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26 聴講生再び

 その日の講義は魔法薬学だった。

 私とローズはいそいそと講義室へ向かった。

 今日の講義は座学では無く、実習である。

 何時もとは違い、秤や鍋、まな板や刃物まであらかじめ用意されてあった。


 ローズと同じテーブルに付き先生を待っていると、


「やぁ、こんにちわ」


 声の主はモーリーン・エゼルレッドだった。

 どうも別のテーブルにいたのに、私たちの隣が空いていることを良いことに移動してきたみたいね……。


「こんにちわ……。エセルレッドさん」


「モーリーンでいいよ、その代わり私もシビルって呼んでいい?」


「わかりました、モーリーン。私のこともシビルと呼んでください」


「よければそちらの娘も紹介してくれないかな?」


「こっちはローズ・コーンウェル、私の親戚です」


「こんにちわ、エセルレッドさん」


 ローズは余所行きのかおでニッコリとほほ笑む。

 さすがローズ……人たらしは完璧ね!


「コーンウェルって、まさかコーンウェル侯爵の?」


 しかしモーリーンの様子は以前とは違った。

 取り繕ってはいるが、何処となく不自然な様子が見え隠れしている。


「はい、コーンウェル侯爵は父です。もしかして侯爵()のお知り合いですか?」


「い、いや。そういうわけでは無いんだけどね……」


 どうしたんだろう?私の時の態度からして、貴族に遠慮するとかそういう性格じゃないと思うんだけどな。


「よ、よろしく。コーンウェル様」


 へ?

 なんでローズだけ様付け?

 私の時と態度が露骨に違わない?

 これが侯爵令嬢と伯爵令嬢の格の違いってやつ?


「私の事はローズとお呼びください、エセルレッドさん」


「あ、ああ。私の事もモーリーンで」


 どうしたんだろうね、一体。明らかに恐縮している。


「ところで、モーリーンはなぜこの講義を?」


 そうだ、そうなのだ。

 魔法薬学はその名の通り、魔法マジック――魔力を使う講義だ。

 魔力が無い者が学んでもしょうがないはずなのだ。


「あ、ああ。私も……家系うちも五代前まで貴族だったからね。魔力はあるんだ」


 あ、そういう事……。

 子供が何人いようが爵位を継げるのは一人だけだ。

 故に後継者以外の子供は、魔力があっても爵位のない――法律上の平民になってしまう。

 そうして枝分かれした者の末裔がモーリンなのだろう。

 現に伯爵()の後継者であるジェームズも、先代伯爵(祖父)から枝分かれした――法律は平民だしね。

 同期の中にも平民は多いのだ。


「エセルレッド……。もしかしてエセルレッド商会と関わりのある方でしょうか?」


 ん?ローズは何かしってるの?


「え、えぇ……」


「ローズ、エセルレッド商会ってなに?」


「エセルレッド商会のエセルレッド家は侯爵家うちの庶家の一つなのよ。何代か前に枝分かれしたね」


 へぇ……。でもそんなの良く覚えてるね。


「あれって、一年、いや二年ぐらいまえだっけ?エセルレッド家で何かの祝宴があってね。侯爵()と一緒に私も着いて行ったのよ。だから覚えてるってわけ」


 なるほど、それでか……。

 だからモーリーンはローズの家名――コーンウェルの名前を聞いてから態度が急変したのか。


侯爵家うち親戚を悪くは言いたくないけど、ここ最近はあまり商売の方がうまくいってないみたい」


 と、ローズが私の耳元に口を近づけてヒソヒソと話す。

 ふむ、モーリーンが冒険者アドゥヴェンチャラーなんて仕事についてるのもそれが原因なのかな?

 それ以降、先生が来るまでモーリーンが口を開くことはなかった。






§ § §






「それではみなさん、講義を始めます」


 先生がそう言って、各道具や薬草の説明から始める。


「いいですか?必ず各薬草の名前や種類、分量は間違えない様に。作業に慣れるまで……、それこそを閉じていてもそらんじる事が出来る様になるまでは、必ず書き留めたメモをて作業をするように」


 先生は薬草を高く持ち上げると、


「ではまずはこの薬草を適切な大きさに刻むところからです。とりあえずの道具はこちらでも用意してありますが、もし何らかの事情で刃物が用意できない場合は魔術師の杖メイジスタッフをこのように刃物の形に変化させる事で作業が可能になります」


 先生の指示で、皆刃物で薬草を刻みだすが、


「ローズ、その持ち方は危ないよ」


 隣をるとローズがおっかなびっくりという感じでこわごわ薬草を刻んでいた。


「む、じゃシビルやってなさいよ」


 まぁローズは侯爵令嬢、自分で刃物を握って作業するなんて普段はしないししょうがないか。

 着替えすら侍女レディーズメイドに手伝ってもらっていたもんね……。

 でも私は大丈夫だ、てなさい!


「刃物はこう持って、抑える方の手をこうよ。それで、こんな感じでリズミリカルに刃物を動かすのがコツなんだから」


 トントントントン。

 テンポのよい音を立てながら、私は刃物を動かす。


「こうすれば指を怪我する事もないよ、はい、ローズもやってみて」


「こ、こうかしら……」


 私はローズの手の上に、そっと手を添えると、


「こんな感じね、じゃ行くわよ」


 トン、トン、トン、トンと、依然としておっかなびっくりではあるものの、先ほどよりはスムーズに刃物を動かす。


「薬草を細かく刻み終わったら、教えた分量の通り容器に入れ、魔力を込めながらかき混ぜます」


 えっと、こんな感じね……。

 魔力を込めて、まぜまぜまぜっと。


「そのまま均等に魔力が混ざるようにゆっくりとかき混ぜて、表面が魔力で薄く光れば完成です」


 魔力を込めてまぜまぜまぜまぜっと……。

 ってあれえ?

 なんとまぜまぜしていた薬草が薄く光るどころか、黄金きん色の砂粒上に変化してしまった。


 あれ?先生に教えられた手順通りやったのにおかしいね。どうちて?


「シビル、こんな感じかしら……って、どうしたのこれ?薬草が砂粒になってるじゃない」


 ちょっ、ローズ!声が大きい!!

 その声を聞きつけたのか先生が私の方へやってくると、


「シビル、それは魔力を一気に大量に込めすぎですよ。もっとゆっくり少なく丁寧に!」


「はい……」


 最初からやり直しになってしまった、トホホホ……。


 結局私は合格までに三回ほどやり直すことになったのはまた別のお話。

 ちなみにローズは一回で合格すると、私に向かってニマニマ笑いポンと肩をたたいて退出していってしまったのであった。

 う、う……薬草の刻み方教えてあげたのは私なのに……解せぬ。

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