19 聴講生と騎獣作成
登場人物紹介
シビル・マクミラン……主人公。マクミラン伯爵の三女。十歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。
ローズ・コーンウェル……主人公の親戚。コーンウェル侯爵の娘。十二歳。魔術師ギルドの見習い魔術師。
マクミラン伯爵……主人公の父親。
モーリーン・エゼルレッド……冒険者。
チャールズ・ブランドル……平民。シビルとローズへ魔法を教える。
ジェナ・クラフ……王立魔術師ギルドの導師。シビルとローズの担当導師
§ § §
その日、午前の講義は薬草学だった。
私とローズはいそいそと講義室へ向かった。
講義室に入ると空いている席を探す、うー、結構混んでるわね……。
それでも何とか二人分の席を視つけ並んで座った。
と、そこで初めて私の隣に座っている人物が眼に留まる。
歳のころは十代後半ぐらいだろうか?
同期は十代前半の者が多い中、明らかに歳を食っているように視える。
こんな人、同期にいたっけな……。
私はなぜか人の貌を覚えるのが苦手だけど、一応同期生は必死に覚えようと努力していたのだ。
じっと視つめられている事に気が付いたのか、その人物が声を掛けて来た。
「こんにちわ、貴女視ない貌だけど魔術師ギルドの人?」
金髪をポニーテールにした、美人さんだ。
体格がいいので、その髪と膨らんだ胸が視えなければ男性と間違える人がいるかもしれない。
その肌は日に焼け、健康そうな小麦色をしている。
魔術師ギルドの同期は――導師もだが、日に焼けている者は視なかった。
普段から室内にこもって勉強をしているからだろう。
それに体格が良い者もそうはいないのだ。
「こんにちわです。そうですが……」
「私はモーリーン・エゼルレッド、よろしくね」
「はぁ……」
モーリーン・エゼルレッド?
聞いたことない名前だけど……。
私は貌を覚えるのは苦手だが、名前を覚えるのはそんな苦手でもないのだ。
「私はシビル・マクミランです、宜しくお願いします」
「ふーん、マクミランって伯爵家の?」
「はい、マクミラン伯爵は父です」
「なるほど……やっぱりそうなんだ」
「もしかして伯爵のお知り合いですか?」
「いいや、全然。でも上位貴族の名前は憶えているとね、イロイロと便利な事があるんだ」
ふーん、そうなんだ。でもこの人初対面のはずなのに、なんか随分と馴れ馴れしい人だね。
「貴女は……私の同期の方じゃないですよね?」
「へっ?同期?……あぁ、違う違う。私は聴講生だよ、外部の人間だね」
「聴講生?って何ですか?」
「ん?知らないの?王立魔術師ギルドでは外部の人間にも学問を教えたりしてるんだよ。勿論許可を得た者だけだけどね。ほら、私の他にも視ない貌がいるだろう?」
そう言われて改めて周りを視回すと、なるほど、明らかに歳かさの者がチラホラ視える。
へー、聴講生、外部の人間でも講義に参加できるんだ。
「家庭教師を雇うより安くつくしね。私塾に通うよりも講師の質が保証されているのも大きいな。歩いて通えないような場所から来る人もいると聞くよ」
「へぇ……純粋に学ばれるために通っているんですか」
「そうだよ、薬草学は学んでおいて損はないからね。それにこういう場所だからこそ貴女みたいな貴族の子女と知り会う機会もあるしね」
と言ってモーリーンは意味ありげにウィンクする。
ハハハハ……。
「貴女はどうして薬草学を学ぼうと思ったんですか?もしかして薬草を生業としてる商人とか……?」
「いや、違うよ。私はね、冒険者なんだよ」
「はぁ、冒険者……」
冒険者ってアレよね。
身元も年齢も関係なく誰でもなれて、仕事に困った取柄が無い者がなるという話の……。
