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わたし、魔女の弟子になります!  作者: ふえるしむ
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14話「二人」

その後、私たちは魔王ヴァイロの発言通り無罪となった。

最初の内は女王陛下も納得していない様子だったが、ソフィア様の説得の甲斐もあって、魔王に戦争の意思がないと判断したようだ。


私はそんな判決が下りて嬉しかったのに、カリス様に買ってもらった服がボロボロになってしまった事を悲しんでいた。

しかし、それを見たソフィア様がすぐに魔法で元通りに直してくれた。

本当に色んな魔法を扱える人だと感動を覚えるほどだ。


その後、私たちは畏れ多い事に女王様から頭を下げられ、非礼の詫びとして昼食までご馳走になってしまった。

普段では考えられないほど豪華な料理がたくさん出てきたが、私は緊張のせいでその時の事をほとんど覚えていない。

あとからその時の私の様子をカリス様に聞いたら、からくり人形みたいにぎこちない動きをしていたと言われてしまった。


私たちは昼食を済ませてソフィア邸に戻ると、エヴァが出迎えてくれた。

彼女はソフィア様の姿を見ると、すぐに彼女へ駆け寄って抱きしめた。

まるで先程の自分とカリス様を見ているようで、つい目頭が熱くなるのを感じる。

きっとエヴァも気が気でなかったのだろう。


私とカリス様はエヴァに心配かけた事を謝り、笑顔の二人に見送られてテネリザの森へ帰った。


----------


帰宅後の私たちは、簡単な家事を済ませてから、しばらく無言でソファに腰をかけていた。

その間、私はカリス様の肩に頭を預けていたのだが、彼女の体温が私に心地良い安心感を与えてくれた。

そんなふうにぼーっとしているとすでに陽が落ちかけており、テネリザの森は夜を迎えそうだ。

だいぶ慣れてきてはいたが夜の森は少しだけ不気味で、まだ一人で外に出る事ができない。

そんな事を考えていると私はある事を思いつき、それをカリス様にお願いしてみた。


「カリス様、今日は同じベッドで寝てもいいですか?」


「いいわよ。一緒に寝ましょう。」


「ありがとうございます!」


彼女は笑顔でこちらを向いて快諾してくれた。

カリス様はきっと私を気遣ってくれているのだろう。

でも私はあんな事があったのにも関わらず、不思議と落ち着いていたのだ。

これは魔王のせいなのかもと思ったが、これ以上カリス様に心配をかけたくなかったので、あえて何も告げなかった。


そのあと私たちは簡単な夕食をとり、入浴を済ませてから早めに眠る事にした。

お互いにおやすみなさいと言って灯りを消し、ひんやりとしたシーツに身体を潜り込ませる。

カリス様のベッドはダブルサイズなので、私たち二人が横になっても充分な広さが確保出来るのだ。


私は既に何度かカリス様のベッドで一緒に寝た事があり、いつもは寝心地の良さですぐに眠ってしまうのだが、今日はやけに寝付きが悪い。

隣で寝ているカリス様の事を妙に意識してしまっている。

焦燥感にも似たそれを抑えられない私は、思い切ってカリス様に声をかけてみた。


「カリス様、まだ起きてますか?」


少し待っても返事がないのでどうやら眠っているようだ。

窓からかすかに差し込む月明かりは、仰向けに眠る彼女の顔を優しく照らしている。

普段は我慢出来ていたのに、彼女の美しい寝顔と髪に塗られた香油の匂いにあてられ、私は思わぬ行動をとってしまった。


「私、カリス様と出会えて本当に良かったです。大好きです。」


私は小声でそう告げると、眠っているカリス様の頬に口付けした。


彼女は眠っていたが、それは私にとって初めての告白だった。


カリス様はそれでも起きなかった。

しかし、私は自分の行動が急に恥ずかしいものに思えてしまい、慌てて反対を向いた。

しばらくその後悔と恥ずかしさに悶えていたが、やがて眠りにつく事ができた。


