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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
ニューゲーム編 その2
94/126

戦士の兜


 明くる日の朝。

 長屋の床板を剥ぎ、床下から引っ張り出した装備品を見繕う。これから駆け出しどもに混ざって小鬼(ゴブリン)狩りに行くのだ。


「アーウィア、支度はできたか」

「うっス、完了っス。どうです? おかしくないですかね?」

「どれ、見てやろう」


 傍らの小娘を眺める。

 真紅の長衣を身に纏い、その上から革鎧を着込んでいる。耳当ての付いた革の兜を被り、腰には二本の鉈を差す。そして兎面で顔を覆ったアーウィアだ。

 どこに出しても恥ずかしくないレベルの不審者である。


「うむ、少しくらい素っ頓狂な格好をしているくらいでちょうどいい。合格だ」

「そっスか。それだとカナタさんは地味すぎませんか?」

 兎面のちっちゃい蛮族みたいなのが首を傾げる。少々不気味だ。


「俺は情報収集が任務だからな。地味でいいんだ」

「ふむん、そういうもんスか」


 俺の方は一般的な駆け出し冒険者スタイルだ。革鎧に革の兜、片手剣に円盾。顔は面頬で覆っている。どちらかといえば不審者、という程度だ。


「よし、準備はいいな。では出かけるとするか、戦士アーウィン」

「うっス。一仕事してきますか、戦士カナッサン」


 あちこちで変装をしているせいで、着回しに苦労している俺たちである。社会人になってから私服を着る機会が激減した人みたいな感じだ。部屋着とスーツの中間がごっそり抜けているのだ。休日の買い物はいつも同じ服である。





「これからは『探索者ギルド』だぜ!」

「小鬼の耳を持っていけば、あっちのギルドより高く買い取ってくれるんだよ。銀貨一枚と銅貨二枚だ」


 北門前にたむろしていた若者たちは語る。これから小鬼狩りに向かう、駆け出しの冒険者どもだ。うちのギルドが初心者セットとして売りつけた革装備に片手剣。まだ稼ぎが少ないのか、本格的な装備は買えていないようだ。


「そうなのか。それは確かにお得だな」

 世間話感覚で相槌を打つニンジャである。例によって潜入捜査だ。


「まぁお前らは気にしなくていいぜ。その辺は慣れてるやつが面倒を見てやっからよ」

「ここに集まれば俺たちの(リーダー)が指揮をしてくれるしな。言われるとおりに小鬼と戦えば問題ないさ」


 すでに一連の仕組みが出来上がっているようだ。長期休暇の学生を当てにしたリゾート施設のアルバイトみたいな雰囲気だ。スキー場とか海の家とかである。おそらくオロフが裏で手を回しているのだろう。


「なるほど、色々と教えてもらえて助かる。俺とアーウィンも小鬼との戦闘は経験済みだ。よろしく頼む」

「わたしらがいりゃ小鬼なんざ物の数じゃねーっス。楽させてやるっスよ」

 アーウィアは偉そうに腰の鉈を叩いてみせる。迷宮の魔物から剥ぎ取ってきたやつだ。いい感じに使い込まれた雰囲気がある。


「ははっ、せいぜい期待させてもらうさ。出発だ、遅れるなよ」

 ふてぶてしい新入りの態度に先輩方は苦笑いを浮かべる。人当たりのいい連中だ。前からの冒険者どもに比べてコミュ力が高い印象を受ける。世代の違いだろう。


 ぞろぞろと動き出した十数名の集団に混ざって北門をくぐる。勤務開始である。


「おい、先頭にいる男が見えるか。あれが(リーダー)のステランだよ」


 先輩一号の言葉に、集団の行く手を見る。例のステラン坊主だ。あいつが若手グループの中心人物だという話は本当らしい。バイトリーダー様だ。きっと他のバイトより時給が三十円くらい高いのだろう。


