50 怪盗現る
それからさらに幾日がたった夜のこと、
「ねぇ、ローズ本当にやるの?」
「あたりまえじゃない、今更何を言ってるの、シビル?」
呆れたような声でローズは言う。
「今日を逃したら次のチャンスがいつになるか分からないんだから、それに、天気もぴったりだしね」
天気がピッタリって……。
私は窓の外を視ると、雨こそ降ってはいないものの、時折強風が吹き、窓をガタガタ鳴らすような悪天候なんだけど。
ローズも同じように窓に視線をおくると、
「うん、これならコッソリ忍び込むのに最適ね」
などとおっしゃるではないですか。
「でも……もし視付かったら……」
そう、もし視付かれば大変な事になっちゃうよね。警察に逮捕されちゃうかもしれないし……。
「ねぇやっぱり考え直さない?侯爵にお任せしちゃえばいいじゃない」
「いいの、シビル。それも十分考えた上でのことよ。勿論これは王国の法には反するわ。……けどね、一人の女性の名誉を守るために道義的には正しい行いだと思うでしょう?」
「それは……、私だってミス・チャットウィンが可哀そうだと思ってるけど……」
「そうよ、正義は私たちにあるの。幼気な女性を脅すなんて紳士として、いや男として風上にも置けない奴よ。それにね、私はミス・チャットウィンが必死に助けを求める。哀れな姿が眼について離れないのよ」
「でもローズ、もし視付かったら……、侯爵がまずい立場にならない?」
「勿論それも考えたけど……。私が捕まった場合はその捜査の名目の一環で警察も動きやすくなると思うわ。とにかく、私自身としてあの女を食い物にするあの男を許せないのよ」
「そうね……ローズがそう言うならしょうがないか」
「シビル……。心の底から嫌だったらついてこなくてもいいのよ?」
「何言ってるのよ、私が行かないならローズも行かせないわよ」
「……本当に手伝ってくれるのね?」
「当り前じゃない、二人一緒なら絶対、成功するわよ」
「そうね、二人一緒なら牢獄でも楽しく過ごせるかもね」
「やだ、ローズったら。縁起でもない事言わないで」
私とローズは貌を視合わせるとフフフと笑い合った。
「それでローズ。準備は出来てるの?」
「勿論よ!、一つだけ秘密兵器を用意してるわ」
「秘密兵器?」
「これよ」
と言ってローズが取り出したのは、何の変哲も無いように視得る眼鏡だった。
「これは複数の付与魔法が付与された魔法道具よ」
「ふーん、どんな効果があるの?」
「まずは遠くのものを拡大する効果ね、最大で十倍まで拡大出来るわよ」
そして何事をかを唱えるとレンズが赤色に変わる。
「この色のときは暗視の効果よ、暗視と同じだけど、こっちは視野拡大と併用できるメリットがあるの」
そしてまた何事かを唱えると、レンズの色が青に変わる。
「この状態のときは透視の効果があるよの、扉一枚程度なら透視出来ちゃうってわけ」
「すごい!私の分のあるの?」
「ごめんなさい、シビルの分は残念ながら無いのよ……」
むぅ……。
でも暗視は私も使えるし、まぁいいか……。
でも透視能力か、いいな~。
§ § §
「フフ、ローズ変な恰好よ」
「何よ、シビルだっておかしいじゃない」
月明りもない闇夜の中、私たちはアイマスクで貌を隠したお互いの姿を笑う。
着色の魔法で髪を黒色に染め、男装をした私たちの格好は、傍からみるととてもとても奇妙にみえるよね。
でも幸い、今夜のような月明りもない悪天候の中を出歩く者はいなかったようだ。
「シビル、ここよ。あの窓がバウチャー中尉の寝室で、隣が書斎なの」
「じゃ、ローズ。魔法をかけてあげるね」
<不可視化>
<数えきれない目>
<影歩き>
<暗視>
と、ローズと私に覚えている限りの隠密魔法をかけてっと、
「じゃ、行くわよ」
「うん」
しゅたたたた。
暗闇の中、二つの影が走……たりはしない、だって不可視化の魔法をかけてるし。
と言うわけで、私たちは何も問題なく部屋の前までたどり着く。
まぁ一般の住宅だし、警備らしい警備もなかったし、建物の構造もから部屋まで簡単にたどり着いたのだけど……。
「シビル、この扉鍵かかかってるの、開錠の魔法お願い」
そう言って、扉の前でローズはニッコリと微笑みながら私をじっとみつめた。
もー、ローズは人使い荒いなぁ。
「じゃいくよ。<開錠>
開錠の魔法は魔法で対策を取っていない限り、どんな扉も開けられる便利な魔法なんだよね。
次の瞬間、「カチッ」と内側で何かが動くような音が聞こえ、ローズは素早く扉を開けて中に入った。
私も慌てて中に入ると、むわっとしたタバコの嫌な臭いが鼻につく。
と、その時、前方から何かが突進してくるじゃありませんか!
私は予想外の出来事に思わず叫び声をあげそうになった!
「にゃおぉーん」
なんだ猫ちゃんか。
ホッとしたのもつかの間の事、
「ん?なんだ?誰かいるのか?」
そしてそこにはなんということでしょう!人がいたではありませんか!
ちょっとローズ!そこは透視眼鏡の出番でしょ!何やってたの!?
私たちの姿は魔法で視得ないはずだけど、扉が自然に開いたらそりゃ気づかれちゃうよね。
さてさて、これからどうしようか。