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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
異世界 2.0
61/126

小鬼の集落


「どうして、こうなったのだ……」


 我らがオズローの街は大変なことになってしまった。

 ご近所に『小鬼君主(ゴブリン・ロード)』が誕生したのだ。



「二本足で立ってるっスな。まさかゴブリンどもが、あんな風に成長するとは思わんかったっス。腕も二本減ってますね」

 アーウィアは額に手をかざし、遠目に敵を観察している。


「俺ァ聞いたことはあるが、おとぎ話の類だと思ってたぜ……」

「『小鬼(ゴブリン)』というのは、本当にあんな姿をするのですね……」


 街の北門から眺める先、工房の点在する丘陵一帯は小鬼たちに占拠されてしまっていた。

 今朝方、仕事場へ向かおうとした職人の一人が第一発見者である。弁当に持っていたパンを投げて注意を逸らし、その隙に走って逃げてきたという。

 毛皮を羽織った偉そうな個体が小鬼の群れを率いていたそうだ。



「――虫ではなかったのか」

「虫っスよ。でもおとぎ話の中じゃ、あんな感じらしいっス」


 小柄な醜い人型の姿である。まさに誰もが思い描く方のゴブリンだ。てっきりこの世界では例の虫をたまたま同じ名で呼んでいるのかと思っていた。その場のノリで会話を合わせたことが裏目に出たか。



 急遽、衛兵の手によって小川に架かっていた丸太橋は落とされ、街の壁が補強されることとなった。非常事態である。


 話を聞きつけた鼻高斥候のヘンリクが長屋に駆け込んできたので、冒険者たちを北門に緊急招集する運びとなった。冒険者ギルド初の大規模作戦であるが、新人たちは町内会の草刈りくらいの感覚で集まっている。連絡網がないので話がうまく伝わっていないのだ。



「――すみません旦那、例の肉が減ってます。おそらくは……」

「――言うな。聞いてしまっては責任問題になる」



 数日前に迷宮から持ち出した悪魔の肉。

 ディッジ小僧の厳重な管理下に置かれていたのだが、それはあくまで人間相手の話である。動物くらいなら警戒しただろうが、小さな虫などにまでは気を配っていなかったようだ。囓られたのか持っていかれたのか、在庫が減っているらしい。衛生管理ができていなかったのだ。



「あの変な生き物がゴブリンなの? 角とか生えてるわよ? だれか悪魔の肉でも食べさせたのかしら」

「……なぜ、そういう話になるのですか?」

「濃い瘴気は魔物(モンスター)を生むもの。この辺だと迷宮の深い場所とかよね。悪魔なんかだと瘴気の塊みたいなものよ」

「……貴方、知って……。いえ、誰にも言っては駄目ですよ」


 何やらエルフとドワーフが気になる話をしているが、本件とは無関係である。

 あくまで我々冒険者たちは、拠点を置いている街を守ろうと善意で集まっているだけなのだ。義理と人情だけが行動原理である。そういう話になっているのだ。




「冒険者ボダイ! 冒険者ボダイはどこだ!?」

「――はて、なんでしょうか?」


 でかい声で怒鳴ってる奴がいるので全員で振り返る。街の中心部から衛兵たちの一団がこちらに向かってきていた。馬に乗った板金鎧のお貴族様もいらっしゃる。

 ユートの鎧姿は久しぶりだ。事態を重く見た代官直々のご出馬である。


「おっス、お嬢。おせーっスな」

「すでに我々冒険者ギルドも対応に当たっている。何か用か?」


 ボダイを背中に隠しつつ一歩前に出る。

 まだこの男は自分がギルド代表だと知らされていないのだ。余計なことを吹き込んで欲しくない。





「――ではカナタ、原因に心当たりはないのだな?」

「まったく。アーウィアあるか?」

「ねーっスな。ぜんぜん知らんス」


 馬上のお綺麗な顔に詰問されている俺たちである。一段上からものを言うとは失礼な奴だ。さすがに竹馬は持ってきていないので対抗手段がない。アーウィアを肩車してやろうか。何を聞かれようと知らぬ存ぜぬの一点張りだ。


