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結局の所、私へのペナルティは『近いうちに皆が楽しめるイベントを企画する事』に決定しました。
「穏便にすんで感謝しなさい。本当はいつも調子にのってやらかす事の多いシビルへの罰を兼ねて、『もっと重いペナルティが良いのでは?』って声も上がったのを、私が説得してこの程度のペナルティにしてあげたんだから」
はい、はい、ありがとうございました。
どうせ私はいつもやらかしますよーだ。
「もう、ちゃんと聞いているの?『シビルが楽しめるイベント』じゃダメだからね?『皆が楽しめるイベント』だからね?それを忘れないで頂戴」
私がちゃんと聞いていないと思ったのか、先程より声を大きくするローズである。
「あ、はい……ちゃんと聞いています。わかりました」
「それじゃ、よかった。楽しみにしてるからね」
そんなこんなな事がありながら、その後もカードゲームは種類を替えて続き、勝負にひと段落が着いた頃に馬車が静かに止まり、御者さんから声があがります。
どうやら、目的の場所に着いたようですね。
私は先頭にたって馬車からおりました。
辺りは辺鄙と言っても良いぐらいさびれた感じのする村で、オマケに先程まで照りつけていた太陽が何処かに行ってしまったのかのように、厚い雲がどんよりとたれこんでいました。
時折吹き付ける風に当たると、寒気を感じるほどです。
「ねぇ、マートルのお師匠様は本当にこの村に住んでいるの?」
「そのはずですが……少しまってくださいね」
そう言ってマートルは偶々近くにいた村人へと聞き込みを始めます。
私も一緒に話を聞いちゃおっと。
「あぁ、その魔法使いならこの辺りにはいないよ」
そう言って話してくれた村人によると、住所的には確かにこの村に住んでいる事になってるけど、実際はこの村のハズレもはずれ、周りに人気のない場所に住んでいるという。
俗にいうポツンと一軒家ですね。
そして時折村を訪れては、生活に必要な物を買っていくだけの関りだそうだ。
実際には村のお店が定期的に訪れて注文を受けていたみたいで、荷物は村人が届けてくれたようですけどね。
結構気前よく手数料などを払ってくれたみたいです。
そしてその場所に行くには、馬車が通れない様な細い道を歩いて行くしかない様子。
結構な道のりを歩いて行くしかないと聞いて思わず顔が歪む私である。
「あの魔法使いがどうかしたのか?」
いつの間に近くへ来たのか、ローズやヴィクトーリア、モーリーンをを含む私達五人をみて、不安そうにその村人は言いました。
こんな外部の人間があまり訪れない様なさびれた村に、いかにも魔法使いです!ってローブを被った人間が四人もくれば何か思うところがあるのでしょう。
不安になるのもわかります。
なのでその不安を和らげるように私は言いました。
「その魔法使いは、ここにいる彼女のお師匠様なの。しばらく会ってないって言うので、近くに来たついでにご挨拶へ伺おうと思っていた所なのです」
なのでちょっとしたフィクションを交えて安心させるように言います。
フィクションを交えたのは死期を悟った老魔法使いに手紙で呼び出された、というよりは近くに来たついでにお師匠様へ挨拶に来た、と言う方がイメージが良いと思ったからです。
『死』をイメージする言葉は人を不安にさせてしまうものですから。
思った通り、私の言葉を聞いた村人は少しだけ安堵の表情をみせました。
そして、マートルのお師匠様が住んでいるという場所への詳しい道筋も聞き出します。
うわっ、結構遠いですね……。
大人の男性の足で休憩を挟みつつ四時間ほど掛かる道筋のようです。
単純計算で往復八時間です!
しかも『大人の男性の足』でソレなので、私達のような女性ではもっと掛かってしまうでしょうね。
必要な情報を聞き出した私達は「お手数掛けました」といって村人から離れました。
そして村人から話を聞かれない位置まで移動すると、相談を始める。
「ねぇ、そんなに離れているんじゃこの村で一泊してから尋ねた方が良いんじゃないの?」
私は皆の顔を見回して言いました。
「そうよね。今から行くと、途中で確実に暗くなってしまうわね」
そう言ってローズが頷く。
「私は天気も不安です」
ヴィクトーリアは空を見上げて心配そうに言いました。
そして、今までは余計な口出しを一切してこなかったモーリーンが口を開いた。
「私もこの時間から向かうのは反対だな。向こうに付く頃には確実に夜になってるし、天候も不安定だ。向こうで安全に泊まれる保障もない以上、この村で一泊して午前中に出発した方が良い」
「私もそう思います」
マートルは皆の顔を見回して言いました。
「では決まりだな」
皆が頷くと私達はモーリーンを先頭に村で一軒だけあるという宿に向かって歩き始めました。
今日、到着すればいいなと思っていたのだけれど、やっぱりそう思い通りには行かなかったようです。
今日は一泊するとして明日はすんなりと出発できるのかな?
明確な根拠は何もありませんが、私は空を見上げてどんよりとした雲がさらに厚くなったように感じたのでした。