惚れてしまったのが運の尽き〜次期魔王という噂の呪われた王子に一目惚れしたので聖女にはなりません〜
ご覧いただきありがとうございます。連載の合間に短編を書くのが楽しいです。早速ブクマ、★での評価下さった皆さま。ありがとうございます。
短編小説4作目です♪他の短編は、題名上の短編小説のリンクから見ていただけると嬉しいです。
生まれた時から光魔法が発現し、聖女候補に定められた私の人生は、決められたレールの上を走っていた。
人は『春の聖女』と私のことを呼ぶ。まだ聖女になっていないのに。
人には何でも持っていて羨ましいと言われるけど、遊ぶ暇もない。公爵家の後ろ盾まである私は聖女の最有力候補なのだから。
『決してその立場を忘れるな、セイラ』
お父様や周りの人たちががそう言うから、人生をそうやって歩んでいくのだと、自分に言い聞かせて生きてきた。
(それなのに)
その日、聖女の選定式に参加していた私は、一点を見たまま体をこわばらせた。
うっすら霜が降りていた神殿の薔薇が、私を中心に急激に花開いていく。厚い雲の隙間から光が差し込み、蝶が舞う、鳥が春の訪れを告げる。
ここまでの力を発揮してしまったのは、いくら私でも生まれて初めてだ。
『春の聖女の奇跡だ!』
周りのざわめきが遠くに聞こえた。
私は人々の視線が集まる中、ふらふらと夢を見ているような気持ちでそこへ近づいていく。
……紅の瞳と私の青い瞳、視線が交差した。
向こうもこちらを見つめて息を呑んでいる。先に視線を外した紅の瞳をしたその人の足元は、次々と氷に覆われていった。
その氷は走り出した私が踏みしめるたびに溶けて、小さなスミレの花が咲き誇る。
黒髪に紅の瞳。見るもの全てを凍てつかせるという彼の容姿は、私だって知っている。全てを凍りつかせる魔神に魅了された存在。呪われた王子、アルヴィン・コールバリ。
(近づいてはダメ。聖女になるのだから)
どこかで聖女になるはずだった私が叫んでいる。
(でも、もう遅い)
もう一人の私は、知らなかった春の訪れのように全てを塗り替えてしまうその気持ちに飲み込まれてしまった。
息を弾ませながら、その手を取って確信する。
(この人のことをずっと探して、求めていた)
出会うのがあと一日遅ければ、きっと聖女に選ばれて、運命は変わらなかったのに。
「私、聖女になりません!!」
聖女として育てられた全てをもってしても、止めることができなかった大声は選定式の薔薇園中に響いた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
あくる朝、小さな手荷物一つ持って、私はふらふらと街を歩いていた。
今や私は公爵令嬢でも聖女候補でもない、ただのセイラです。
『流石にあの場面での醜態は覆せない。残念だよ』
大混乱の中、聖女選定式は取りやめになった。聖女にはほかの候補が選ばれるだろう。
お父様が冷たい瞳で勘当すると告げた。
(まあ、その場で命を奪われなかっただけで、マシだと思わないとね)
最後の最後、一番重要な局面でそれだけのことをやらかした自覚がある。
聖女候補と次期魔王のスキャンダル
「いやー。さすがにアルヴィン王子にとっては大迷惑だわ」
自分自身は意外と生きていける自信はあるのだ。個人的に持っていた商会は取り上げられなかったし、私の名前は表沙汰にしていない。
せめて自分が心からやりたいことをひとつでも。そんな思いで聖女候補としての慈善活動に力をいれていた私には、子ども時代からの市井の知り合いも多い。
その時、路地裏から伸びてきた手に腕を掴まれた。驚くより先に、その腕の主が分かってしまう。
「おい!おまえ、ほんとバカだな?フラフラ歩いてるんじゃねえよ」
そこには赤い髪に草原のような緑の瞳をした王都が誇るA級冒険者が立っていた。
「ルスト。久しぶり?」
「このバカ!そんな格好で、あんな騒ぎ起こした令嬢が歩いていたら、すぐ攫われるぞ?!」
ルストとは、孤児院で出会った。いまや国中に名を馳せたA級冒険者として活動している彼は、困った時にいつも力になってくれた。
聖女候補としての討伐参加や私を聖女にしたくない人たちから命を狙われた時に救われたことも数知れず。もはや彼は私の大恩人だ。
「心配して来てくれたの?」
「……当たり前だろ?噂聞いてすっ飛んできた。本当だったんだな」
ルストは何故か顔を顰めた。
「俺が誘った時は来なかったくせに。それでも聖女になるって言うから諦めたんだぞ。」
「冒険者に誘ってくれた時の話?」
一度だけ、聖女になるための日々が辛すぎて、ルストに弱音を吐いた。黙って聞いていたルストは、一言こう言った。
『じゃあ、全部捨てて俺と一緒にS級冒険者になればいい』
その時すでにB級冒険者まで駆け上がっていた彼がくれた言葉は、ずっと私の支えだった。
たしかにS級冒険者になれば、公爵家の令嬢であることも、聖女候補であることも捨てたってきっと許される。
それでも、その言葉を支えに私はもう一度聖女を目指すことを決めた。そのことを伝えると、ルストは笑って応援すると言ってくれた。
「それで?今度こそ俺と冒険者やるか?実力主義の訳ありが多い世界だ。お前の回復魔法ならいくらでもやっていける。……それにこれからも俺が」
その時、地面が凍りついていった。そんな季節ではもうないはずなのに。
後ろから掴まれた腕が燃えるように熱い。
「探した。話の途中悪いが、俺と来てもらう。」
「アルヴィン!セイラをお前には渡さない!」
ルストは国に数人しかいないA級冒険者。そんな彼が斬りかかればアルヴィン王子もタダでは済まない。
しかしいつまでたっても物音はしない。思わず瞑っていた瞳を開けると、そこは知らない部屋だった。
「な……な?!」
何故かアルヴィン王子にお姫様抱っこされている。
「何この展開?!」
予想外の出来事に、私は動揺を隠しきれなかった。
「いや、聞きたいのはこちらの方なのだが」
私、最高の謝意を表して跪いています。こんなもので許されないほど迷惑をかけた自覚はあるので。
「ですよね。ごっ、ご迷惑をおかけしました!あのっ、このお詫びはどんなことでもっ!」
「どんな……ことでも?」
(氷の微笑だ。カッコいい。この笑顔が見られただけで我が人生に一片の悔いなし!!)
