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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
異世界 2.0b β
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邪神降臨


 反攻の拠点たる木工房では、職人たちが大騒ぎしながら作業を続けていた。


「藁が足りないぞ! どんどん持ってこい!」

「おい、紐が切れてるぞ! 手ぇ抜くんじゃねえボンクラ!」

「す、すみません親方! すぐ手直しするんで!」


 職人たちは手早く藁束を括り付けていく。熟練の手付き、さすが細工職人だ。


「ふむ、どうやら間に合いそうだな」

「あんまりゆっくりしてられんスよ。そろそろ小鬼(ゴブリン)がくるころっス」

 職人たちに混ざって藁を結んでいたアーウィアである。


「そうだな、俺たちも準備しよう。練習どおりにやるぞ」

「うっス。いくぞエルフ! かくれて麦食ってんじゃねーっス!」

 部屋の隅っこでしゃがみこんでいたルーがびくりと震えた。


「ひょっほまっへ! おみぬのんれくるわ!」

「んもぅ、いそぐっスよ!」

 若干の不安はあるが、いざ出撃だ。決着の時である。




 見晴らしのいい、開けた場所で小鬼たちを待ち受ける。ここが我らの合戦場だ。


「前衛で壁を作ンぞ! 石に備えて盾を構えとけ!」

「槍部隊! 味方の背を突かぬよう気をつけろ!」

「猟兵部隊は持ち場に付くのだ! 号令を聞き逃すでないぞ!」


 我らがギルドの誇る脳筋たちが部隊を指揮している。

 英雄ヘグンの率いる鉄壁中隊が守りを固め、派閥代表ザウランの串刺し中隊が間に合わせの槍を構え、萌え声代官ユートのお嬢さま猟兵団(レンジャーズ)が弓に矢をつがえる。



「――見えた、小鬼だ!」


 誰かが叫んだ。道の遠く向こう、薄汚い小鬼の群れが雪崩を打って押し寄せてくる。軽く百匹以上いる。道沿いに合流して巨大な群れになったのだろう。荒れ狂う濁流を思わせる勢いだ。

 小鬼どもは本来臆病だが、『小鬼群進』(ゴブリン・スウォーム)によって発生した群れは非常に好戦的だ。あれをすべて迎え討たねばならん。


「いくぞ猟兵! 先頭を狙うのだ!」

 引き絞った弓から放たれた矢の雨が、敵の先陣に降りそそぐ。相手方の切り込み隊は小鬼闘士(ゴブリン・ファイター)。矢の一本二本では倒せない。しかし何匹かは乱れ足となって後続に突き飛ばされ、そのまま踏みつけにされていく。


「抑え込むぞォ! 掴まれりゃ盾を引き剥がされる! 忘れず剣も振るえッ!」

「串刺し中隊、しっかり狙うんだ! むやみに槍を突くなよ!」

 横一列で彼我の前衛が激しくぶつかり合う。荒々しい接近戦になった。


「第二射、後方の投石部隊だ! 矢をつがえよ!」

 猟兵たちが弦を引く。弱い方の小鬼たちが投げる石も無視できない。一斉射を受けて後方の小鬼たちがバタバタと倒れた。

 遠距離戦では弓が有利。小鬼たちは投石を諦め、勢い任せに突撃してくる。



「よし、そろそろ頃合いだ。ボダイ、ニコ、頼む」

「ええ、お気をつけて。『広域守護』(マス・プロテクション)!」

「……はっ! いきます、『忍法・煙玉』ニンポ・スモークボール!」


 激しい戦闘が行われる中、自陣後方が白煙に包まれる。


(今のうちに出るぞ)

(うっス。いくぞエルフ)

(高いわ。怖いわ)


 小鬼たちは白煙を気にもしない。眼前の敵しか見えていないのだろう。

 暢気なことだ。お前らの本当の敵はここにいるというのに。

 歩を進める。白く塗りつぶされた異界から、真の恐怖が姿を見せる。



「「「 ゴザァァ――ルッ!! 」」」

 戦場に巨大な藁人形が現れた。




 藁人形の中身は俺たちだ。竹馬に乗ったニンジャが司教を肩車し、司教がエルフを肩車する。俺が歩行を担当し、アーウィアが両手を動かす係だ。


「「「ゴザァァ――ルゥッ!!」」」


 小鬼たちの視線が集まる。足元の槍兵たちが左右に分かれて道を作る。そこを悠々と藁人形こと邪神ゴザールがのし歩く。

 恐れを知らぬ小鬼たちがゴザールに石を投げる。生憎と、そんな攻撃など藁で覆われたゴザールに効くわけがない。


 邪神ゴザールは小鬼たちを眼下を望む。畏怖することを忘れた愚か者。あまつさえ、ゴザールを騙る不敬な魂だ。醜く押し寄せ、ひしめき合っている。


(一発くれてやるぞ。合わせろ、ルー)

(ええ、まかせて!)