----------


朝起きるとすでにカリス様はベッドにおらず、仕事場から物音がする。

一瞬寝坊が頭をよぎって時計に目をやったが、いつもの起床時間より一時間も早かった。

私は眠い目をこすりながら仕事場へ向かった。


するとそこには珍しく道具の整理をするカリス様がいた。


「おはようございます。今日は早いですね。」


「お、おはよう!ちょっと部屋片付けをね!」


私の声を聞いたカリス様は身体をビクつかせ、上擦った声で挨拶をした。

それに若干の違和感を覚えたが話を続ける。


「そんな事なら私がやりますよ。」


「…や、薬品とか危ないから大丈夫よ!」


……おかしい。


こんなに動揺するカリス様を見たのは初めてだ。

いつもならこれくらいの仕事は私に任せてしまうのに、妙に私を気遣っている。

疑問に思った私は彼女に尋ねた。


「どうかしたんですか?今日のカリス様、何か変ですよ?」


それを聞いたカリス様は手に待っていた石灰石を床に落とした。

一瞬そちらに目線を奪われてしまったが、すぐにカリス様の顔を見ると、彼女は顔を真っ赤にしてこう言った。


「ダフネが!昨晩キスなんてするから…!」


カリス様はあの時起きていたのだ。

彼女の態度から嫌われてしまったと思った私は、すぐに家から出ようとした。

するとカリス様は私の腕を掴み声を上げる。


「待って!」


「ごめんなさい、昨日はおかしくなってたみたいです。」


すっかり取り乱してしまった私は早口で謝罪の言葉を並べて、勝手にキスした事を叱られるのだろうと思い身構えた。

しかし、カリス様の口から出てきた言葉は、そんな私の予想とは違う物だった。


「違うの!嬉しかったの!」


その言葉を聞いた私は思わず顔を上げてカリス様を見つめる。

彼女の色白の肌が紅潮して瞳は少し潤んでいた。


「ダフネの事は前から大切に思ってたけど、昨日の出来事で気付いちゃったの。ダフネはただの弟子じゃなくてもっと特別な存在だって…。」


カリス様は私の目を見ながら話を続ける。


「でも私はあなたの師匠だし、そんな気持ちは我慢しなきゃって思ってたの。」


どうやら彼女にも葛藤があったようだ。

昨晩の私の行動は、それを無理矢理飛び越えてしまったらしい。


「…私が悪いのよ。大人なのにね。」


カリス様は私から目線を逸らし、自嘲気味に言った。

しかし、私はその言葉に少し苛立ちを覚えてしまい、少しだけ大きな声でそれを否定した。


「カリス様は悪くありません!」


私がそう言うと、カリス様は目を丸くさせてこちらを見つめてきた。

その勢いのまま、憤った私はとんでもない事を口にしてしまう。


「お互いが好きならそれでいいじゃないですか!歳なんて関係ありません!私、カリス様のお嫁さんになります!」


「お、お嫁!?」


初めて自分の気持ちを彼女にぶつけたと思う。

感情のおもむくまま言葉にしてみると、私の心は晴れやかになり、胸のすく想いだった。

私のプロポーズを受けたカリス様の慌ててる様子が、やけに可愛らしく見えて思わず笑ってしまった。

それを見たカリス様も緊張がほぐれたようで、私と一緒になって笑う。

先程までの空気が嘘だったかのように、穏やかな時間が流れている。


身を寄せながらひとしきり笑い合うと、カリス様が口を開いた。


「私もダフネの事が大好きよ。でもダフネはまだ子供だからお嫁さんは難しいけど、これからも一緒にいましょう。」


それは彼女なりの譲歩だったのだと思うが、私にはそんな事はどうでも良かった。

ただ、私の告白にカリス様が答えてくれたのだ。

私は目を輝かせてすぐに言った。


「約束ですよ!」


私はカリス様を力一杯抱きしめた。


今週も読んでいただき、ありがとうございます。

最終話の15話「魔女」は1/3(月)0時更新予定です。

よろしくお願いします。

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