06 グリモアの力
登場人物紹介
シビル・マクミラン……主人公。マクミラン伯爵の三女。十歳。
ローズ・コーンウェル……主人公の親戚。コーンウェル侯爵の娘。十二歳。
マクミラン伯爵……主人公の父親。
アンナ……主人公の侍女
§ § §
伯爵から新しい魔導書を渡された。
どうもこれは書庫にあった物でなく、私達の為に新しく購入した物らしい。
書庫にあった今までの本と比べるとかなり古ぼけている。
内容はというと……初級召喚魔法?
そんなのあるんだ。
早速ローズと一緒に何時もの練習場所で本を視る。
「召喚魔法!もしかしてこれでドラゴンとか召喚出来ちゃったりするとか!?」
「ドラゴンなんて召喚したら館とか潰れて大変な事になっちゃうと思うけど……。うーんと、えーと……。召喚するのは精霊みたい」
「あらそうなの?はぁ~夢がないわねぇ……」
ローズは残念そうに言うが、精霊でも十分すごいとおもう。
物語の中とかでだと、『寝ている間に精霊が一晩でやってくれました!』視たいのがあるよね。
私達にも同じ事が出来るのかな?
かなり古ぼけているので、破かない様に恐る恐る頁をめくる。
火の精霊召喚、開いた頁にはそう書かれていた。
ふむふむふむ、やり方は今までの魔法とそう大差ないみたい。
で、その前にっと。
私は、秘密兵器を取り出す。
〈グリモア〉
「シビル?急に『グリモア』なんて出してどうしたの?」
「へへへ、これ面白い事が出来るんだよ」
右手で火の精霊召喚の頁を触り、左手で『グリモア』を触る。
すると、私を介して火の精霊召喚のイメージが『グリモア』に流れ込んでいく。
「ほら、こうすると、『グリモア』にね、新しい索引が出来るの。ほら、今の火の精霊の項目が出来てるでしょ?」
「えっ!?ウソでしょ?何それ?」
「ホントだって。ローズもやってみなよ~」
ローズも自分の『グリモア』を取り出すと、半信半疑で同じように手を本に当てる。
「……ホントだ、索引が増えてる……」
「でしょ?つまりこの『グリモア』に一度追加しちゃえば、もう重たい魔導書は必要なくなるってわけ。でも勿論『グリモア』を出さなくても魔法を使える様にしなきゃいけないと思うけど……」
「すごい、すごい!これかなり便利じゃない?どっかから、ちょっと魔導書を借りてくれば自分の物に出来ちゃうじゃない」
「うん、それでも短い間とは言え貸してくれる相手が必要だけどね」
「早速、伯爵が渡してくれたこの初級召喚魔法のイメージを全部取り込んじゃおうよ」
私達は早速伯爵から渡された魔導書から、次々と召喚魔法を取り込む。
氷の精霊召喚
風の精霊召喚
土の精霊召喚
雷の精霊召喚
水の精霊召喚
光の精霊召喚
闇の精霊召喚
魔法の基本となる八属性の精霊達だ。
取り込むだけなら、さほど時間が掛かる事なくおわった。
その後、魔法の練習と称してローズと一緒に、呼び出したふわふわとした精霊達で遊んだのは。また別のお話。
§ § §
朝のまだ早い時間、私はお散歩もかねて屋敷の裏手にある、小規模な林に来ていた。
ちなみにローズは朝が苦手なので、一緒にはいない……。
キョロキョロと地面をじっと視つめ、目的の物を探す。
あ、あそこだ!
その地面から微量の魔力を帯びている、朝露にグッショリと濡れた草がはえていた。
が、私の目的はその草じゃない。
「火の精霊」
火の精霊を召喚する。
ふわふわと空中を漂う、物語にでてくる人魂のような精霊が、私の眼の前に現れた。
「あそこの草を燃やしちゃって、いい?草だけ燃やすのよ?」
火の精霊は、分かったとばかりにその場所に向かうと、その草に重なりメラメラと草が燃える。
延焼しないかいつも心配になるけど大丈夫そうね。
そして粗方草が燃えると、
「火の精霊ありがと~。またね~」
と、お礼を言ってから召喚を解除する。
すっかり円状に土が露出した場所を、手に持った小さなスコップで掘る。
堀りほり、極力服は汚さない様に……と、汚すと侍女が煩いんだよね。
暫く掘っていると、やがてソレが現れる。
あ、あった、あった!
視つけたのは小さな結晶体。
ソレはまるで大自然の純潔さを表すかのように、美しく透き通っていた。
ソーマの結晶、といってもソレは小さな欠片。
手に取ってつまむと、空中にかざす。
きれい~。
不純物が一切ないソレは、まるで宝石のようだ。
このソーマの結晶――視つけたのは欠片だけど――は魔力を回復する効果を持つという宝石だ。
実はこの結晶はソコソコのお値段がする物らしい。
なので伯爵家の財政状況を知っていると、さすがに欲しいとは言い出せないよね……。
魔力総量が増えるのは、魔力枯渇した後の回復時だ。
普通にしてても一晩寝れば大体回復するんだけど、結晶で強制的に回復させても、その時魔力総量は増えるみたいなんだよね。
勿論こんな欠片一個じゃ碌に回復しないんだけど、それでもソーマの結晶はソーマの結晶!数を集めれば大丈夫……だと思う。
いつの間にかソレを探すのが、私の日課になってしまった。
§ § §
「シビル、ちょっといいか?」
「はい、伯爵」
伯爵が部屋に尋ねてくる。
また魔法のお話かな?
と思ったらその日は違った。
「侍女から聞いたのだが、たびたび服を土で汚してくるそうじゃないか。一体何をしているんだ?」
う、侍女に告げ口された……。
横目で侍女を睨みつけるも、スーンとすました貌をされた。
その貌は『私が注意しても言う事を聞かないからですよ』と言わんばかりだ。
ぐぬぬぬぬ。
「は、はい。その、裏の林へ……」
「林?あんな所に何しに行っているんだね?」
「その、ソーマの結晶を探しに……」
「ソーマの結晶?アレが館の裏の林にあるのかね?」
「はい、ホンの欠片ですが……」
そう言って私は結晶を取り出すと、伯爵に渡す。
受け取った伯爵は指でつまむと空中に翳す。
「小さいが確かにソーマの結晶のようだな……」
「はい」
「ソーマの結晶はお前に必要なのか?」
「魔法を使う者にとっては必要な物だと思います……」
伯爵になぜソーマの結晶を集めているのかを説明する。
「なるほど、な……。そういう理由があるのか」
伯爵は少し複雑な貌をすると、
「ソーマの結晶は消耗品の上に高価だ。さすがにそれを湯水のように買ってやるわけにはいかん」
「はい……」
「侍女、これからはシビルが服を泥で汚したとしても気にしなくていいぞ」
「!!しかしそれではシビルお嬢様が事情を知らない者に何と思われるか」
「これはシビルにとって必要な事なのだ。そのために少しぐらい服が汚れたとしてもどうだと言うのだね?着替えれば良いだけではないか」
「……分かりました。伯爵がそうおっしゃるのであれば……」
「シビル、これからも励みなさい」
「はい、伯爵。ありがとうございます」
こうして伯爵の公認をもらい、私は堂々と林に行ける様になったのだ。
でも着替えを手伝ってもらうたびに侍女から、眼で無言の抗議を受けるので服は極力泥で汚さない様にしよっと……。