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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
ニューゲーム編
82/126

職業適性


「ねえ、ああうあさん。さっきの魔法って?」

「うむ、拙者の村には魔術の心得がある老人がいたのだ。ガチョウを育てる傍ら、その老人の元へ通って教えを受けたのでござる」


 小鬼(ゴブリン)の耳など切り取りつつ、身の上話に花を咲かせる新人たちである。


「大したもんだよなぁ。俺たちはそんな特技なんてないし……」

「なに、ステラン殿は若い。これからでござる」


 我らがギルドは未経験者歓迎なのだ。幹部候補生募集である。まことに胡散臭い組織だ。だが実際に、冒険者になってから意外な才能が見つかることもあるのだ。うちのアーウィアなど、司教以外の大抵のことに適性がある。


「しっかし、これが冒険者の仕事なのか。村での暮らしと変わらねぇよ……」

「愚痴ってないでしっかり拾いなさいよね、ステラン!」


 耳のない小鬼が転がる森で、ステランは枯れ枝を拾っている。焚き付けにする燃料である。これがギルドから依頼された採取任務の正体だ。しょっぱい雑用仕事である。


「我らは駆け出しの冒険者、選り好みなどできぬでござる」

 ござるの奴も耳を切り終わり、村娘と一緒に枝拾いに加わる。仮面の聖女ああういあも、枯れ落ちた枝をポキポキへし折りながら採取中だ。


「かの英雄ヘグンも駆け出しのころは、こういった仕事をこなしていたのです。もちろん、このわたくしも。懐かしいものです」

 

 大嘘である。冒険者ギルドの設立はつい最近のこと。昔のヘグンがどのような仕事をしていたのかなど俺たちは知らない。若い労働力を便利にこき使うための方便だ。仮面を被って裏声で話すような女の言葉である。信じる方が悪かろう。


「そう言われると文句は言えないよな、っと。こっちはもういいぜ」

「拙者も整ってござる。パウラ殿もよろしいか?」

「わたしも積み終わったわ。行きましょう、ああういあさん」


 採取完了である。ひよっこどもの報告を受け、兎面の教官殿もうむうむと頷いている。先輩風を吹かせるのが大好きな小娘だ。この仕事は適役なのかもしれない。


「では、依頼のあった工房まで運びましょう」

 一行は背負子に枝を満載して丘を下る。今回の依頼主は窯元だ。




「おっスー、……失礼。ギルドより参りました。焚き付けの納入です」

「ほ、ご苦労さんじゃの。札を用意するで、ちと待っとれ」


 うっかり普段のノリが出かかった聖女だが、ノームの爺さんは気にしていないようだ。他の職人たちも小首を傾げる程度で、粘土をこねる作業に戻る。最近気付いたが、ノームという種族はあまり感情を表に出さないようだ。土をこねる以外のことに関心がないのかもしれない。変わった連中である。全員似たような格好でナマズのような白ヒゲを生やしている時点で、じゅうぶんに変わっているのだが。


「うわ、すっごい匂いねぇ……」

「匂いはきついけど、腹が減るなぁ」

「オズロー鳥のスープですな。ご両人は食べましたかな? 絶品でござる」


 ここでは焼き物以外にも、蝙蝠の骨を煮込んでスープを作っている。原料を秘匿できているのはノームたちの寡黙さも手伝ってのことだろう。


「ほれ、受け取れ。そこの壺は持って帰るがよかろ」

 土間を裸足でぺたぺた歩いてきて革札を手渡し、ぺたぺたと粘土の元へ戻っていく爺さんだ。なんというか、シンプルな生き方をしている御仁である。


「この革札が依頼達成の証になります。次はスープの納入です。壺を持っていきましょう。依頼元は銀の馬屋亭です」

 冒険者証と同じくギルドの紋章が入った革札だ。


 跳ねる兎を(かたど)ったオズロー冒険者ギルドの紋章。時に幸運をもたらし、時に死を運ぶというギルドの守護聖獣だ。そういう言い伝えがある、ということにしている。信じる奴が増えれば嘘も真実になるだろう。


