11 マクミラン家の誕生会
登場人物紹介
シビル・マクミラン……主人公。マクミラン伯爵の三女。十歳。
ローズ・コーンウェル……主人公の親戚。コーンウェル侯爵の娘。十二歳。
マクミラン伯爵……主人公の父親。
メアリー・マクミラン……主人公の姉。マクミラン伯爵の長女。二十一歳。
イーディス・マクミラン……主人公の姉。マクミラン伯爵の次女。二十歳。
ジェームズ・マクミラン……主人公の親戚。現在の所、伯爵の跡継ぎ。
パトリック・マクミラン……主人公の親戚。ジェームズの息子。メアリーの婚約者。
アール公爵……メアリーの事が好き。
イブリン・ヘルソン……ヘルソン子爵の跡継ぎ。王宮に出仕している。メアリーの事が好き。
チャールズ・ブランドル……イブリンの知り合い。平民。
§ § §
今日は伯爵の誕生会!
当然招待客もいっぱい!
親族のみならず、伯爵と関連の深い貴族ばかりか、関連は薄いが伯爵家と縁を繋ぎたい貴族までそれは大勢来る。
その準備に伯爵家ではここ数日の間、てんやわんやとしていた。
とは言え、私は特に何か特別な準備をしたわけじゃないけれど。
「ローズあれは誰?」
「ん、どれ?」
「ほら、メアリーと話してる」
「あ……、あれはアール公爵よ」
「公爵?ふーん」
「アール公爵もメアリーに夢中みたいね」
「そうなの?でもメアリーは婚約者が……」
そうなのだ、メアリーには婚約者がいる。
親戚のパトリック・マクミランだ。
パトリックの父である。ジェームズは伯爵の従兄弟で、現在の所、伯爵に何かあったら、次の伯爵になる人だ。
メアリーを嫁がせれば、メアリーの生んだ男の子が次代の伯爵を継承するので、結果的に伯爵の血を引くものが伯爵になる事ができる。
また、残された私達も無碍な扱いはされないだろうとの憶測が働いているのだろう。
「うーん、でもこういったらなんだけどメアリーはこの婚約には乗り気じゃないみたいよ。ホラ、向こうから来る人、あの人もメアリーのこと好きみたいだし」
「あれは……」
あれは知ってる、館で何度も視かけた事あるしね。
「イブリン・ヘルソン……」
「おっと、パトリックも来たわね!メアリーをめぐる男達。さてさて、視物よ~」
ローズはクスクスを笑いながらメアリー達の様子を遠巻きに視ている。
傍目からでも剣呑な雰囲気を視て取れる。
「おっと!ここでイーディスの割り込み?いよいよ面白くなってきたわ!」
次女のイーディスお姉様は何かというとメアリーお姉様と張り合っていて、口を開くたびに衝突が絶えない。
普段は伯爵や伯爵夫人が騒ぎが大きくなる前に停めているのだけれど。
案の定、二人は男達をそっちのけで口論を始め、その声が徐々に大きくなり、他の招待客も注目し始める。
と、そこへ伯爵夫人を連れた伯爵が止めにはいり、そして二人はプイっと別々に何処かへ立ち去ってしまった。
男達は勿論置いてきぼりだ。
「残念!終わっちゃった。あの二人は相変わらずねぇ~」
クスクスと笑いながらローズは言う。
「いつもそうだよね、なんであの二人は仲が悪いんだろう?」
「さぁ?シビルが分からないのに私が分かるわけないでしょ」
それもそうだね、などどローズと話していると、突然男の人から声を掛けられた。
「これは、レディ・ローズ、そしてレディ・シビル、久しぶりだね」
「貴方は…!」
「忘れてしまったかな?チャールズ・ブランドルだよ」
「いえ、忘れてはいません……。伯爵の誕生会にようこそ、チャールズ様」
「チャールズ様、ごきげんよう。お久しぶりでございます」
ローズと私はスカートの裾を両手で軽くつまみ上げると、腰と膝を曲げて挨拶をする。
「私は平民だと言っただろう?そう畏まる必要はない」
「そんなの関係ございませんわ。貴方は、私達の魔法の師匠同然ですもの。そうよね?シビル」
「はい」
私はコクコクと頷く。
「そういってくれると私もうれしいな」
「ところで……今日はどうして伯爵の誕生会に出席を?」
「イブリンの付き添いだよ、どうやら彼はメアリーにご執心でね」
と、言って彼は軽く肩を窄めた。
私達はハハハと苦笑いする。
「ところで君たち、魔法の鍛錬は欠かさずやっていたかな?」
「勿論です。私達の成長を視たら、チャールズ様もきっとびっくりなさるわ」
「ほぅ~。レディ・ローズ、それは楽しみだね。それでは君たちの師匠として拝見させてもらうかな」
私達は誕生会をコッソリと抜け出すと、いつも魔法の練習をしている庭園の建物へと場所を移す。
「では、早速視せてもらおうかな」
私達はコクンと頷いた。
§ § §
「ほぅ……。まさかここまでとは……」
一通り私達の魔法を視た彼は軽く驚いているようだった。
「同時に使える数もシビルは三つか」
と、感心したように目を細めると「これは教えがいがあるという物だな」と小さく呟く。
「二人は騎獣という物を知っているかな?」
「騎獣?いえ……」
二人して首を振る。
彼は懐から拳ほどの大きさになる茶色のクリスタルを取り出した。
「これは大地のクリスタル、という物だ。これに魔力を与える事によって、騎乗できる乗り物に変化させる。……まぁ、一度視てみた方が分かりやすいか」
彼は手に持った大地のクリスタルを握り締めるとクリスタルは急激に大きさを変え、十数秒には極楽鳥と言われる大鳥へと変化を遂げた。
そしてそれにさっそうと飛び乗る。
「こんな感じだ。次は君たちの番だな」