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思わぬ悪天候で足止めを食う事になってしまった私達ですが、実の所私はそんなに悲観してはいませんでした。
マートルには絶対ナイショで言えませんが、所詮他人事ですしね。
それよりも私は、皆での旅行が伸びた事でかえって嬉しかったほどです。
皆で過ごす時間はとてもとても楽しいですからね。
それで、本日の予定がキャンセルとなった私達が何をして過ごしていたかと言うと――。
「ちょっと、シビル。貴女また結婚したの?これで何度目よ?」
ローズから非難声が飛ぶ。
そんな事言われても……。
正直覚えてない。
「今回の結婚で五回目ですね」
マートルが私が答えるより早く答える。
「もうそんなにですか」
と、ヴィクトーリアは呆れたように言いました。
「いや、これゲームだし……。それより皆、結婚のご祝儀頂戴~」
私がそう言って催促すると、皆は嫌そうな顔をして私に紙で出来たお金を渡して来ました。
三人分だと結構な金額になります。
「えへへ、皆ありがとね」
そう言ってホクホク顔になる私である。
そうです、私達はボードゲームをして遊んでいたのでした。
これはこの宿に備え付けたあったゲームです。
宿の人にこの悪天候で予定が全部中止になった旨を伝えた所、「暇つぶしに宜しかったどうぞ」と幾つかのゲームを持ってきて来てくれたのです。
今遊んでいるのは、その中の『人生ゲーム』という人の一生をシミュレートしたゲームで、駒を進める度に様々なイベントが発生し、最終的にゴールした時の資産で順位が決着するというゲーム内容です。
そのゲームの中で私はなんと五回目の結婚をはたし、皆からご祝儀をせしめていたのでした。
皆からお金を受けとった時の態度が気に入らなかったのでしょうか?
「シビルはさっき配偶者と死に別れたばかりよね?それなのにもう再婚なんて幾らゲームとしても早すぎるわよ」
「配偶者が亡くなった時、相手の財産と死亡保険金も受け取ってましたよね?」
「そうですね、シビルと結婚した人は短期間で全員亡くなってます」
と、ローズ、マートル、ヴィクトーリアが次々と私への非難の声を飛ばす。
「い、いや違うし、たしか二回目に結婚した人は結婚が無効になったはずだよ」
そう、なぜか知らないけど、教会に結婚の無効を申し立てられて、結婚が無かったことになってしまったのだ。
「でも、それって詐欺じゃないですか?二回目の時の結婚もご祝儀を払いましたが結婚が無効になってもお金が返って来たりしませんし」
マートルの指摘にローズが同調をする。
「そうよ、シビル、いい加減にしなさい」
「そんな事いわれても止まったマスにそう書いてあったんだから仕方ないじゃん……。そ、それよりもローズの番だよ」
私がそう即すとローズは溜息を吐きながらサイコロを手に取り振りました。
「えーと……『キャリッジ(高級馬車)を購入、お金を払う』ですって?」
止まったマスを確認したローズの顔が歪む。
「ローズだってさっきから馬車を何台も買ってるじゃない」
さっきのお返しとばかりに私も笑いながら指摘しました。
「これで三台目よ!このゲームは一体どうなってるの?」
「なんか全体的に私達には不利な目が、シビルには有利な目が出やすい気がします」
「そ、そんなのヴィクトーリアの気のせいだって!冷静に考えてみてよ。配偶者と死に別れたり、結婚の無効を申し立てられたりって不幸な事ばっかり起きてるじゃない」
私は慌てて弁明する。
「でも、その不幸を利用して利益を得てますよね?」
マートルの指摘に「そうよ、そうよ」と同調の声。
「それは……そうなってるんだから仕方ないじゃん……。そ、それよりも、さ、さ、ゲームを進めよう」
私が再度即し、マートル、そしてヴィクトーリアとサイコロを振って駒を進める。
ちなみにモーリーンはこのゲームには参加せず、完全に傍観者へと徹してます。
時折、窓の方をみつめては天気の様子も伺っているようです。
「次はシビルの番ですよ」
サイコロを渡された私はえぃっとサイコロを転がす。
コロコロって転がったサイコロの目を確認し、その通りに駒を勧めたところ――。
「えっと、『子供が無事生まれる。皆からご祝儀を頂く』だって!」
「ちょとシビル!またなの?貴女、子供は何人いるのよ!」
ローズからまた非難の声が飛ぶ。
あれ?何人だっけ……。
私が指折り数えるより早くマートルが答えてくれる。
「今ので六人目です。それにしてもまたご祝儀ですか……シビルはスッカリご祝儀成金ですね」
「いくらゲームとはいえ、子だくさんすぎませんか?まだ二十代の設定ですよね?」
ヴィクトーリアが呆れたように言った。
「そんな事言われても……止まったマスに書いてあるんだから仕方ないじゃん。それより皆、ご祝儀だよ」
そう言って私が手の平を出して催促すると、皆溜息を吐きながらご祝儀を渡してきました。
「えへへへ。皆ありがとね~。さ、続き続き、次はローズの番だよ」
そう言って喜ぶ私をみて、みんな顔を顰めると、心底嫌そうな顔をしたのでした。
だって、そういうゲームなんだから仕方ないよね?




