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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
レトロゲー編 第一章
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地上へ


「思ったより呆気なかったな」

「ばっさばっさ飛び回るだけで、いい的でしたね。蟻ンコの方がよっぽどヤバかったっス」


 迷宮の床に、大蝙蝠(ジャイアント・バット)の死骸が三つ転がっている。

 アーウィアに使ってもらった兎足(ラビッツ・フット)の効果を確認する間もなかった。


 大蝙蝠は飛行するだけあって動きもすばやく間合いも読みにくい難敵だった。しかし、奴らには相手の周囲を飛び回って威嚇する習性でもあるのだろう。飛んでいる間にアーウィアの放つ魔弾(マジック・ミサイル)で順番に撃ち落とされた。


 彼女の言う通り、小細工を弄さず直線的に向かってくる巨大蟻(ヒュージ・アント)の方が脅威として見積もりやすい。

 しかし、もし一斉に襲いかかってきたのなら、飛行する大蝙蝠をすべて回避するのは難しいだろう。


 そういった戦力分析をしながら、俺たちは消費した分の巻物(スクロール)の受け渡しをする。

「残り6本っスね。もう一戦ってとこですか?」

「そうだな。それが終わったら地上に戻る」

「うっス。お日様の光が恋しいっスね。さくっと片付けて引き上げましょう。あ、いや、もちろん気は抜いてないっスよ! こういう台詞を吐いた奴から死んでいくってのは定番スからね!」


 アーウィアは余計な死亡フラグを立てたり引っ込めたりしている。

 こういうところが、このヘッポコ娘がヘッポコたる所以(ゆえん)だ。




 アーウィアの言葉が厄を呼んだわけではないと信じたい。探索を再開した俺たちは、巨大蟻(ヒュージ・アント)と出会い頭に遭遇してしまった。


「気付かれた! 蟻三体、打って出るぞ!」

 咄嗟に手前にいる蟻へと走る。触角をかすめるように飛び込み、敵中に躍り出る。小刻みに三体との間合いをはかり注意を引きつける。

 突っ込んできた一体を横っ飛びに躱し、吐き出された蟻酸を身を捻って避け、掴みかかろうとする脚を転がって回避。


「あっぶ、おぁ、ま、『マジック・ミサイル』!!」

 泡を食っていたアーウィアが何とか立て直し、魔弾を放って一体を吹き飛ばす。

「よし、残り二体! 落ち着いて始末するぞ!」

 腰から抜いた巻物を取り落とし、あわあわしているアーウィアに一声かけて蟻たちの相手に戻る。


 何だかんだ言ったところで、敵を倒せるのは彼女だけだ。

 アイツが魔弾を撃つたびに、俺たちの寿命が伸びる。

 俺はそのために、ひたすら時間を稼ぐのみだ。


「うッス、『マジック・ミサイル』!」

 白い魔力の塊が、巨大蟻を射抜く。

 これで残り一体。最後まで油断はしない。余計な軽口は死亡フラグの元だ。



 俺は敵の攻撃を回避し続け、最後の蟻が魔弾に倒れたのを見届ける。

 すべての敵が息絶え、危険が去ったことを確認して、一呼吸と共に張り詰めていた力を抜く。

 無傷で済んだのは偶然によるものだ。いや、アーウィアの魔法がまだ残っていたのか?


