43 お披露目
登場人物紹介
シビル・マクミラン……主人公。マクミラン伯爵の三女。十五歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。
ローズ・コーンウェル……主人公の親戚。コーンウェル侯爵の娘。十七歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。
コーンウェル侯爵夫人……ローズの母親。主人公の父親の従姉妹。
マデリン・ナトリー……ローズの友人。ナトリー男爵の娘。
フリーダ・バックレー子爵夫人……マデリンの友人。
§ § §
「シビル、今日の衣服は可愛いわね」
「フフフ、そう?ローズの衣服も素敵だよ」
ローズは私の衣服とは違うタフタの白百合色で、いつもの視慣れた魔術師の外套以外の衣服を着ているローズは新鮮で、そして素敵だった。
そして付き添いとして隣にいるのはローズのお母様である侯爵夫人のほっそりとした小柄な体躯を包でいる衣服は、ローズと同じく最高級の薄紫色のタフタで、その姿が年齢よりもお貌を若々しく感じさせる。
侯爵夫人って確か伯爵の従姉妹よね?
年齢は伯爵とあまり変わらないと聞いたんだけど……。
「シビル、お久しぶりですね。今日はローズの為にありがとうね」
「いえ、侯爵夫人。私こそ、このような場所に入る事が出来たのはローズのお陰ですから……」
「まぁ!貴女もいずれはここで社交界デビューする事になるんですからね。雰囲気だけでも勉強して帰りなさいな」
「はい」
「ではローズ、私は知り合いにご挨拶してきます。貴女も始まる前に済ませてきなさいね」
そういって侯爵夫人は人込みに紛れてしまった。
「まったくお母様ったら、私の付き添いって事忘れているんじゃないかしら?」
ローズは飽きれたように言うと、私たちは貌を視合わせて笑った。
§ § §
王宮は元々はとある大貴族の邸宅だったらしいのだが、その大貴族が謀反の容疑で処刑された際に、王家が接収したという、いわくつきの非常に大きなお屋敷だ。
その為、元々が貴族の生活を主体として設計されており、政務や防衛といった観念からみるとやや脆弱とされるが、その反面、生活するには非常に優雅でゆったりとした空間を提供している。
この王宮のバルコニーでは国家の祝日には王族が貌を出し、国民の前で手を振られるのが慣例となっていた。
廊下ひろーい、ながーい。
そこをしずしずと歩く参加者たち。
私は、ローズと侯爵夫人と共に広く長い廊下を歩いていた。
「ローズの謁見の順番はどのくらいなの?」
「うーん、そうね。私は早い方よ?これでも侯爵令嬢だしね」
「そうなんだ、良かった。早く戻ってきてね」
長い廊下を抜け、控室に入る。
そこにはローズと同じ立場の社交界デビューを控えた令嬢が沢山いる。
しばらく待機し、そして男性が大きな声で、
「レディ・ローズ、そして付き添いのコーンウェル侯爵夫人」
と、名前を告げると、ローズは、
「じゃシビル、行ってくるわね」
と言って謁見の間へ吸い込まれていったのである。
その場にポツンの残された私の頭にある事は、
はぁ……ローズ早く戻ってこないかな、お腹すいたなぁ……。
と、いうことだけであった。
§ § §
晩餐会の会場は、とても広く、王宮の複数存在するその手の部屋の中でも、ひと際大きい場所が選ばれていた。 王宮での晩餐会ともなれば、権力闘争の場であり、縁故を深めるための場でもある。
そんな中でもローズに連れられた私は、あっちこっちでケーキなどを摘まんではその美味しさに貌を綻ばせていた。
ローズと一緒なせいか、やたらにどこぞの子息や令嬢たちが次々とあいさつにくる。
そこはやっぱり侯爵令嬢と伯爵令嬢のペアということだろうか?
私はともかく侯爵は国外に総督として派遣されるぐらい、陛下の覚えも高い人だもんね。
ローズと私は王立魔術師ギルドに入門してるからこの手の催し物に参加する事は少ないし、この機会に知り会って仲良くしておこうと思う人が多いみたい。
その中でも明らかにローズを恋人候補として狙ってる子息がいたけど、ローズは笑顔のまま華麗にあしらっていた。
私も基本的にニコニコとした笑みを崩さないまま、隙を視つけては机から食べ物を摘まむ。
あのケーキで出来たお城も食べられるのかな……
などと、そんな事を考えていると、
「ローズ、お久しぶりね。シビルもごきげんよう」
と、何処かで視た事のあるご令嬢がやって来た。
「マデリンじゃない!久しぶりね」
思い出した!ローズの友人のマデリン・ナトリーじゃない、私がお茶会で失敗してしまった。
「お久しぶりです。マデリン」
そして傍にはもう一人。
「こちらはフリーダ・バックレー子爵夫人よ。フリーダ、紹介するわね、こちらは私の友達のレディ・ローズとレディ・シビル」
「レディ・ローズとレディ・シビル。フリーダです、これからも良しなに」
「「ごきげんよう、レディ・バックレー」」
私たちはスカートの裾を両手で軽くつまみ上げると、腰と膝を曲げて挨拶をする。
格別の美人さんと言うほどではないが、なんとなーく人好きのする貌立ちのご婦人だった。
私たちにバックレー子爵夫人を紹介したマデリンはいたずらそうに笑うと、
「ねぇ?フリーダ。アノコトをこの二人に話しちゃっていい?大丈夫!この二人なら絶対話を漏らさない事を約束するわ」
と言って、バックレー子爵夫人を視て妖しく笑った。
「あらやだ。もう、先ほど秘密にするって言ったばかりじゃないですか、もうミス・ナトリーったら」
と言って、こちらも妖しく笑った。
「この二人なら大丈夫よ。なんたってローズとシビルは王立魔術師ギルドの見習い魔術師で、滅多にこういう場所には姿を視せないんだから」
「もう、ミス・ナトリーは仕方のない人ですねぇ……。このお二人だけですよ?」
そう言って話した内容はトンデモないことだったのだ。