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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
レトロゲー編 第一章
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迷宮


 ふたたび先行して曲がり角まで足音を忍ばせて進んだ。壁に張り付き、低い位置からゆっくりと覗き込む。

 大型犬ほどもある黒い外骨格の生物。腐肉喰らいの巨大蟻(ヒュージ・アント)だ。


 敵の姿を目にしても、不思議と恐怖は感じない。

 いや、それがニンジャだ。ニンジャが恐怖していいのは耳にUSBケーブルを突っ込まれたときだけだ。


(二体、突入)

 後衛にハンドサインを送り、指を折ってカウントダウンを始める。


(いくぞ!)

 合図し、飛び込む。蟻の触角が動き、俺を認識。カタカタと迷宮の床を叩く外骨格の足。

 部屋の中ほどまで駆ける。敵がこちらに向かおうとする直前、響くアーウィアの声。


「うおぉぉ!『マジック・ミサイル』ッ!!」

 ぼんやりと白く軌跡を描き、俺を追い越して魔弾が一体の蟻を破壊。


 残る一体が走り出す。

 足を止め敵を睨む。奴の口が開く。とっさに横へ転がり、吐き出された蟻酸(ぎさん)を躱す。

 かすかに白煙をあげる床。触角を振り、蟻の大顎が迫る。見切って半歩で避ける。

 間合いを開く、突進してくる巨大蟻。そろそろか、俺が大きく後ろに跳ねたとき、待ち望んだ声。


「うらぁぁぁ!『マジック・ミサイル』ぅッ!!」

 白い魔弾が、蟻の頭部を砕いて消えた。



 俺は低く構え、油断なく辺りを警戒する。衝撃を受けて転がる巨大蟻の身体。最初にやった一体は動かない、死んでいる。

 二匹目も動かなくなった。他に敵がいる様子もない。ようやく一息ついても良さそうだ。


 そこへ予想外の声がした。

「どらあぁぁ!『マジック・ミサイル』ッ!!」

 しまった、アホが暴走している。

 無駄撃ちされた魔弾がまっすぐ壁に放たれ、弾けて消えた。


「おい待て、こら、このポンコツ、やめろ! 帰ってこい!」

 なおも腰の巻物を引っ掴み、次の魔弾を撃とうとする暴走娘を取り押さえる。

「マジーックぅ! マジック・ミサーイルぅッ!! マジーック!!」

「もう終わった! アーウィア、もう終わったんだ!」



 暴れようとするので羽交い締めにして名前を呼んでいると、しばらくして抵抗が収まった。


「……うッス、もう大丈夫っス……」

 ぐったりとしているので、そのまま肩を貸してやる。アーウィアの法衣は汗でジメっていた。

「はじめて戦場に送り込まれた新兵がこうなるって話は聞いたことがあるが。まさかお前がこうなるとはなぁ」

「……っふぅ。いや、今の状況、まんまそれっスから。わたし、新兵。戦闘、未経験っスから」

「そういえばそうか、少し休憩しよう」

「うッス」



 アーウィアはしゃがみ込んで息を整えている。

 しょうもないトラブルはあったが、次からは上手くやれるだろう。

 前衛担当の俺も、いい感じに動けている。内心それなりに緊張していたのだが、上級職であるニンジャの職業補正は伊達じゃないといったところか。

 いや、慢心するのはよくない。俺はまだ駆け出しの冒険者だ。そこに転がっている巨大蟻と同じように、いつ(むくろ)となって迷宮の床に横たわるかも知れぬ身だ。

 流し見た視線の先、死骸に隠れるようにして小箱があった。


「宝箱……アイテムドロップか」

「幸先がいいっスね。開けるんスか?」

 四股を踏む力士のようなポーズでハァハァいってるアーウィアが顔を上げて問う。

「いや、やめておこう。(トラップ)の危険がある。探索を始めたばかりで出鼻をくじかれたくない」

「そっスか……いや、そっスね」

 口調も格好も相撲取りみたいになっている金髪女司教は、未練がましく宝箱を眺めている。初戦闘・初勝利の記念に持ち帰りたいのかもしれんが、俺たちにはアイテム欄の制限もある。


「ひとまず、俺たちが戦えることはわかった。巻物を補充しておこう」

 懐から巻物を3本取り出しアーウィアに手渡す。

「どうもッス。無駄遣いしないよう気を付けるっス」

 受け取った巻物をベルトに挟み直しながらアーウィアが言う。


「いや、手持ちに余裕があるなら撃ち過ぎても構わん。仕留めそこねる方が危険だ。ただし、最後の3本は気を付けて使え。迷宮を出るまでに避けられぬ戦闘があるかもしれん。その時のための命綱だ」

「……うッス……。カナタさん、なんかベテラン冒険者みたいっスね。わたしと同じレベル1だとは思えないスよ。さっきの戦闘でも、びっくりした猫みたいな勢いで跳ね回ってましたし」


 ふむ、と俺は考え込んだ。

 作戦はどこまで通用するかわからない。経験などないのに戦闘では冷静に動けている。迷宮についての知識は『冒険者の酒場』で耳にした話のつなぎ合わせだ。

 前世の俺と、ニンジャの俺。二つの記憶が混じり合ったことで、たまたま色んなことが上手く回り始めたのだ。

 この世界を外側から見せてもらった俺と、三ヶ月の間『アイテム倉庫』として(くすぶ)っていた俺。アフターサポートに奔走する女神様と、アイテムを残して第九層で散ったパーティーメンバー。隙の多いシステムを残して定年退職した白ひげ神と、変な口調のヘッポコ司教。


 今のところ、『俺自身』は何もしていない。

 説明してもわからんだろうし、うまく言葉にできそうにもない。そういった諸々に感謝をしつつ棚上げして、とりあえずドヤっておこう。


「まあ、ニンジャだからな」

「すげぇっスね、ニンジャ」




 巨大蟻を倒し、初戦を白星で飾った俺とアーウィアは迷宮探索を続ける。

 第一層中央にある十字路を進んだ先、左に入ってすぐの広間に敵の気配があった。

 俺は敵に気づかれないよう気を配りながら偵察に向かう。


大蝙蝠(ジャイアント・バット)だった。三体いる」

「うっス、どうしますか?」

「倒すぞ。念のため、退路を確認しておけ」

「そこ出て右曲がって一直線。問題ないっス。あとカナタさん、一応魔法使っときましょう」

 敵の数も増えたし用心のためと、俺に兎足(ラビッツ・フット)をかけることになった。


「本当におまじない程度の効果しかないっスけどね」

 嬉しそうにへっへと笑いながらアーウィアは呪文を唱える。そういえばこの司教の娘、自分の魔法を使うのは初めてか。

 準備を整え、合図とともに俺たちは戦闘を開始した。


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