「むぅ、何もないところから小鬼が湧くとは思えんのだ。自然に湧いたとすると、むしろそちらの方が問題ではないか」


 ユートは疑いの眼差しである。最近、妙な暗躍ばかりしていたので悪い噂が耳に届いているらしい。根も葉もない噂話だ。まことに心外である。


「――おそらく最近の異変が原因だろう。この街に封じられていた迷宮の瘴気が、あの丘に吹き溜まったのではないか?」

「そっスな。きっとそんなところっス」


「むぅ、そうとでも考えるしかないか。とにかく小鬼どもを何とかするのだ。冒険者の方ではどこまで調べは付いているのだ?」


 あっさり納得してしまうユートである。

 いや、そのくらいおかしな街ではあったのだ。


「現在ギルドより派遣されたパーティーが一組、情報収集の任に当たっている。そろそろ戻ってくる頃だろう」


 前衛派閥代表のザウランが率いるメンバーたちである。ギルドのために快く偵察隊を引き受けてくれた。『無理ならヘグンに頼む』と連呼したのが効いたようだ。負けず嫌いな男である。

 斥候のヘンリクも臨時メンバーとして参加してもらった。万が一の場合に情報を持ち帰る役目である。こちらは普通にカネで雇ったアルバイトだ。





「森の中に小鬼どもの集落があるみたいだ。奴らドングリだの虫だのを拾い集めてる」


 パン屋の軒先を借りて対策本部を設置した。偵察から帰還したヘンリクを加え、小鬼の討伐作戦会議である。


「餌だろうな。あれだけ身体が大きくなったのだ。食い扶持を賄うのも大変だろう」

「この街の連中と大差ねーっスな。放っておきゃいいっス。どうせ餌が足りずに勝手に飢え死にしますよ」


 こっちはこっちで台所事情は苦しいのだ。『お互い大変ですね』といった感じである。他人のことにあれこれ言っている暇などない。虫やドングリなどドワーフくらいしか食わないのだ。好きにすればいい。


「そうはいかんのだ。あの森だってうちの領地だぞ。ドングリを食い尽くされると街の豚に食わせる餌が足りなくなるのだ」

 小鬼とドワーフだけでなく豚まで参戦してきた。意外と大人気なドングリである。


「それに腹が減りゃ街を襲いにくるぜ。大して強かねェが、食い物を盗まれると飢え死にするのは俺たちだ」

「やはり退治せねばなりません。冒険者を動かしましょう」


 ギルド代表が結論じみた発言をしたせいで方針は決定してしまった。代表として自覚がない癖に、自覚があるような発言をするボダイである。


「ヘンリク、小鬼どもの数はどの程度だ?」

「ざっと百匹から二百くらいだな」

「ならば一体辺り銀貨一枚の討伐報酬を出すか。ディッジは天幕(テント)を設営しろ。早いところ片付けてしまおう」


 せいぜい20,000Gpで何とかなるなら安いものだ。ギルドとしては大赤字であるが、俺たち自身でも狩れば何割か出費を減らせるだろう。


「手配します。旦那、買い取り部位はどうしますか?」

「使えそうな部位はないな。耳とかで構わんだろう。そうだな、両耳揃いで銀貨一枚としよう」


 文字すら読めない者が多い冒険者たちである。右だの左だの指定したところで混乱を招くだけだろう。ならば両耳だ。応募券を集めると素敵なプレゼントが手に入る感覚である。トートバッグか何かであろう。


「えっ、耳を……切るの……? あ、悪魔ッ!?」

 ルーが両耳を握ってガクガク震えている。

「……その耳はいりません。おカネにならないです」



「私も出るぞ。衛兵たちには街の守備を任せよう」

「そうか。お前なら一人でも大丈夫だろう。頑張れよ」

 ちょっと意地悪をしてみるとユートが情けない顔になった。


「仕方ねーっス、お嬢も連れてってやるっス。終わったら一杯付き合え」

 お優しい司教様のお言葉に、ユートが嬉しそうな顔をした。

 ちょろい奴である。


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