22 光輝く精霊石
「んんぅ……!?へぷちゅ」
その自分の声で私は眼が覚める。
精霊石に魔力を注入していたらいつの間にか気絶するように眠ってしまったみたい。
ベッドの上でのびーっとした後、起き上がるとちょっとふらついた。
これは寝起きのせいかな?魔力枯渇の前兆じゃないわよね……。
一晩寝れば魔力の大半が回復するはずなのできっと大丈夫だろう。
うー、さぶい。風邪を引かなくてよかった。
ここ最近、毎晩精霊石に魔力を注入している。
が、これは大地のクリスタル以上に魔力食いなのだ。
注入すればするほど、ドンドンと魔力が吸われていく。
眩暈を通り越して、頭がクラクラするほど魔力を注入したら、そのまま気絶するように就寝するのが日課になってしまっていた。
こんな日課嫌だよ……早くなんとかしないと……。
魔力というものは体力と似ている。
体力をギリギリまで酷使する毎日が続けば、やがて病気や怪我をしやすくなるように、魔力も酷使し続ければ病気になりやすくなるかもしれない。
私は自慢ではないが体力には自信がない。
そのせいなのか病気になると高熱が出やすく、伯爵や伯爵夫人によく心配をかけていたのだ。
私は悩んで悩んで悩んだ結果、ある計画を実行する事にした。
私は意を決し、伯爵館から持ち込んだ荷物をガサゴソあさると、一つの入れ物を取り出す。
それは小ぶりの宝石箱だ。
パコっと開けるとそこには宝石……では無く、ソーマの結晶があふれんばかりに入っていた。
そう、それは私が伯爵館の裏の林で、探すのを日課としていた、あのソーマの結晶の欠片だった。
使うのがもったいなくて日々ため込んでいたのだ。
欠片と言っても大きさは大小さまざまであり、本当の意味での欠片から、やや小ぶりの石程度の大きさまである。
そして部屋に備え付けられた机に視線を送ると、光輝く大地のクリスタル。
騎獣に用のすでに魔力を注入済の物が複数個。
そしてあとは、念の為の裏技がもう一つ。
フフフフッ、完璧な計画ね!これだけあればきっと……。
私はベッドに腰かけたまま、精霊石を両腕でぎゅーと抱え込む。
精霊石は魔力を注入すればするほど、本来持っていた色がドンドンと深みを増してゆくように感じられる。
取得した精霊石は同期しているらしく、一つづつ魔力を注入して満タンにさせる、という事は出来ないみたいなんだよね。
なの八個を一まとめにするように抱え、魔力を注入しているのである。
一度様子を視に来たローズからは、「シビルったら卵を抱えた親鳥みたいね」などと言って笑っていたが、ローズだって六個だよ、同じだと思うんだけどなぁ。
クラフ先生によれば八属性全ての精霊石を手に入れる者は、数年に一人いるか居ないかの珍しい出来事みたい。
そして精霊石の中でも光の精霊石、闇の精霊石の二つについては注ぐ魔力量も多くなるとかなんとか。
……はぁ。
ちなみにローズみたいに六個の精霊石を入手できる者は同期に一人いるかどうかなんだって。
私がこんなにも急いでいるのはわけがあるのだ。
精霊石の取得以来、講義はお休みになっていたが、それが明日から再開されるのである。
無論、それまでに注入が終わっていなくても、同期より遅れるだけであり注入が終わり次第、魔術師の杖を持つことが出来るのだけれどやっぱり人よりあからさまに遅れるのは嫌だよね……。
ベッドにゴロンとして、精霊石に魔力を注入してると、やがて来るのは魔力枯渇の前兆である眩暈。
そろそろね……。
私はおもむろに宝石箱を開けると、ソーマの結晶を一つまみして魔力を取り込む。
魔力を失ったソーマの結晶はその輝きを失うと、砂粒状に崩れてしまった。
……よし!眩暈がなおった!
そしてまたベッドに転がりながら精霊石に魔力を注入する。
魔力枯渇の前兆である眩暈が来たら、またソーマの結晶を取り出して魔力を取り込む。
それを繰り返す!
§ § §
あれ、おかしいな、そんなはずは……。
宝石箱に溢れんばかりに入っていたソーマの結晶は、もう残り数個を残すのみになっていた。
魔力を完全に満たした精霊石は輝き出すという話だけど、今だにその気配はなかった。
魔力は注ぐたび、底なし沼のようにドンドンと吸い込まれていく。
もぅ!どんだけ魔力の大食らいなのよ!
私は残り少ないソーマの結晶は残しておくことに決め、ベッドから立ち上がると机に置かれていた大地のクリスタルに手を伸ばす。
騎獣用に私の魔力を注入済のクリスタルから魔力を取り出す作戦だ。
ソーマの結晶から魔力を取り込むのとは違い、クリスタルから魔力を取り出すには若干の魔力が必要な上に、自分が注いだ魔力しか取り出すことはできない。
しかし、余裕がある時に余剰分を貯金するように蓄えておくことで、このようにいざという時の魔力のたくわえとして利用できる事が出来た。
勿論これは騎獣用のクリスタルなので、魔力を取り出したら騎獣に乗れなくなってしまうんだけどね。
私は大地のクリスタルに手をやり、その魔力を吸い出すとまた精霊石を抱え込み、ベッドでゴロンゴロンしながら魔力を注入する。
今度こそ魔力が満タンになってよね!
§ § §
「あれ?」
びくっと体躯を震わせると、私は眼を覚ました。
精霊石に魔力を注ぎ込んでいたら、いつの間にか転寝をしてしまったみたい。
そして私は――起きた拍子に腕から零れ落ちた精霊石が光輝いているのを視た。
八つそれぞれが、まるで自己主張するように別々の色に光輝き、その色が入り混じった光はまるで虹を連想させた。
私は暫くの間、その光輝く精霊石から眼を離す事が出来なかった。