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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
異世界 2.0a
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レンジャー


「アゴヒゲ小隊! 小鬼(ゴブリン)どもだ、蹴散らせッ!」

「「オッス、レンジャー!」」


 むくつけき男たちが野太い声を張り上げる。

 我らが冒険者ギルドの誇る精鋭、猟兵(レンジャー)だ。その隊名に反してヒゲは少数派である。


「小屋ン中は任せろォ! お前らは逃げるヤツをやれッ!」

「「レンジャー!」」


 ヘグンは工房の扉を蹴破って突入。屋内にいた小鬼たちに切りかかる。袈裟懸けに一体、剣を返してもう一体の脇腹を切り裂く。いち早く反応した数体が裏口から逃げ出すのが見えた。あれは猟兵どもに譲ってやろう。俺たちは屋内を掃除せねばならん。


 窓が閉ざされているので工房の中は薄暗い。部屋の隅にわだかまる闇から、小柄な人影が飛び出した。手にした薪を振りかぶる小鬼の姿だ。


「悪いが見えているぞ」


 ひと声かけて刀を振るう。敵がのろまなので四連撃まで入った。奇襲のつもりならお粗末なものだ。我らは迷宮の闇に慣れた冒険者だ。この程度の暗がりなど真昼のようなものである。


「やはり暗くて狭いところを好むのか?」

 所詮は(ゴブリン)から進化した生物だ。粘着罠でも仕掛けてやろうか。



「おう、こっちも片付いたぜ。っと、ひでェな……」


 アゴヒゲ小隊長がやってきて奇妙な顔を床に向けている。つられて足元を見ると、バラバラになった木片と小鬼っぽい何かが転がっていた。サイコロ状である。色々とよろしくない物がはみ出している。調子に乗ったニンジャがはしゃいだ結果だ。なにが四連撃か。

 

「レンジャー! 小鬼の掃討を完了、うぉッ!?」

「レンジャー! うげぇッ!?」


 猟兵たちが逃げた小鬼を倒して戻ってきた。彼らにも惨殺現場を目撃されてしまった。間の悪いミステリ小説の犯人みたいな感じだ。そして俺の手には刃物がある。かくなる上は、という状況だろうか。




「予定通り、アゴヒゲ三号はここに残れ。周囲を警戒しろ。耳の処理は後続に任せるように。俺たちは丸坊主小隊と合流する」

「オッス、レンジャー!」


 うちの身内を隊長に据え、猟兵二人を加えたのが小隊の基本構成だ。彼らが所属しているパーティーの連中を後続部隊としている。人数の都合上、余り物のニンジャはこの小隊に編入された。


「後続と一緒に職人たちもやってくる手はずだ。小さくて痩せてる奴がいても射るんじゃないぞ。遠目だとノームと小鬼は見間違う恐れがある」

「レンジャー!」



 木工職人の工房を奪還したアゴヒゲ小隊は、次の目的地へと向かう。鍛冶職人の工房だ。この二箇所は何としても押さえねばならない。矢の消費が馬鹿にならないのだ。増産が急務である。生産施設を取り戻さねばならん。


(なぁ兄さん、あの掛け声やめさせねェか? うるさくて敵わねェ)

(いや、あれにもちゃんと理由がある)

(だがよ、小鬼にも丸聞こえだぜ?)


 まだ彼らは猟兵としてはひよっこ(・・・・)である。失敗もあるだろう。それをきっかけに暗示が解けてしまうかもしれない。思い込みの力だけで、猟兵という職業になった連中である。ああやって連呼させておけば自己暗示になるだろうという考えだ。



「――敵の反応があるな。左前方の茂みだ。アゴヒゲ二号、見えるか?」

「レンジャー! えー、見えます! 小鬼が少数、レンジャー!」

「よし、俺が先行して囮になる。後手に合図をしたら射掛けてやれ」

「オッス、レンジャー!」


 猟兵化計画は上手くいった。まだまだ本職には及ばないが弓も扱えている。狙いこそ甘いが、小鬼の投石とは射程も威力も段違いだ。矢の損耗にさえ目をつむれば、屋外戦では敵なしと言っても過言ではなかろう。被検体として斥候たちを集めたので、敵探知スキルも活用できている。


 ふらふらと無警戒を装ってニンジャは前進する。距離を詰めて合図。鋭く空を切った矢が灌木の茂みを貫く。汚い悲鳴を上げながら小鬼が転がり出てきた。肩に矢を受けている。


「やはり便利なものだな、飛び道具というものは」


 小鬼は三体隠れていた。無謀にも石を投げながら向かってくる奴がいる。こちらも間合いを縮めつつ投石を回避。一閃、致命の一撃(クリティカル・ヒット)。小鬼の首を刎ねた。矢を受けて手負いの奴も一息に首を落とす。

