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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
異世界 2.0a
68/126

制圧


「ニンジャに出逢ったのがお前の不幸だ。命が惜しくば尻尾を巻いて失せろ」


 小鬼(ゴブリン)どもの大将と思しき個体と対峙する。

 うちのアーウィアが苦戦していた相手だ。久々に腕が鳴る。


「言葉は通じんスよ。あと小鬼に尻尾はねーっス」

「わかっている。雰囲気だ」

「そういうのいらんス。さっさと倒しましょう」


 アーウィアが戦棍をぶんぶん振りながら急かしてくる。結果がすべてのビジネスマンみたいな思考だ。付き合いの悪い小娘である。自分はタイマン上等な癖に、こういうところは淡白なのだ。欲しいものを買ったらすぐ帰るタイプだろう。ぶらぶらと可愛い靴とか春物のカーディガンを見ていったりはしない人だ。


「仕方ない。すぐ済ませるから下がっていろ」

「うっス」



 弾かれたように小鬼の大将が飛び出す。

 狙いは、戦棍を下ろしたアーウィアだ。


「――見くびるな。速度でニンジャに敵うか」


 即座に小鬼の行く手に割って入る。俺たちが油断していると見たか、隙を伺っていたようだ。生憎だが、こちらも反応できるよう重心を落として身構えていた。敵を前に棒立ちになるニンジャなどいるか。



 貫手で敵の眉間を狙う。小鬼は仰け反って躱し、倒れ込むような態勢から掬い上げるように腕を伸ばす。強引に繰り出された一撃をかい潜り、側面に回り込んで蹴りを放つ。小鬼は飛び退って地面に転がる。肩口にヒットしたが、浅い。すぐさま跳ね起き、地を這うようなタックルで襲ってくる。腰を落とし、受けると見せてフェイント。頭上を飛び越え、敵の背後へと着地。再度、睨み合いの格好になった。


「ふむ、なかなか素早いな」

「べったり張り付いてくるんで厄介なんス」


 これでは後衛も迂闊に仕掛けられないだろう。弓も魔法も同士討ちになる危険がある。呪いの護符(アミュレット)に守られているアーウィアなら少々当たっても大丈夫な気はするが、流石に実行はできない。もしプスっと刺さってコロっといったら大変である。


「なるほどな。敵の力量もわかった。そろそろ仕留めるとするか」

「うっス。お願いします」


 銘刀・村沙摩(ムラサマ・ブレード)を抜き放つ。いきなり突っ込んでくるので武器を構える暇もなかったのだ。俺は居合斬りのような真似はできん。サムライではなくニンジャだからだ。だったら最初から抜いておけという話である。



 ニンジャの敏捷さに攻撃力が加わった。迷宮産の希少(レア)アイテムだ。もはや勝負の行方は明白。敵も必死に回避するが、次第に疲れが見え始める。

 集中を切らしたか、警戒を忘れた無造作な攻撃。掴みかかる小鬼の腕を切り飛ばし、捨て鉢に突進してくる身体をすれ違いざまに一刀両断。死にゆく肉体が、どさりと地面に転がった。あっけない幕切れである。





「カナタさん、はらぺこ二号は足が折れてるっス。わたしじゃ治せません。坊主に頼みましょう」

「そうか。ご苦労さん」


 負傷していた猟兵(レンジャー)『軽傷治癒』キュア・ライト・ウーンズを施したアーウィアである。ここへ来る途中で置いてきたアゴヒゲ小隊とはらぺこ小隊を回収し、無事に第三目標へ到達した。勝手知ったる窯元の工房だ。ここはルーの小隊とアーウィアにより制圧されたが、小鬼の大将に襲撃され放棄された場所だ。よって室内はお掃除済みである。


「無理に動かさねェ方がいいな。ボダイのやつを連れてこようぜ」


 土間に寝かせた二号を横目にヘグンと方針会議だ。小鬼の死体は外に運び出してある。負傷兵が落ち着けるようにという配慮と、間違って耳を切られないようにという考え過ぎが理由だ。前者はヘグン、後者はルーの発言である。


「そうだな。怪我人を連れて行くとなると運搬に人手も取られる。ここの守備を手薄にするわけにもいかん。こちらから伝令を出してボダイを派遣してもらおう。たぶんその方が早い」

「だな。伝令は誰が行くんだ?」

「脚が速いやつだな」

「だったら兄さんと姉御だな。二人で行ってきてくれ」

「おう任せろっス」


 無駄に健脚な司教様である。鉄鎧のヘグンともやしっ子のルーはともかく、猟兵を差し置いての推薦だ。こいつは一体何者なのだろう。



「――では、俺とアーウィアで臨時小隊としよう」

「あ、小隊長はカナタさん頼みます」

「何だ、あんなに小隊長をやりたがっていたのに」


 諸々を鑑みて余り物になった我ら二人である。このニンジャと司教は、単独での作戦遂行能力がやけに高いのだ。パーティーが基本の冒険者としては異端である。それを活かすには、緊急時に単独行動ができる運用にする必要があった。小隊長が抜けてしまっては部隊が機能しなくなる。

