05 上達する魔法
登場人物紹介
シビル・マクミラン……主人公。マクミラン伯爵の三女。十歳。
ローズ・コーンウェル……コーンウェル侯爵の娘。主人公の親戚。十二歳。
マクミラン伯爵……主人公の父親。
メアリー・マクミラン……主人公の姉。マクミラン伯爵の長女。二十一歳。
イブリン・ヘルソン……ヘルソン子爵の跡継ぎ。王宮に出仕している。メアリーの事が好き。
チャールズ・ブランドル……イブリンの知り合い。平民。
§ § §
贈られた『グリモア』――賢者の極みと呼ばれるソレは今までの魔導書とは決定的に違う特性があった。
なんと!私の意思で眼の前に出したり、消したり出来るのだ!
一体どんな仕組み何だろう?
『グリモア』には不可視化がどうこうって説明が書いてあったけど、私にはさっぱり分からなかった。
事実のみを言うと、普段は視えなくなってて持ち運ぶ必要は無く、必要な時には私の意思で自由に実体化出来るという事だ。
「おもしろーい!これ便利ね~」
ローズは先ほどから『グリモア』を出したり、消したりして遊んでいる。
「うん、もうあの重たい本を持ち運ばなくて良くなったね」
「でもこれ、書かれてる内容ってちょっと難しくない?」
「うーん……確かに、今までの魔導書とはちょっと違うわよね」
そうなのだ、今までの魔導書では私達が読み飛ばしてきた序章、前文、注釈みたいのがテンコ盛りなのだ。
書かれている内容も今までの教本みたいな感じとは違って、辞書っぽい感じだし……。
「とりあえず、魔法の練習は、今までの本でやろうよ」
「そうね……。はぁ……、やっぱり大魔導士への道は険しいわね……」
ローズが如何にも残念そうな貌をする。
この『グリモア』があればバンバン大魔法が使えると思ったのかな?
実は私もちょっと思ったんだけどね!
「でもさっきの人って何者だったんだろう?やっぱり伯爵のお客様?」
「そうよね……。ここまで入ってこれたって事はそうだとは思うんだけど……」
「シビル、後で伯爵に聞いておいてよ」
「うん……」
名前しかしらない彼、でも自然に私は、彼の事を先生だと思うようになっていた。
§ § §
「二つの魔法を同時に発動だと?本当か?」
伯爵と貌を合わせ、魔法練習の事を聞かれた私は、素直に答えると伯爵に大きな驚きを持って迎えられた。
「はい、チャールズ・ブランドルという方に教えていただきました。あの方は一体どういった方なのでしょうか?」
「あぁ、彼か……。シビルはオナラブル・イブリンを知っているね?」
えっと……誰だっけ?
あ、思い出した!確かメアリーの……。
「メアリーのお知り合いの方、でしょうか?」
「そうだ、彼はヘルソン子爵の跡継ぎでね、王宮に出仕もしている。彼に会った時に魔法に詳しい者を紹介してくれるように頼んだんだよ。どうやら、彼は役に立ったようだね」
「はい、とても!」
「そうか、それは良かった。彼に頼んだかいがあったよ」
彼の正体がやっとわかった。
イブリンは私の眼から視てもメアリーにベタぼれなのは明らかなんだよね。
残念ながら脈は無いと思うんだけどな……。
メアリーも態度をはっきりさせればいいのになぁ。
その大好きなメアリーの父親たる伯爵から頼まれたら、イブリンも嫌とはいえないか。
彼の正体は少しわかった。
でもやっぱり詳しくは分からないままだ。
伯爵もそれ以上の事は分からないらしい。
イブリンの紹介状を持っていたってだけで伯爵には十分だったみたい。
そして私達は毎日の様に、魔法の練習をする。
勿論魔法を二つ同時に発動させてだ。
時間当たりの練習も倍出来るし、魔力を減らすという目的の為にも効率が良い。
それに……私はコッソリだけど、自室でも魔法の練習をしていたりしている。
侍女の眼を盗んでだけどね!
火の魔法はやっぱり危ないけど、それ以外の、例えば氷の魔法とか、ちゃんと使う魔法を選んだから大丈夫!……だと思う。
昼も夜も、隙を視つけては練習をする。
少しづつだけど、振り返れば以前より多くの魔法が使える、魔力総量が増えたのが実感できる。
そうこうしながら、彼に出会って一ヵ月を過ぎた頃。
私は同時に発動できる魔法が三つになっていた。