02 将来の可能性
「お前たちは以前から魔法の練習をしていたのか?そうとしか考えられん!」
「いえ……?少なくとも私はそれまで魔導書など読んだことがありませんでしたよ?シビルもそうでしょう?」
「お父様に本の持ち出し許可をもらうまで、魔法なんて使ったことがありませんでした」
伯爵はすごい剣幕だ。
私、なにかやっちゃったの!?
でも、普通に本に書いた会った通りにしただけだよね?
毎日練習、集中して、イメージして、炎の魔法を使っていただけだ。
というか私もローズも本に触らないで火炎の手を使えるようになったのは、ここ数日の事だったりする。
「本に記述されていた通り、毎日鍛錬していたら、本に触らすとも使えるようになりましたが……」
伯爵は机においてある本を手に取ると、パラパラと頁をめくる。
「間違いない……。これは確かに書庫に……私も使っていた魔導書だ」
伯爵はそう言うと、あとは聞こえないような声で何事かをぶつぶつと呟いていた。
なにか怒られるかもしれない!
そう思って身を縮めていたのだけど……。
そうはならなかった。
伯爵は本に手を触れたまま、眸を閉じ始め、そしてしばらくすると、その指先に火が灯った。
そしてそれを前方へと飛ばす。
火炎の手の魔法だ。
まぁ、元々書庫にあった伯爵の本だし、初級魔法ぐらい使えてもおかしくないよね。
ただ、その炎は私やローズが飛ばしたものよりもずっと小さく、飛んだ距離も短かった。
そして何かに満足したかのように頷くと、今度は本から手を離し再び眸を閉じる。
その様子をしばらく見守っていたんだけど……。
「……やっぱりダメだな」
と、言って貌を顰める。
そして私の方に貌を向けると。
「シビル、お前はなぜ魔法に興味を持った?ローズになにか言われたからか?」
「えっ……と」
うーん。なんと説明するべきか。
『うちの財政が火の車なのをしったので、魔法でも覚えて早めに独立して、将来、資産家のスケベ親父に嫁がされるのを避けるためです』
なーんて、正直にいえないよね。
なんて答えようか……。考えがまとまらず、そのまま押し黙っていると。
「先ほどローズも言っていたが、本当に宮廷魔導士になりたいのか?」
「えっ……」
正直、そこまで明確なプランは無かったが、他に考えも浮かばなかったのでとりあえず頷いておく。
「そうか……。だが宮廷魔導士とかそんな簡単になれる物じゃないぞ」
「はい……」
「だが、目標を持つのは悪い事じゃない。本当になれるかは分からないが、努力はしてみるべきだな」
「わかりました」
「邪魔をして悪かったな。……それと本は持ち出しても良いが、必要無くなったら必ず書庫に戻すのだぞ」
そう言うと、伯爵はスタスタと立ち去っていった。
「ふー。怒られるかと思った」
「よかったじゃない、シビル。伯爵も認めてくれたよ」
「でもこれって、もし途中で投げ出したら、かえって怒られるんじゃないの?」
「そうかも!でもその時はその時よ」
そう言って、私達は笑いながら練習を続けた。
§ § §
それから数週間が経過し、私達は再び書庫に足を運ぶ。
魔導書を返却する為だ。
と、言っても飽きたり挫折をしたわけじゃない。
この初級魔法教本に載っている魔法は全部使えるようになったためだ。
新たな本を探す過程で、また四つん這いになりローズを背に載せて重たい思いをしたのはまた別のお話。
持ち出した新しい魔導書を片手に、また庭園の石造りの建物へと急ぐ。
「ふーん、今度の本は氷の魔法が中心なのね。どう違うのかわからないけど、火の魔法より氷の魔法の方が難しいみたい」
火を起こす手段は魔法以外にもいろいろあるけど、氷にする手段は殆どないもんね。
自然の摂理がそうなってるから魔法もそうなってるのかな?良く分からないけど。
本に書かれた堅苦しい内容の前文を、例によって読み飛ばしながらローズと一緒にペラペラと頁をめくる。
次はどんな魔法が待っているのだろう。
私はワクワクが止まらなかった。