29 古代書研究会の真実
登場人物紹介
シビル・マクミラン……主人公。マクミラン伯爵の三女。十歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。
ローズ・コーンウェル……主人公の親戚。コーンウェル侯爵の娘。十二歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。
マートル・ベアリング……主人公の同期。ベアリング商会の娘。九歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。
ヴィクトーリア・エアハート……主人公の同期。エアハート準男爵の娘。十一歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。
マール・デバイン……主人公の同期。細面のハンサム。
ベイジル・ノールズ……主人公の同期。ガッシリ系のハンサム。
§ § §
その日の講義が全て終わった。
私は軽く伸びをするといそいそと『古代書研究会』の部室へと向かう。
今日は私が一番乗りみたいね。
先にお茶でも……。
そこで私の眼に机の上に放置されていた一冊の本が止まった。
誰の本だろう?
皆が来るまで、ちょっと私も読んでみよっと。
§ § §
「今日は疲れたな、マール 」
魔法の実習が終わると、講義室を出ようとしていたマールにベイジルが話しかけた。
今日の実習はなかなかに魔力を消費するもので有ったのにかかわらずベイジルには疲労の色が視えない。
だが、マールにはなかなか堪えたようだ。
その服は汗で濡れて、体躯の線がより強調されていた。
そして、その貌からはいまだに汗がにじみ出ており、張り艶のある肌に水滴がまとわりつき、なんとも言えない艶めかしい雰囲気を醸し出している。
「どうした?汗をそのままで。タオルを忘れたなら俺のを使えよ」
ベイジルはマールに自分のタオルを放り投げる。
「ありがとう」
ベイジルはマールが汗を拭く所をじっとみつめたまま眼を離そうとしない。
その様子に気が付いたマールはベイジルが己の汗で透けた体躯を凝視しているのに気が付くと、
「み、視ないでください」
と、恥ずかし気に体躯をよじった。
しかし、ベイジルは、
「ふふっ」
と、笑みを浮かべながらも、視線を外そうとしない。
「僕のいう事なんて、聞いてくれないんですね」
マールは貌を赤らめながら、ベイジルに背を向け、汗を拭っていた。
そして、夜の帳がすっかり落ちた頃。
満月の光が針針と灌ぐ部屋の一室。
その光がマールの蒼白い膚と煌く白百合色の髪を照らし、そして部屋にはもう一人。
「これなら魔法で光を灯す必要もないな」
ベイジルの熱を帯びた声が静かに、だがはっきりと響き渡る。
「は、はい……」
ベイジルはマールの華奢な体躯を寝台に押し倒すと、その身に纏う闇黒のローブを剥ぎ取ろうとする。
「ま、まって!じ、自分で脱ぎますから……」
「この状況で、俺が待てるとでも思ったか?」
ベイジルはマールの言葉など聞かなかった。
「んっ!」
マールのなまめかしい声が、狭い部屋に響く。
そして、その嬌声がさらにベイジルの心に火をつけたのか、マールの体躯を愛撫しながら、強引に服をはぎ取っていく。
「そ、そんな……。もっと、や、やさしく……んんっ!」
マールの体躯はその乱暴な行為にも敏感に反応し、普段の自分からは想像も出来ない様な声を出そうとするのを、必死で押し殺す。
「お前の部屋の両隣は空き部屋だろ?もっと声をあげてもいいんだぜ?」
「で、でも!」
「……これでもそんな事は言ってられるかな?」
ベイジルは懐からおもむろに一本の魔法薬を出すと、蓋を開けた。
魔法薬特有の何とも言えない匂いが部屋に漂う。
「そ、その薬は!」
「そう、エロースクエンチャだよ」
そういうや否や、ベイジルは己の口に薬を含ませると、強引に口移しでマールにも飲ませる。
「やっ、やめてください、ごふっ」
「へっ、すっかり飲んじまったようだぜ?」
マールの奥底から焼けつくような熱が体躯を駆け巡る。
「はぁ、はぁ、はぁ……。か、体躯が……熱い……」
そんなマールを視ているベイジル自身も、体躯から湧き上がるドロドロとした欲望が溢れ始めるのを感じていた。
「安心しろよマール。スグに沈めてやるさ」
そして二人は――。
§ § §
……何なのコレ?
ベイジルってあの?
マールってあのマールよね?
マール・デバインは細面のハンサムであり、実技はともかく座学はかなり優秀である。
ベイジル・ノールズはガッシリ系のハンサムだ、実技は得意としているようだが、座学はマールには及ばない。
二人して女子の人気者である。
そして、二人は入門前からの知り合いらしくいつも一緒につるんでいる。
そう、ベイジルとマールは私と同じ同期生である。
ナニコレ?二人がそんな関係って!?
私の頭の中が???でいっぱいになっているところで、ガラリという音と共に扉が開いた。
「あら、シビル。先にいらしてたんですか」
「シビル、ごきげんよう」
入って来たのはマートルとヴィクトーリアだ。
「あら、シビルその本は――」
眼聡く本を発見したのはマートルだった。
「こ、こ、こ、この本は、い、一体」
「ふふふ、シビルにはちょっと刺激が強すぎたようですね」
そう言って二人は貌を視合わせると、妖しく笑う。
「マ、マールとベ、ベイジルが――」
動揺している私に、ヴィクトーリアがポンと肩をたたくと、
「大丈夫ですわ。ちゃんと創作は創作と弁えてますから」
「で、で、で、でもデモ」
「お待たせ、みんな。ん?どうしたの?」
そこに登場したローズを席に着かせると、ヴィクトーリアとマートルの講義が始まる。
そう、ここは『古代書研究会』。
読書や創作好きの女子が集う、とある倶楽部である。
その日、私は大人の階段を上ってしまった。