07 土の人形
精霊、それはこの世界の根源である八属性を有し、万能なる力も持つとされ、この世に自然に現れる精霊は、それぞれの属性エネルギーが精霊として具象化したものと云われている
召喚魔法にて呼び出される精霊達の力は本来の力とは程遠い能力で有る事に留意する必要がある――か。
これは全部『グリモア』に書いてあった受け売りだけどね!
元々この『グリモア』ってのは魔法に関する、概要だとか、註釈だとかを詰め合わせた魔導書みたい。
確か賢者の極みって名前だもんね。
とにかくごちゃごちゃして読むのが大変……。
他の魔導書の複写みたいなのはおまけみたい。
でも今はそのおまけ機能の方が便利なんだよね~。
精霊の召喚。最初は面白がって召喚してみたものの、実用的に使うとなるとなかなかに難しい。
なんせ呼び出している間は術者の魔力がドンドン減ってしまうのだ。
勿論完全に魔力が枯渇してしまうと死んでしまうと言われているので、途中で精霊の故郷たるアストラル界に帰さなければならない。
精霊も頼めば魔法を使ってくれるんだけど、術者の能力と同等程度の魔法しか使えないみたいなんだよね。
それならば自分で唱えた方が手っ取り早いっていうジレンマ。
精霊が魔法を使っても、術者の魔力が減るわけじゃないけど、精霊を呼び出しておくには時間単位で魔力が消費される。
やっぱり移動する魔物とかに精霊を呼び出して追いかけさせる――とか、そういう使い方しか出来ないのかな?
というわけでは私達は精霊が有用に使えないかどうかあれこれ試していた。
「土の精霊!」
土の精霊を召喚する。
土埃の塊のような視た眼をした精霊が、ふよふよと私の眼の前に現れ浮かんでいる。
「視てみて~。ローズ。精霊でこんな事も出来る様になったんだよ~」
「ん?なによ?土の精霊って一番使えない奴じゃないの?」
ローズは酷いことを言った。
「もー、そんな事言ったら精霊も怒っちゃうよ。土の精霊、土を固めて人形みたいなのを作れる?お願い~」
土の精霊は分かったとばかりにふよふよと上下に漂うと、地面の土が集まり、徐々に何かの形を取りつつある。
さすが土の精霊!、土を自由に操っているみたい。
そのままこねコネと土をこねる様に、不格好な土人形――擬きが出来る。
「土の精霊、それを動かして頂戴」
しばらくすると、その人形擬きがとこトコと歩き出した。
「えっ!?何それすごい!人形が動いてるよ!シビルが動かしてるんじゃないの?」
「違うよ~土の精霊が動かしてくれてるんだよ!」
といっても、こう動かしてほしい、って思っているのは私だけどね。
それが土の精霊に伝わっているみたい。
「ねーねー、シビル。これ、もっとおっきなのは作れないの?」
「えっ。試したことないけど、たぶんできるんじゃないかな……」
うーんと、おっきくおっきく、あの木ぐらい……はどうかな?
土の精霊は私の思いを忠実に再現し……ほんのお人形サイズだった人形擬きは私達の背よりはるかに大きな人形へと姿を変える。
「うわおっきい!」
ローズはさっきから興奮してキャーキャー騒ぎまくりだ。
よし!動かすぞ~。
一歩づつ足を踏み出した巨大人形はドスンどすんと音を立てて歩き出す。
その時、私はクラリと軽い眩暈を覚える。
あ、まずい。魔力枯渇だ。
「土の精霊ありがとね~。もういいよ~」
と、いつものようにお礼を言ってから召喚を解除したのだけど……。
丁度、巨大人形が歩き出そうと片足を上げたままだったのが悪かった。
巨大人形はそのままバランスを失い、私の方へ倒れてきたのだ。
「ふぇ?――ふえぇぇぇぇ!!!!」
そのままバタンと倒れる人形。大量の土くれが私の体躯を襲う!
「ちょっ、シビル!大丈夫?」
「うへぇ、ぺっ、ぺっ」
服どころか、頭の上から、口の中まで泥まみれになった。
「早くもどって着替えた方がいいわ……、お風呂にも入りましょう」
「うん……。口の中が気持ちわるーい」
その後、部屋に戻った私は、侍女からこっぴどく怒られたのは言うまでもなかった。