった。

ひょこっと出てきた彼女は、今にも泣き出しそうな表情を浮かべて叫んだ。


「よかったーー!!」


わけも分からずその場に立ち尽くす私の方に師匠は駆け寄り、抱きついてきた。

私は彼女のあまりの勢いに身体のバランスを崩してよろけたが、なんとか受け止める事ができた。

この時ばかりは幼女のような師匠の体躯に感謝した。


「きゅ、急にどうしたんです!?」


「本当に無事でよかったよ!!」


普段はひょうきんな態度の師匠が今までにない焦りを見せている。

このクレーターは飛行魔道具をほとんど減速させずに着陸させたからできた物だ。

いつもの師匠なら、これみよがしに優雅な着地を見せつけてしたり顔を披露しているのに、余程急いでいたのだろう。

師匠がこんなにも私の身を案じるほど、危険な出来事なんてあっただろうか。


ふとダフネの方を見ると、彼女は口をぽかーんと開けてこちらを見つめていた。

そこで私は気付いてしまった。


あ、ダフネの事か。


今ここで最もイレギュラーな存在は彼女だろう。

師匠はきっとなんらかの方法でダフネの異変を察知し、急いでここへ駆けつけたのだ。

私は早く彼女の事を誰かと共有したいと思っていたので、濁さず明け透けな質問を小声で師匠へ投げつけた。


「やっぱり、ダフネちょっと変ですよね?」


それを聞いた師匠は私を解放して、急に真剣な表情を浮かべて話し始めた。


「彼女は魔力を覚醒させただけみたいね。突然変な事を言ったりしてなかった?」


「魔力以外は普段通りのダフネですよ。」


悲しい事に私の勘が当たってしまった。

師匠の口振りからしてただ天才というだけではない、悪い方面での秘密がありそうだ。

私の返答を聞いた師匠はダフネを見つめて黙った。

突然自分の話を始める大人二人を見ているダフネは、初めてここへ来た時のような不安げな顔をしている。

私はそんなダフネをそっと抱き締めた。


「師匠は知ってるのですね?この子の身に何が起きているのか、ちゃんと話してくれませんか?」


師匠は黙って私たちを見つめ、沈痛な表情をしている。

どうやらとても話しにくい秘密があるらしい。

彼女はしばらく沈黙を保った末に、ようやく観念したのか口を開いた。


「そうね、話すわ。ダフネについてね。」


------------------


突然、ソフィア様が来訪された。

瞑想の修行中だったのだが、思わず目を開いて中断してしまった。


二人の話を聞いていると、どうやら私が理由の訪問のようだ。

魔力や覚醒などと話しているが、私には全く理解できない。


もしかして、この魔力は持ってちゃダメな物なのかな?


そんな不安が私の中に芽生え、急に自分の立っている場所が消えて宙に浮いてるような感覚に陥ってしまった。

それを察してくれたのか、カリス様が私に近づいて抱き寄せてくれた。


この温かさはいつも私を励ましてくれる。


慈愛に満ちたカリス様の抱擁のおかげで、私はなんとか平静を取り戻した。

しかし、ソフィア様の話し始めた内容のせいで、私は再び困惑する事となった。


「単刀直入に言うと、ダフネには魔王の魂が宿っているわ。」


昔、母からこんなおとぎ話を聞いた事がある。

魔王と勇者のお話。

ソフィア様はその話が実際にあった話だと言うのだろう。

ふと、カリス様の表情をうかがってみたが、彼女も核心には至れていないようだった。

そんなカリス様が疑問を口にする。


「魔王は死んだはずでは?」


それを聞いたソフィア様は、意を決した様子で世界の真実を話し始めた。


魔族の残忍さ、魔王の封印、賢者アナスタシアとの約束、そして私の魔力について。


私もカリス様もその話を最後まで黙って聞いていた。

話の規模の大きさに途中気が遠くなって倒れかけたが、最初から最後までカリス様が支えてくれた。

それでも、人類の最大の敵である魔族の王の魂が私に宿っていると聞かされ、私の精神は限界を迎えつつあった。


ダメだ、心の整理が追いつかない。


もう私の事を抱き締めるカリス様の表情すら確認する勇気がない。

せっかくここでの生活も慣れてきて、これからだというのになんと残酷な話だろう。

私はすっかり負の感情に飲まれてしまった。


「それが私が今日ここへ来た理由よ。」


もう何も話さないで。


私の言葉にならない想いは黙殺され、ソフィア様は容赦なく話し続ける。


「だから今からダフネを…」


お願い、やめて。


「殺すわ。」

今週も読んでいただき、ありがとうございました。

8話「覚悟」は11/15(月)0時更新予定です。

よろしくお願いします。

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