 しかしアーウィアが駄々をこねるので、仕方なくアーウィー爆裂小隊を編成したのだ。実際のところは、ルーのはらぺこ小隊に編入している状態だ。


「さっきので役目は果たしたっス。今後はニンジャ小隊のニンジャ二号っス」

「その呼び名は俺の中でカブる。別のにしよう」

「うっス。任せます」


 忠犬モードである。先ほどの戦闘も、アーウィー爆裂小隊に期待していた通りの単独行動だ。まさか敵の親玉と真正面から殴り合いをするとは想像していなかったが。山に連れて行った飼い犬が熊を撃退した話みたいだ。たまに地方ニュースとかで流れる。



「では行ってくる。ここの防衛は任せた。じきに後続の部隊もやってくるだろう」

「おう、兄さんらも気ィ付けろよ。弓がねェんだから小鬼は相手すンなよ」

「わかってるっス。さっと走っていけば大丈夫っス」


 工房を出た俺達の前に首をくねくねさせているルーがいた。悩ましげな顔で周囲を見回している。何をしているのだろう。


「ねえ、耳はどこに行ったのかしら? 見かけないんだけど」

「頭の横に付いてるっス」

「よかったな見付かって」


 頭がどうかしているエルフをスルーして、我らへっぽこ小隊は第二目標の工房へと急いだ。





「お取り込み中っスな」

「ふむ、どうやら防衛戦のようだな」


 遠目に見える第二目標では戦闘が続いていた。鍛冶職人の工房を占拠しているのは味方のようだ。小鬼の襲撃を受けているらしい。


「連中なにやってんスかね。小鬼なんて殴ればいいだけっス」

「まさかずっと戦っているわけではあるまい。たまたま少し前に小鬼が来たんだろう。向こうに着く頃には片付いているはずだ」

「うーん、矢が飛んでないみたいっスよ。もう残ってないんスかね?」

「それは困る。いや、うっすら煙が昇っているな。職人たちが仕事を始めたか」


 会話を交わしつつ、えっほえっほと悪路を駆ける。矢が尽きてしまうと猟兵の戦力が大きく低下する。小鬼の投石に対抗する手段がないのだ。街を守る衛兵の分は残してきたが、それに手を付けるわけにもいかん。


「石を投げるのも上手い設定にしておくべきだったか?」

「それは欲張りすぎっス。っていうか石を投げるのが上手い職業ってなんスか」


 今ごろ鍛冶職人たちも矢じりの量産体制に入っているだろう。しかし矢じりだけあっても仕方ない。矢柄も矢羽も必要だ。魚の切り身だけあっても寿司にはならんのだ。前にこの例えをしたら『刺し身でもじゅうぶん美味い』という謎の反論をされたことがある。話をよく聞かない人に例え話で説明するのは間違いなのだ。



「到着したっス」

「まだ続いてるな。終わる気配がない」


 工房には後続部隊も一緒に立てこもっていたようだ。

 いくつかの窓板と扉は壊されている。室内の物を使ってバリケードが築かれていた。小鬼たちは散発的に石を投げ、たまに数体でこっそり近寄ってはバリケードを破壊しようと試みる。

 盾を構えた冒険者たちが飛び出してきて小鬼を追い払い、投石の雨を受け慌ててバリケードの中に戻っていく。泥仕合もいいとこだ。



「お、ひとり追いついたっス。小鬼と戦ってますよ。ちっちぇー戦士っスな」

「いや、あれはユートだ」


 間に合わせの革鎧に片手剣と円盾。小鬼用の装備を身に着けたお代官様である。頭に被った魔法銀(ミスリル)兜だけがキラキラと陽光を照り返していた。


「は? アレお嬢っスか? ってことは……」

「デカいのは小鬼の方だな」


 ユートの身長と比較すると、見覚えのあるサイズ感だ。間違いなかろう。またしても小鬼の大将である。


「一匹じゃなかったんスねぇ」

「親玉でもなかったな」


 偉そうな顔の平社員みたいな感じだろう。こちらが勝手に誤解しただけである。仕方がないではないか、名刺も頂戴できなかったのだ。ゴルフ焼けかと思ったら『先週田植えがあったんで』などと言われるのだ。『嫁さんの実家が田んぼやってまして』である。米には困らないのだ。


「まぁいい、助太刀に入るとしよう。さっさと片付けてボダイを窯元に派遣せねばならん」

「うっス。囲んでボコればあっという間っス」


 さあ、へっぽこ小隊出撃である。


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