15 シビルの出発
登場人物紹介
シビル・マクミラン……主人公。マクミラン伯爵の三女。十歳。
ローズ・コーンウェル……主人公の親戚。コーンウェル侯爵の娘。十二歳。
マクミラン伯爵……主人公の父親。
マクミラン伯爵夫人……主人公の母親。
メアリー・マクミラン……主人公の姉。マクミラン伯爵の長女。二十一歳。
イーディス・マクミラン……主人公の姉。マクミラン伯爵の次女。二十歳。
グウェン……マクミラン伯爵家のハウスメイド。
サー・ジョン・マクルーア……ジョン・マクルーア準男爵。
マーガレット・サヴィル……王立魔術師ギルドの次席魔導師
§ § §
マクルーア準男爵は約束通り、ハウスメイドへ秘書の口を紹介してくれた。
どうやらマクルーア準男爵の傘下にある商会の一つらしい。
いきなりの話に最初はグウェンも困惑していたものの、詳細を聞くと、とてもとても喜んでくれて何度もお礼を言われた。
も~気が早いなー。まだ面接がきまっただけだよ?あとはグウェンの実力勝負なんだからね?
と、窘めていたのだが、結論から言うと無事合格したみたい。
その時のグウェンの喜びようったら……、とてもとても言葉では言い表せないほどだった。
おめでとう、グウェン、夢がかなって良かったね。
そして、グウェンが伯爵館から去っていって、しばらくの時がたった頃……。
「失礼します、伯爵。なんの御用でしょうか?」
「失礼いたします、伯爵」
私とローズに対して、伯爵から呼び出しがかかる。
「お前たちに手紙が来ている……」
そう言って伯爵は何かをためらうような感じで、私達に手紙を渡す。
私には一通、ローズには二通だ。
手紙?
手紙なら普段通り、使用人に私達の部屋まで届けさせればいいのに……。
なんで今日に限って伯爵がわざわざ手渡しするの?
降り注ぐ伯爵の視線を感じながら、見慣れない封蝋をパキっと音を立てて開くと中に入っていたのは明らかに上質の厚みがある羊皮紙。
私は手紙に眼を通すと、眼何度もパチクリさせ、貌をあげ伯爵を、そしてローズを視た。
ローズも同じように私の貌を視つめている。
そして、ほぼ同時に声をあげた。
「「えっ、うそ!?なにこれ?」」
伯爵は何とも言えない貌で頷く。
私は再び手紙に眼をやると、頭からゆっくりと読み直してゆく。
『レディ・シビル・マクミラン
貴女は王立魔術師ギルドへの入門を許可されました。おめでとうございます。
入門に当たり、必要な書類一覧を同封いたしますのでご覧ください。
王立魔術師ギルド 次席魔導師 マーガレット・サヴィル』
二枚目以降の手紙には入門にあたっての必要なものがズラズラっと書いてある。
「うそうそ!これ、サー・ジョン・マクルーアからのささやかな感謝の気持ちだって!」
どうもローズが受け取ったもう一通の手紙はマクルーア準男爵からで、助けてくれたことへのお礼と感謝の言葉、そして王立魔術師ギルドへの入門を手配したので、迷惑でなければぜひ受けて欲しい旨が記述されていたようだ。
王立魔術師ギルド――それはこの国唯一の魔術師ギルドだ。
そもそもの成り立ちでいえば、魔術師同士の互助会みたいなもので、国との関連性は無かったのだが、ある時、時の国王と対立し、徹底的に滅ぼされたとかなんとか、怖いよね。
そして、その後、国家主導で設立されたギルドが、王立魔術師ギルドであるらしい。
そこで学んだ者の多くは宮廷魔術士として王宮に出仕している。
宮廷魔術士の上位である宮廷魔導士を本気で目指すならば王立魔術師ギルドに入門するのが確かに近道なんだけど……。
問題なのは――入門するの莫大なお金がかかるみたいなんだよね。
なので、財政が厳しい伯爵家の内情を知っているので、伯爵には言い出せなかったのだ。
さすがはマクルーア準男爵と言うべきか、伯爵家や侯爵家の内情を調べ上げた上で、王立魔術師ギルドへの入門を手配したみたい。
勿論、費用は全額、マクルーア準男爵持ちだ。
大金持ちってすごいね!
§ § §
それからは大変だった、伯爵夫人は私と同じようにびっくりして「貴女一人ではいかせられない!」などと言って反対していたが、伯爵が伯爵夫人に何事かを囁くと、急に意見を変えて「ローズと一緒ならば……」と一転して賛成し始めた。
……伯爵は何を言ったんだろう……なんか怖い。
そして準備!
入門するための費用だけでなく、在籍中にギルドが請求する費用については全額マクルーア準男爵が負担するみたいだけど、生活費については当然伯爵家の負担だ。
また全寮制の為、身の回りの事は全て自分で出来ないといけない。
伯爵家の品格に相応しい衣装や、荷物の準備に四苦八苦だ。
と言っても、私は主に視ているだけだったけど。
ローズも久しぶりに侯爵家へ帰り、準備している。
マクルーア準男爵は、勿論侯爵家の方にも話を通してあったらしく、ローズも問題なく侯爵の許可がおりたようだ。
そんなこんなの日々が過ぎ、いよいよ私が王立魔術師ギルドへと旅立つ日がやってくる。
私はこの日の為に新調した黒を基調とした服に体躯を包み、馬車へと向かった。
視送りに来てくれたのは伯爵、伯爵夫人と二人の姉、そして使用人がほぼ総出だ!
「シビル、くれぐれも体躯には気を付けて。もし嫌になったら、いつでも戻ってきて良いのですよ」
「はい、伯爵夫人。体躯には気を付けます」
「向こうにはローズもいるからそれほど心配はしてないが、体躯には気を付けなさい」
「はい、伯爵、気を付けます」
「王都に行くことがあれば私達も貌を出すわ。元気でね」
「いってらっしゃい、シビル」
「はい、メアリーお姉様、イーディスお姉様もお元気で、お待ちしております」
こうして私は家族に視送られながら旅立ったのだった。