 レベル1ニンジャの探知能力だとこういった偶発的な戦闘も起こりうる。

 第一層といえど、突然の死は俺たちの身近なところに存在するのだ。

 きわどい戦いであったが、いい経験になった。





「はぁ、やっとこ地上に帰ってこれたっスね」

 巨大蟻に勝利した俺たちは無事に迷宮を抜け出した。

 長い冒険のようにも感じるが、実際にはどこかのヘッポコ司教が『冒険者の酒場』で酒を二、三杯ひっかけるくらいの時間しか経っていない。


「少々危ないところもあったが、及第点は取れただろう」

「厳しいっスねー。わたしとしては満点っスよ。二人で苦難を乗り越えて掴んだ勝利って感じっス」

 アーウィアは晴れやかな笑顔で応じる。この娘がこんなにも素直に笑っているのは、出会ったとき以来かもしれない。


「この調子だと、考えていたよりレベルアップは近いかもな」

「うっふー、そっスねー。明日もこの調子でがんばりましょう! 目指せレベル2っス」

「ははっ、何を言っている、まだ始まったばかりだ。『商店』で補充を済ませて迷宮に戻るぞ。時間が惜しい」

 俺たちは、あははうふふと笑い合う。


「は?」

「だから、使った巻物を買い足して戻ってくる。まだ日は高い。あと二回は迷宮に入れるだろう。できれば今日中に第二層を下見しておきたい」

「……マジっスか?」

「マジだ。走るぞアーウィア、遅れるなよ」

 俺は一足先に、『商店』目指して丘を駆け下りる。


「ま、待ってくださいよカナタさん! ああもう、やっぱ展開はえーっス!」





『商店』へ舞い戻った俺の姿を見て、店の小僧が椅子を蹴って立ち上がった。

「旦那、お早いお帰りで! 巻物ですか!?」

「ああ、用意はできているか?」

「すぐに!」


 若造は束ねた巻物を二つカウンターに並べる。俺に遅れてアーウィアが入店してきた。犬のように舌を出して息を荒げている。


「アーウィア、手持ちの巻物を捨てろ」

「は、なんスかいきなり!」

「アイテム欄の邪魔になる。いいから捨てるんだ。あと代金1,200Gp、用意しろ」

 俺は懐に手を突っ込み、所持金から1,200Gpを掴み取って若造に渡す。

「へい旦那、魔弾6本、お代は小金貨一枚に銀貨二枚、間違いないです!」


 支払いを終えて巻物の束を受け取る。

 アーウィアはベルトの巻物と腰に吊った革袋を交互に触りながらおろおろしていた。

「待ってください、わたし二つのこといっぺんにできないタイプの人間ス!」

「もういい、じっとしていろ」

 買ったばかりの巻物を3本捨て、残りを彼女のズタ袋に押し込んだ。


「旦那、治癒薬(ポーション)は?」

「いらん。残りの代金だ」

「へい、魔弾6本、小金貨一枚に銀貨二枚、頂戴しました!」

 新たに巻物の束を受け取って懐に突っ込む。これで二人とも、アイテム欄は満杯だ。


「よし、次の分も用意しておいてくれ。戻るぞアーウィア」

「だから、はえーんスよ! 何なんスかこれ!?」



 用を済ませたので、わめく小娘の背中を押して店を出る。

「いってらっしゃいませ旦那! お気をつけて!」

 笑顔の若造が床に捨てられた巻物を拾い集めていた。


「走れアーウィア、この行き帰りにかかった時間を参考記録にする。気合を見せろ!」

「あーもう、わかったっスよ! 走りゃいいんスね、走れば!!」

 駆け足で迷宮入口までの道を戻る。今度は上り坂だ。





 最後には丘の途中でへこたれたアーウィアの手を引いて、俺たちは迷宮入口へと戻ってきた。

 全力を出しすぎて疲労困憊どころか、ぼろ毛布みたいな状態になったアーウィアを休ませる。

 この様子だと、やはり買い出しにかかる時間が問題になりそうだ。


 『商店』の小僧はうまく対応できている。指定した消耗品を一定数まとめ買いをする代わりに、事前の用意と最優先の対応を約束させた。先の取引をした際に取り付けた条件だ。捨てたアイテムは『商店』の方で好きにしろと言ってある。

 問題はへなちょこ司教の体力だ。なんとか時間を短縮できないものか。


「レベルアップで体力値が底上げされることを祈るしかないか」


「……ぉぉぉ……、しばらく、酒は控えるっス……」

 ぼろ毛布が喋った。


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