「セイラは……」
「なっ名前?!」
名前を呼んでもらっただけで、胸がはち切れそうに高鳴る。なんだか熱を帯びたように頭がクラクラして。
クラクラ……パタリ。
私の意識はそこで途絶えてしまった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「また、脅かしたんじゃないですか?あなたの容姿、無駄に迫力あるんだから」
「そんなつもりなかったんだが」
会話の音で、目が覚めた。
「んう……。ここ、どこ?」
ベッドは、公爵家のものに負けないほどの寝心地の良さだった。それに、なんだかいい香りがする。
「あ、起きましたか?セイラ様。我が主が驚かせたようで申し訳ありません」
「あなたは?」
「ベルトルトと申します。アルヴィン様の従者をしております」
跪くベルトルトさんの隣には、気不味そうな表情のアルヴィン王子がいる。
「驚かせたようで悪かった」
「いいえ!」
ガバリと起き上がって、床に降りると再び最上の謝意を表す礼を取る。
「ご迷惑をおかけしてしまい……え?」
アルヴィン王子が、目の前に跪いている。同じ目線で初めて見つめ合った。
「また、倒れられては敵わない。とりあえず座れ」
「は、はい」
これはどういう状況だろう。なんだか部屋に飾られた花瓶の花がおかしなほど咲き誇っている。さっきまで曇っていた冬の空も、今は晴れ渡っている。
「なぜ、あんなことをした?貴女は聖女になることが確実だっただろう」
「……あなたに一目惚れしてしまって」
「え?……は?!」
さっきまでの冷たい様子が嘘のように、その表情には動揺が見て取れる。
(何言ってるんだろう、私。迷惑かけておいて)
「ごめんなさい。馬鹿なことをしました。あなたに迷惑をおかけして……。あの、本当にこのお詫びは必ずしますから」
私は立ち上がり、去ろうとする。転移魔法って本当に存在したんだな。なんて、ぼんやり考える私にはここがどこなのか分からないけれど。
「待ってくれ!」
「はい……」
やっぱり、許されないことをしたのだから、すぐに償いをしろということだろうか。それも仕方がない。この命でも捧げましょうか。
「ずっと見ていたんだ」
「はい?」
「貴女には決して近づいてはいけないと、周囲の者に言われていた。呪われた自分が近づいて良い存在ではないと言われていたのに。あの日どうしても、最後に貴女を目に焼き付けたくて」
もしかして、これは幸せな夢の続きなのだろうか。しかしそうは問屋が卸さない。アルヴィン王子が爆弾発言をする。
「俺が魔神に魅了されているという噂は、本当なんだ。いつかこの王国を氷漬けにして魔王になるかも知れない」
「え?」
「だから貴女が聖女になったら、この国から去ろうと思っていた」
どうしてそんなことになるんだろう。転移魔法を現実に使えるほどなら、王にだってなれるだろうに。
(きっとこの人、とても優しいんだ)
「セイラは……俺といたら魔王の妃と呼ばれるよ。聖女になれたのに」
なんだか、この魔王に支配された国は結構幸せな国な気がする。こんな優しい人を選んだ魔神って本当に悪い神様なのかな?
「私、感情が昂ると春を呼んでしまうんです」
「え?」
「だから、アルヴィン王子がこの王国を氷漬けにすることは多分できませんよ?」
魔王の妃も悪くない。聖女になるよりきっと幸せな王国を作れる。そんな予感がした。
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コールバリ王国の城の周りの堀は、いつも凍っている。それなのに庭にはいつも春の花々が咲き乱れているらしい。
その国は賢王と名高い王と慈愛に満ちた妃が治めていると、遠い国までその噂は届く。
吹雪が吹き荒れたり、王国中の花が咲いてしまうのは、二人が喧嘩しているせいだという噂もあったが、その国は今日も平和に溢れていた。
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