「はやく一人前の冒険者になりたいぜ……。ん、どうしたパウラ?」

「――白い焼き物? 見たことないわねぇ」

 爺さんが足で踏みつけているのは白い粘土。かつてニンジャが無責任に持ち込んだ案件、骨粉入りの焼き物が実用化されつつあるのだ。


「あれは『オズロー焼』です。わたくしの仮面も同じものですよ」

 自慢げに兎面を指さしてみせる聖女ああういあ。なるほど立派な仮面である。ノームの爺さんが足でこね回している現場で見ると、少し別の感想も出てくるが。



 その後は宿まで壺を運び、ここでも依頼達成の革札を受け取る。一通りのお使いを終えて、ギルドで報酬の精算と相成った。依頼の完了報告と、部位の買い取りである。


「げぇ……買い取りはギルドの交易所でも受け付けています。いつもは北門と西門の近くでやっていますので……」

 小鬼の耳を持ってこられた女給ことギルド嬢は若干迷惑そうである。それはそうだろう。耳である。気持ちのいいものではない。

「耳が四体ぶんで銀貨四枚。採取と壺運びが四人で、合わせて銀貨八枚ですね」



「小金貨は手に入らなかったなぁ」

 卓を囲んで真ん中に銀貨を並べ、ささやかな精算である。逃した小鬼が二体いる。あの耳があれば、ちょうど小金貨に届いたのだ。


「バカね、四人いるから銀貨二枚ずつよ!」

 銀貨二枚で200Gp。俺とアーウィアが成金時代にブイブイいわせてたころの所持金が80万Gpだ。冒険者は個人事業主、所得格差の大きい世界である。


「いえ、耳の代金は皆さんでどうぞ」

 聖女ああういあは銀貨を一枚だけ摘み上げた。先輩風びゅーびゅーである。大皿の唐揚げを頼んで『お前も食えよ』とか言ってくれる人みたいだ。たまに餃子だったりする。こういう奢られ方が嫌いではない炒飯単品の俺である。


「よろしいのでござる?」

「あ、三人だとうまく分けられませんね。銅貨一枚だけもらっておきましょう」


 最終的に新人冒険者の日当は銀貨二枚と銅貨三枚となった。宿代と飯代で綺麗に消えてしまうような額である。馬小屋で寝れば酒代が絞り出せる感じだ。しかし現代っ子の彼らは宿を選ぶのだろう。よくわからない感覚だ。



 仕事上がりには少々早いが、本日は解散となった。

 こそこそと酒場の裏口を抜けると、おかっぱがアーウィアの着替えを持って梯子を登っていくところだった。


「……お勤めご苦労さまです、先生」

「うむ。大事はないか?」

「……はい」


 長屋でニンジャの黒装束に着替え、アーウィアの帰りを待つ。しばらく考え事などしていると、立て付けの悪い扉を開いて司教の小娘が帰宅してきた。


「うっスー。ただいまッスー」

「おかえり。ご苦労さん」


 いつもの法衣にいつもの口調。慣れ親しんだ日常である。


「新入りが一人増えたんス。なんか変なやつだったっス」

「ほう、そうか」

「あと、森で小鬼が出たっス。やっぱ新人だけで行かせるのはあぶねーっス」

「なるほどな」


 今日の報告を聞きながら、虚空に指を這わせてメニュー画面を開く。新人たちの能力を参照しつつ考える。


「さて、あの二人にはどんな職業が向いているだろうか」

「うーん、まだ何とも言えんスな。もうちょい育ててからっス」


 人並み程度に力があれば戦士にはなれる。優れた戦士になるための条件は別だが、一番なり手の多い職業になるだろう。もし能力値に秀でたところがあるのなら、できれば専門職に就いてもらいたい。


「貧しい農村の若者だ。いきなり上級職にはなれないだろう」

「そっスな。あの若造の方は戦士より斥候むきかもしれんス。性格的に若干へたれな感じっスから」

「ふむ、斥候系でしばらく鍛えてから『猟兵』(レンジャー)にするコースか?」

「それもアリっス。本人は戦士になりてーみたいっスけど」


 魔法職についてはよくわからんが、斥候系は多くても困らんだろう。敵の探知はあらゆる状況で活かせるスキルだ。いずれ迷宮に入るなら罠解除も必要になる。かつて存在した探索パーティーの人数制限もない。今は後衛も戦闘に参加する術が編み出されている。余分に斥候がいても戦力になれる時代だ。


「まぁ、しばらくは雑用をさせながら養うか」

「そっスな。適当なところで迷宮行きの連中に声かけて面倒見させるっス」


 未経験者歓迎ではあるが遊ばせておくほどの余裕はないのだ。しばらくはお使いを任せて生活費を支給する形にしよう。こうして安定した雇用を維持していくのだ。断じてタコ部屋労働のような話ではない。


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