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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
レトロゲー編 第一章
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魔弾の巻物


「俺が決めたことだ、俺が責任を持つ。さっさと済ませてレベル上げに行くぞ」


 渋々といった様子で、アーウィアはズタ袋からアイテムを引っ張り出した。テーブルの上へ無造作に積まれていくアイテムを見て、番頭の男が『ほう、ほう』とフクロウのような声を出す。離れて立つ若造も、希少アイテムの山に熱い視線を送っていた。

 俺も懐から剣だの宝玉だの鎧だのを取り出して、アイテムの山に加えていく。


「すべて買い取ってもらいたい」

「……わたしは知らんスから。ほんと知らんスから。何かあってもわたしのせいじゃねーっスから……」


 アーウィアは青白い顔で窓の外に目を向け、ぷるぷると子犬のように震えている。

 番頭の指示で作業台が運び込まれ、新たに二人の鑑定士が呼ばれ査定をはじめた。


「次は消耗品について話をしたい」

 今後の大量購入を見据えると重要になるところだ。

 しかし、値引き交渉などしたところで、レトロゲーのシステムに拒絶される恐れがある。時間を無駄にしたくない。それ以外の部分で融通をきかせてもらえるよう話をつける。


「最後に防具を見立ててほしい。一品でいい。一番の上物を頼む」





 店員一同に見送られ、俺たちは『商店』を後にした。

「カナタさん、わたし、展開が早すぎて付いていけてねーっス……」

「安心していい、下準備はもう終わった」


 金糸銀糸の織り込まれた上質の法衣に着替えたアーウィアが、居心地悪そうにしている。白を基調とした瀟洒(しょうしゃ)な雰囲気の服だ。ズタ袋を担いだ、やさぐれ顔のヘッポコ司教にはまるで似合ってない。


「……似合っているじゃないか。強そうだ、レベル1司教には見えん」

「そっスかねぇ? そっちはぜんぜん変わりませんね」

「まあな」


 俺が購入したのは魔法の加護が付与された鎖帷子(チェイン)だ。黒装束の下に着ている。傍目には入店したときのニンジャと同じ姿にしか見えないだろう。

 どちらの防具にも、+2の修正値が付いていた。


「でもまぁ、こうやって自前の装備なんか買っちゃうとテンション上がるスね! 今からでも迷宮行っちゃいますか! って武器も仲間も足りねーっスけど」

「いや、行くぞ?」

「は?」


 準備は終わったと伝えたばかりだろうに。まだ昼を少し回ったくらいだ。最低でも、今日中には実戦を経験し、あわよくばレベル1を脱する。

 問題点を洗い出して、明日以降に繋げるためにも。俺たちには時間がないのだから。


「今から?」

「ああ」

「二人で?」

「ああ」


 しばし無言でお互いの顔を眺める。


「……カナタさん、わたし、やっぱ展開に付いてこれてねーっス……」

「気にするな。終わったら美味い酒を飲ませてやる。そのときに話をしよう。今は迷宮だ。気合を入れていくぞ」

「……マジかー」





 街の中心部から外れた、小高い丘の上に迷宮入口はあった。

 周囲は石畳で舗装されており、同じく石造りの小さな礼拝堂に似た建物がある。ここから階段を降りていけば迷宮だ。


「「防具、よし! 治癒薬(ポーション)、よし! 巻物(スクロール)、よし!」」

 俺とアーウィアは迷宮の入口でお互いの装備を確認していた。

「「ご安全に」」

 二人で礼をする。


「作戦は伝えたとおりだ。常に連携を意識して、危険を感じたら即座に撤退する」

「っていうか、危険ならもうじゅうぶん感じてるんスけど。口から心臓飛び出そうっス。逃げろってことですかね?」



 先ほどアーウィアに説明した作戦はこうだ。

 俺は前衛で探知を行いながら進み、敵の数が少なければ戦闘を仕掛ける。攻撃はアーウィアの使う魔弾の巻物スクロール・オブ・マジックミサイルに任せ、俺は敵を引き付けながら回避に専念。ニンジャの敏捷さで敵を翻弄している隙に、後衛が魔法で叩く流れだ。


 俺に求められるのは、アーウィアに敵が流れないよう食い止めることと、自分が落とされないこと。ニンジャとはいえ、しょせんレベル1だ。魔法の鎖帷子で守りは固めているが、危なくなったら治癒薬を惜しまず使い、状況によっては撤退を指示する。


 一方アーウィアの場合、巻物の手持ちを切らさないこと。俺も巻物を持っているが、魔法職ではないので使えない。これは戦闘後の補充用だ。アーウィアの手持ちの分だけで一回の戦闘を終わらせる必要がある。


「おそらく、死ぬとしたら俺が先だ。作戦通り落ち着いてやれば危険はない。任せたぞ」

「自分以外の命も乗っかってると思うと、余計に気が滅入るっス。せめて前衛メンバーだけでも揃えた方がよくないっスか?」


「いや、ニンジャのように攻撃を回避できないと治癒薬ばかり消費する。正攻法で戦っている暇はない。それに、冒険者は『武者修行』と称して少数メンバーで迷宮へ行く風習がある。おそらく経験値は分配制だろう。余計な頭数は増やしたくない」

「後半よくわからんスけど、とにかくやるしかないわけっスね。んもぅ、わたしも腹くくったっス。とりあえず一戦かまして、駄目だったら泣きながら逃げ帰りましょう!」


 半ばやけっぱちに覚悟を決め、アーウィアは腰のベルトに巻物を差し込んでいく。むかしの任侠(ヤクザ)映画で見た、腹にダイナマイトを巻いて敵事務所に飛び込む鉄砲玉のような姿だ。





 迷宮の内部は、広大な地下構造物だ。

 床も壁も天井も、四角く正確に切り出された巨石で構成されている。


 第一層は、階段から伸びた長い通路の先が十字路になっている。この幅広な『大十字路』を中心として、ほそい脇道や小部屋などが入り組んだ形状だ。

 明かりがなくとも最低限の視界は確保できる。冒険者たるもの、なぜか皆そうなっているのだ。近い内に修正されるかもしれない。


 探知スキルで周囲をうかがいながら先行する。右手の小部屋の奥、かすかに反応があった。

 子供のころ、野っぱらで虫取りをしているときに感じたバッタの気配のような感覚だ。

 俺は振り返り、アーウィアに手招きをした。

 組み合う前のプロレスラーみたいな動きで周囲を警戒していたヘッポコ司教が近寄ってくる。


「いた。この先の通路右側から小部屋に繋がっている。入って奥に少数。俺が確認するから、合図したら突入だ」

「うっス」

「最後にもう一回イメージしろ。巻物を開いて詠唱、敵が全滅するまで繰り返し、指示があったら撤退。いいな」

 アーウィアは目線を上げてぶつぶつと『巻物詠唱、巻物詠唱』と呟いていたが、やがて納得した様子でこちらに向き直った。


「うッス。行けます」

「よし」


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