 もう一体を探すと、一目散に丘を駆け上っていくところだ。走って追いつくのは難しいだろう。あとは猟兵の弓に任せよう。


 小鬼たちの隠れていた茂みを覗き込む。ドングリだの小枝に刺した虫だのが残されていた。こんなところで餌集めをしていたようだ。

 余計なものを見てしまった。そういうのは森の奥深くで勝手にやってくれ。こちらとて、わざわざお前らを狩りたいわけではないのだ。




「レンジャー! 第二目標の工房を確認! 丸坊主小隊が交戦中、ちびっ子小隊とお嬢さま小隊の支援を受けています! レンジャー!」

「ふむ、出遅れたようだな。過剰戦力だ。ちびっ子小隊が来ているということは、細工職人のところも確保できているな。第三目標へ進路を変更しよう。ヘグン、向こうの仲間に合図を送ってくれ」

「構わねェが、なんで俺なンだよ……」


 文句を言いながらもヘグンは友軍に向かって大きく手を振る。見張りが気付いた。ヒゲの隊長殿は手旗信号の真似事みたいな姿で合図を送る。この合図を決めたのは俺だが、正直うろ覚えなのだ。

 先方からも『了解』の合図が返ってきたようだ。たぶんそうだろう。



「第三目標の窯元を落とせば、少しはまともなメシが食える。行くぞ」

「オッス! レンジャー!」

「やっぱうるせェよ……」


 蝙蝠スープの残りを薄めて出すのも限界に近づいている。無意味に欲張って湯を入れすぎたカップスープみたいな味になってきたのだ。180ccだと言われても250ccくらい入れてしまう。わけあって食材などが秘伝のため、あの場所でしか製造できないのだ。いつもは愛想のいい飯屋の娘も、最近は後ろめたそうな顔になってしまった。


 この期に及んで魔物(モンスター)を食っているのは、正直どうかと思わないでもない。しかし食糧がほとんど流通していないのだ。悪代官が武器の禁輸を決めたせいで、行商人たちにも不人気な街になってしまったらしい。手に入るものを食うしかないのだ。





「前方に集団を発見! はらぺこ小隊です! レンジャー!」

「ルーのとこだなァ。何やってんだアイツらは」


 第三目標へと向かう俺たちの前に、友軍が姿を見せた。どうも様子がおかしい。わたわたと変な動きをしているエルフを先頭に、こちらへと引き返してきている。何かあったのだろうか。


「てったい! 総員てったーい!」


 無駄に手をくねくね振り回しながらルーが叫ぶ。やはり変な動きだ。創作ダンスでハニワを表現する人みたいな感じである。技術は拙いがテーマをよく理解している振り付けだ。



「どうしたルー、何があった!」

「あっ、カナタ!」


 ハニダンスが慌てて駆け寄ってくる。はらぺこ二号は三号の肩を借りて歩いている。どうやら負傷者が出てしまったようだ。


「たいへんよ! 強い小鬼が出たの!」

「ほう、例の『小鬼君主(ゴブリン・ロード)』か?」


 小鬼どもを率いているという噂のボスキャラだ。目撃情報が極めて少ないため、存在が疑問視されていた奴である。


「すっごく素早いの! まだ、アーウィー爆裂小隊が足止めに残ってるわ!」

「――何だと!」


 ルーとの会話を放り捨て、俺は走り出した。

 アーウィー爆裂小隊の構成員はアーウィア一人である。撤退の殿を司教一人で引き受けたのだ。何をやっているんだアイツは。





「ぐるぁぁーッ!! 勝負せぇやコラァー!」

「ゥゴァァーッ! ゴッヴァァーッ!!」


 駆けつけた先では、二匹の獣が睨み合って咆吼を上げていた。



「待たせたなアーウィア!」


 鉄火場にニンジャが飛び込む。闖入者の姿を目にし、司教ではない方の獣が一歩下がった。小鬼にしては随分と大柄な奴だ。中鬼くらいはありそうだ。普通の奴がお猿だとしたら、チンパンジーくらいだろうか。


「うっス。はやかったですね」


 司教の方の獣は、白い法衣を土や返り血で汚している。激しい戦闘があったのだろう。その割には元気そうで何よりだ。


「強いのかコイツは」

「すばしっけーっス。あと腕を振り回すんで、掴まれないよう気を付けてください。けっこう力があるっス」

「わかった」


 アーウィアがこう言うなら、なかなかの強敵であろう。

 この司教は、迷宮六層の黒牙狼(バーゲスト)でさえ一人で叩き殺すのだ。


 それもどうかと思う俺である。


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カナタとアーウィアの関係好き過ぎる
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