「ふむ、落ち着いた感じだな。頼もしいではないか」

「そっスか? 無理してんじゃないっスかね。あんま強そうには見えんス」


 好き勝手に品評しながら戦士もどき二人は集団後方を歩く。小川に架かった丸太橋を渡り、オズロー北の丘陵地帯をひよっこ部隊は進む。


「ところでお前ら、その格好は何だ? 流行ってんのか?」


 隣を行く先輩二号から疑問の声が投げかけられた。問い返すまでもなく、俺とアーウィアの仮面についてであろう。明らかに不審だ。それでも打ち解けるまでは訊くのを遠慮していたのだろう。古参連中が持ち合わせていない、デリカシーとかいうやつだ。


「俺達は兄妹でな。頭をしっかり守れというのが祖父の教えなんだ」

「うっス、爺ちゃんは頭を打って死にかけたんス」

「――そっか、大変だったな爺さん」


 こんな適当な言い訳が通用するのだ。純朴な青年である。


「じゃあ、あそこにいる女もお前らの身内か?」


 先輩一号の指差す先に目を向ける。

 茶筒みたいな鉄兜を被った、町娘風の女がいた。異様な風体だ。


「ああ……うちの従姉妹がこの街で冒険者になったと聞いていた」

「わたしらの伯母んとこの二番目の娘っス」

「きっとアレだな。すまん、少し挨拶をしてくる」

「子供のころ会って以来っス。懐かしいっスな、カナッサン」


 困惑顔の先輩ズに断って茶筒女の方へ向かう。




「そうですよ。わたしが耳の買い取り役でしたし。壺いっぱいに溜まったらギルドに持っていくんですよ。そっちで両耳揃いで銀貨一枚にするんです」


 茶筒女こと女給である。我らが冒険者ギルドおよび商売敵の『探索者ギルド』でギルド嬢を掛け持ちしている裏切り者だ。今回はこいつも潜入させている。さっそく耳の買い取り額について事実確認だ。


「あの時の壺か」

 クアント僧院から攫ってくる時に女給が抱えていた壺だ。

「それですねぇ」

 茶筒はゆっくりと頷く。頭が重いのだろう。円筒形に形成された鉄板に、細い横長の覗き穴が穿たれている。鉄兜の中でも重装な部類だ。


「っていうか、この格好はなんスか。戦闘を舐めてんスか」

 アーウィアは鉈の峰で茶筒をばっかんばっかん叩く。同行の冒険者たちが何事かと振り返った。

「やめろアーウィン、目立っている」

「今さらな気もするっスけど」


 茶筒はあわあわと盆踊りみたいな動きで慌てている。視界が狭いので何が起こったのか理解できていないのだろう。茶筒の神を降臨させようとする悪の茶筒神官みたいな感じだ。禍々しい光景である。


「で、どうしたその格好は。好きな装備を持っていけと言っただろうに」

 床下の余り物を貸し出してやったのだ。この女は冒険者ではない。万が一のことを考えると、防具だけは支給してやらねばなるまい。


「持っていきましたよ、頑丈そうなのを一式。でもどうやって着るのかわかんなかったんです。それに重すぎて、いざって時に逃げられないって気付いたんです。仕方ないんで兜だけ被ってきました」

 茶筒は偉そうに胸を張り、そのまま後ろにひっくり返りそうになった。アーウィアに身体を支えられ、首だけがごきりと反り返る。自爆しているではないか。


「カナッサン、こいつアホっス」

「うむ、アホだな」


 アホなことをしている間に、そろそろ小鬼の森だ。茶筒の相手は程々にして戦闘に備えねばならん。せめて時給分は働かねばバイト仲間に申し訳ない。




「おらぁーッ! くたばれ小鬼どもーッ!」

「ふぁーッ! 誰かわたしを守ってぇーッ!」


 踏み入った森で、小鬼と冒険者入り乱れての戦闘が始まる。頭を守る謎の一族も元気に戦場を駆け回っていた。


「ふむ、鉈の振り方が無茶苦茶だな……」


 兎面の二刀遣いアーウィンはでたらめな刃筋で鉈を振り回している。叩き切るのではなく叩き潰すような扱い方だ。武器と言ったら鈍器しか知らぬ娘。あれではすぐに刃も駄目になってしまうだろう。


「あぁー! 前が見えないわッ! 誰か、だれかぁーッ!!」

 茶筒がズレて半狂乱になった女給が闇雲に走り回る。

 はた迷惑なやつだ。誰がこんな役立たずを連れてきたのだろう。


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