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30 鬼畜の所業

 登場人物紹介

 シビル・マクミラン……主人公。マクミラン伯爵の三女。十歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。

 ローズ・コーンウェル……主人公の親戚。コーンウェル侯爵の娘。十二歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。

 マートル・ベアリング……主人公の同期。ベアリング商会の娘。九歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。

 ヴィクトーリア・エアハート……主人公の同期。エアハート準男爵の娘。十一歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。

 アモス・パウアー…魔術師ギルドの講師。正魔術師






§ § §






 その日の講義は天文学だった。

 私とローズはいそいそと講義室へ向う。

 うーんやっぱり混んでるね。

 私はきょろきょろを辺りを視回みまわし、やっと発見できた席は教卓の正面である真ん中の席であった。

 ちなみに一番のベストポジションは窓際だと思っているんだけど、やっぱりそう考えている者も多いのか、なかなか空いてないんだよね。


「ねぇ、シビル、今日の講義の予習ってした?」


「ううん、してないよ」


「そうか……、どうか指名されませんように……」


 天文学の講師であるパウアー先生は正面の席の人を重点的に指名する傾向がある。

 今回私達が陣取った席も、その重点指名ポイントの一つだ。

 だから空いていたんだね……。

 そして指名されて、うまく答えられない生徒には先生の冷たい言葉攻めの餌食になってしまう。


「シビルは天文学得意だもんね、いいなー、余裕で」


「指名されたらコッソリ教えてあげるね」


「お願いね、シビル」


 そんな話をしていると、先生が入ってきたので、私達は会話をやめた。






§ § §






「むにゃむにゃ、ローズそのお菓子私にもちょうだい……」


 その自分の大きな呟きで、気が付いた私はゆっくりとを開けた。

 大きな欠伸をしながらのびーとすると、私は普段には無い違和感に気が付く。

 あれ?なんで隣にローズがいるんだろう?

 おかしいね?自分の部屋で寝てたはずでは……。

 ローズは視線で一生懸命に何かを訴えかけていて、そしてようやっと、自分が置かれた状況が非常にまずいものだと知った。


「シビルさん、覚醒めましたか?それではこの問いに答えてくれませんか?」


 先生の冷たい声と生温かいまなざしが、やけに現実離れしてたように感じた私は、まだこれが夢の中にいたように感じていたのだが、


「シビルさん?まだ夢の中にいるのですか?」


「は、はい!だいじょうぶでしゅ」


 派手に咬んでしまった。

 その瞬間、ドッと湧き上がる、同期たちの笑い声。

 横をるとローズも涙を浮かべながら笑っている。

 私も泣きたいよ、とほほほ……。

 そして真っ赤になったかおられないように、俯きながら、前に出て先生の問いに答えるのだった。






§ § §





 天文学のパウアー先生は、導師ではない正魔術師に位置しながら、講義を受け持つほど優秀な先生だ。

 歳の頃は三十未満と噂されるが、若手の正魔術師の中では一番導師に近いと噂されるほどらしい。

 髪は丁寧に後ろに撫でつけられており、付与魔術エンチャンメントが施された眼鏡がとてもとても良く似合っている。

 講師の中では女子人気がぶっちぎりで高い先生でもある。

 ヴィクトーリアやマートルは先生と同期の男子のイケない妄想をする事があるようだが、それはまた別のお話。

 なんかそのハンサムな貌立かおだちでちょっとナルシストっぽい感じの所とか、皮肉や嫌味をいうところとか、あとは眼鏡も重要なポイントであると力説していたよ……。


「これを運んでもらえますか?シビルさん」


 の前にあるのは、一抱えもありそうな荷物が五個も!

 これを私に運ばせようというのか……。

 ……決めた。もうこれからバウアー先生の事は心の中で鬼畜眼鏡と呼んじゃうよ!


「女子一人に運ばせる量じゃないと思うんですけど……」


 それを聞いた先生はを細めて私をじっとみつめると、


「<軽量化デグリーズウェイト>をかければいいだけでしょう?君なら造作もないことだと思いますが」


 と、言い放つ。

 ぐぬぬぬぬ……、この鬼畜眼鏡め~。


「た、たしかに少し居眠りをしてしまったのは悪いと思ってます。で、でも私は今まで先生の授業はちゃんと真面目に受けてましたし、せ、成績だって!」


「たしかにシビルさんの成績は上位に入ってますね」


「そ、そうです!い、居眠りだって、それは遅くまで予習してたからで!」


 と、軽い嘘を交えつつも、なんとかこの刑を逃れようと足掻あがいていたが、先生は頭を左右に振ると、眼鏡をおさえつつこうおっしゃったのだ。


「確かにシビルさんは良い生徒だと思っておりました、今日までは。そして今日、私は大きな衝撃を受けました。信じていた生徒に裏切られる、というはかりしれない衝撃をです」


「…………すみません」


「何か他に言いたいことはありますか?」


 あるよ!

 でも言うと、先生からの評価がさらに下がっちゃいそうだからもう言わない……。


「わかりました……。フン、やれば良いんでしょ!やれば!お望み通りやってやろうじゃないですか!」


「あまり反省をしてる態度とは思えませんが……。ではお願いいたしますね」


 私は荷物それぞれに<軽量化デグリーズウェイト>をかけて、いざ運ぼうとしたときに、


「……シビルさん」


「せ、先生!もしかして考え直してくれたんですね!やっぱりこの量を女の子一人に運ばせるのは酷ですもんね!」


「勝手に決めつけないでください。一度に運ぶのは構いませんが、落とさない様に。って言おうとしただけですよ」


「……私がここまで言ってるのに考え直す気は無いんですか……」


 先生は眼鏡を抑えながら、フンと鼻を鳴らすと、


「では気を付けて行ってらっしゃい」


 と、いって笑顔で手を振った。


 そして私はというと、先生の言った通り、廊下に盛大に箱の中身をぶちまけてしまい、涙目で拾い集めたのはナイショである。

 シクシク、中身が紙でよかった……。

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