「薬草は――例えば傷に利く薬草なんかはいきなり傷がふさがったりはしないけど、炎症や化膿を抑える効果があったりするからね、知識はあればあるだけ良いんだ。それに――」
と、そこで一旦区切り声を顰めると、
「一部の薬草はね、すごい高く売れるんだ」
と言って、ニヤリと笑った。
「冒険者って普段は主にどんな事をしてるんですか?」
「まぁ、いろいろだね。商人の護衛をしたり、依頼された動物を狩ったり、さっき言ったみたいに薬草収集も仕事の一つだよ」
ふーん、良く分からないけどやっぱり荒仕事が主な仕事みたいね。
「その、危険は無いんですか?」
「そりゃ、あるよ」
と、いってモーリーンは嫌な事を思い出したかのような貌をして溜息をつく。
「山賊や海賊を倒したりとかね、さっきいった高価な薬草だってそこらに生えているものじゃないんだよ。危険な場所でしか入手できない物ほど、高価になるからね」
やっぱり命がけの大変な仕事なんだ。
「そうなんですか、大変ですね」
「そうだよ、大変なんだ。私が薬草学を学んでいるのも、危険を少しでも減らすためなんだ」
「シビル、先生がきたよ、おしゃべりはやめないと」
おっと、授業が始まっちゃう。
私とモーリーンは口を閉ざして前を向いた。
§ § §
午前の薬草学が終わり、食堂で昼食を頂いたあと午後からは魔法の実習だ。
「今日の課題は大地のクリスタルの形を変える事です。イメージした通りに形を変えさせないと次の手順へは進めません」
チャールズから教えられたまんまね。
私達なら問題なさそう、ローズと貌を合わせ、お互いに笑みを浮かべる。
「君たちの中でやったことある人は……と、またローズとシビルですか。宜しい、やってみせなさい」
以前の授業よりも、一回り以上大きなクリスタルを渡される。
そして、ローズはさほど時間が掛からずに、大きな形や小さな形に変形して視せ、周りから歓声があがる。
「ローズは問題無いようですね……。次はシビル」
「は、はい」
今度は失敗しないぞ!
集中しながら、少しづつ魔力を注入する。
集中、集中!
クリスタルが眩しく輝き出した所で魔力の注入を止め、次は形の変化だ。
大きくしたり、小さくしたり、筆記用具の形にしたりしたところで声がかかった。
「シビルも良いでしょう、合格です」
やったー!今度はローズと同じく一発合格だよ!
「この様に、大小さまざまな形に変化させることが出来たら次の段階に進みます」
そしてクラフ先生は私達の方へチラリと視線を落とすと、
「騎獣の作成ですが……、その様子ではやっぱり貴女達はすでに経験があるようですね、いいでしょう。ローズからやって視せなさい」
「はい、先生」
ローズはクリスタルを蒼い鷲に変化させ、ひょいっと横乗りに騎乗する。
「……ローズ、合格です。では次シビル」
「はい」
私もいつものようにクリスタルを紅い鷲に変化させてっと……。
そして変化させたやや抽象された紅い鷲へ横乗りに騎乗すると、つい何時ものように空中に飛びたってしまった。
「えっ!?」
クラフ先生が慌てたように声を張り上げる。
「シ、シビル戻ってらっしゃい!今日の講義は騎獣の作成までですよ!」
だが、その時にはもうそれなりの高さにいた私には、風の音もありこの声は届かなかった。
へへへ、飛ぶの久しぶり!
……風が気持ち良い~。
そこへ先生から飛び立つ許可をもらったローズが追い付いてくる。
「ちょっと、シビル!先生が怒ってるよ!早く降りて!」
「ほぇ?」
「もぅ!いいから!」
「ちょっ、ローズ。腕を引っ張たら危ないって!落ちちゃうよ~」
「いいから早く降りて!」
ローズに引っ張られるようにして地上に降りた私は、クラフ先生からのお小言と減点を食らったのだった。
シクシク。もぅ、飛んじゃダメだったら先にいってよ~。