「「ゴザァァ――ルッ!!」」

「ござっ、『炎嵐』(ファイア・ストーム)!」


 灼熱の炎が吹き荒れる。地獄から噴き出したゴザールの怒りだ。

 逃げ場のない小鬼たちを神の怒りが焼く。


(もう一発いこう。今度はもうちょっと後ろを狙うぞ)

(はい、もうちょっとうしろ。ござーる)


「「ゴザァァ――ルッ!!」」

「ござーっ、『炎嵐』(ファイア・ストーム)!」


 この地に神罰が下された。戦場には焼け焦げた小鬼の死骸が無数に転がる。炎に巻き込まれた木々が枝葉を焼き落とされ、黒く杭のように立ち並んでいた。

 小鬼たちの身体は小刻みに震え、冒険者たちは何ともいえない感じの顔をする。


「「「ゴザァールゥゥゥッ!!」」」

 邪神は禍々しく雄叫びを上げた。



 小鬼たちの威勢が急速に萎れていく。好機だ。ゴザールを崇める戦士たちが、口々にゴザールの名を叫びながら斬りかかる。

 このまま潰走かと思われた小鬼だが、戦士たちを相手にしている間に恐怖を忘れていく。やがて元の戦場に逆戻りした。


(しょせん小鬼っスな。やっぱ殴ってわからせるしかねーっス)

(ええい、仕方ない。もう一発だ、ルー)

(いいけど、そろそろ魔法の回数が切れちゃうわよ)


 三度、ゴザールの業火が敵を焼く。

 この戦闘を長引かせるわけにはいかないのだ。さっさと片付けて消火活動に移らないと、山火事にでもなったら大変だ。懸念していた魔法の使用回数も底をつく。かといって、ここでゴザールが退却などしたら二度と偉そうな顔などできない。中途半端な藁束という悪評は避けられないだろう。


(わたし、一発くらいなら『火散弾』(ファイア・スキャッタ)が撃てるっスけど)

(いや、それは駄目だ)

 アーウィアのちんけな炎ではゴザールの権威が損なわれる。


(ねえ、おなかがへってきたわ)

(もうちょっとだけ我慢してくれ)

 ここでゴザールの頭部を分離するわけにもいかんのだ。

 戦闘は膠着状態。敵の数が多すぎて押しも引きもできそうにない。




「ごっ、ゴザール!」

 ボダイの声だ。藁の隙間から足元を見ると、見慣れた坊主頭に率いられた魔法職の連中がいた。作戦にはない行動だ。何をする気だろうか。

 

『恐嚇』(コーズ・フィア)、『恐嚇』」

「『恐嚇』」

「『恐嚇』、『恐嚇』、『恐嚇』」


 敵に恐怖を与える初歩の魔法だ。いいアイデアではあるのだが、せせこましい策である。魔法をかけられた小鬼たちは落ち着かない素振りだ。効いてはいるようだが、決定打には至っていない。


(カナタさん、やべーっス。足がしびれてきたっス)

 ずっとエルフを肩車していたアーウィアだ。そろそろ限界が近づいてきている。

(くっ、もう少し我慢できんか?)

(ムリっぽいス。腕の力もぬけてきてるっス)

(ねえ、ごはんにしましょう?)


 ええい、このままでは敵前でゴザールの身体がバラバラになってしまう。


(――賭けになるが、最後の一手を打つ)

(なんでもいいんで、早めに頼みます。手も足も感覚がねーっス)

(ルーもあと少しだけ我慢しろ)

(はい、なんでもします。ごはんがたべたいです)

(アーウィア)

(はい?)

(俺は何者だ?)




 沈黙していた邪神ゴザールが目覚める。

 まるで渾身の力を振り絞るように両手をわきわきと振り、空腹にうなだれるような格好で小鬼たちに顔を向ける。

 邪神が、大きく息を吸いこんだような気がした。


「「ゴザァァ――ルッ!!」」

『忍法・火遁の術』ニンポ・カトン・フレイムッ!!」



 天を朱色に染め上げて、骸横たわる戦場に紅蓮の炎が舞い踊る。


(――何とか成功したか)

 怪しげな火焔が小鬼の群れを舐めまわす。威力は低いようだが、範囲は広く効果時間は長めのようだ。じっくり焼かれている小鬼たちは、錯乱したように炎の中を跳ね回っている。



「「「 ゴザァールゥゥゥッ!! 」」」

 小鬼の生き残りは、総崩れになって散り散りに逃げていった。



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