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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
異世界 2.0
59/126

行進


「ヘグンとボダイはそのデカいのを持っていってくれ。ルーはそこの皮だ。残りは俺たちで何とかする」


 昇降機(エレベータ)で第一層まで戻り、仕留めた悪魔を引きずって地上を目指す。

 一戦しかしていないが大荷物である。初めての獲物なので利用できる部位が不明なのだ。とりあえず色々と持ち帰って調べてみるしかない。


「おォよ、しかしルーはいつまで歌ってんだァ?」

「新人冒険者たちに注目されていますね。目立っていますよ」


 エルフの歌声を聞きつけて、大十字路の脇道から駆け出しどもが顔を覗かせている。


「放っておけ。害はないからいいではないか」

「どうせ歌をやめても変なことしか言わんス。楽しそうだから構わんスよ」

「……気の抜ける歌声です。もう少し練習させましょう」


 嘘である。これは宣伝活動の一環だ。

 英雄ヘグンとギルド代表ボダイの実力を広く知らしめるための祝勝パレードだ。我らがギルドには事務所もなければ公式サイトもない。こうやって地道にアピールしていかないと冒険者たちの支持を得ることなど出来ないのだ。


 今夜の酒場ではこの話題で盛り上がるであろう。禍々しい悪魔の巨体を引きずって英雄たちが深層から帰還したのだ。見た目のインパクトはじゅうぶんだ。



「ららら~、英雄の剣に~切り裂かれた魔神が~なんとか~」


 悪魔の生皮を抱えて歌い歩くエルフである。事情さえ知らなければ、どことなく花魁道中みたいな雰囲気がないでもない。傘とか提灯とかを持って後ろを歩いてやればだいたい同じ感じになるだろう。木箱を持ってエルフの後を歩くおかっぱドワーフもお稚児さんみたいだ。箱の中身は悪魔の角や牙である。

 そんな風に思えばこの奇妙な歌声も、歌舞伎の口上か何かみたいで味がある。


「歌詞がうろ覚えなのに、よくもまあ自信満々で歌えるものだな」

「歌っているとこも、ちょくちょく間違えてるっス」


 地上への階段が大変であった。ただでさえ持って上がるのが重労働なことに加え、下手に手伝おうとすると自分が持ってきた方の魔物(モンスター)が消えてしまう。迷宮内に置いた荷物は離れると勝手に消滅するのだ。

 荷物番にニコを残し、全員がかりで一体ずつ搬出していく。地上に持ち出してしまえば放置しても消えることはない。勝手に持っていく奴はいるかもしれんが、この巨体を抱えて逃げ切れる奴はいないだろう。もしいたら運搬専門で雇いたいくらいだ。




「おゥ悪りぃ、通してくれ!」

 冒険者たちの注目を集めつつ、血なまぐさいエルフ道中は丘を下る。

 大きな悪魔を二体も引きずって歩けば嫌でも目立つ。おまけに歌までうたっているのだ。


 駆け出しも熟練パーティーも皆、初めて目にする魔物に興味津々である。面白がって俺たちの後をついてくる奴もいる。だんだん人数が増えて本格的なパレードになってきた。一緒になって歌っている奴もいる。


「ディッジ、どこだ! こいつを頼む!」

「あ、どうも旦……凄いのを持ってきましたね……」


 交易所へ着いた頃にはお祭り騒ぎである。マグロ漁船の水揚げに集まった見物客みたいな有様だ。街は不景気だというのに暇な連中である。



 物見客がうるさいので表に悪魔の骸を二つ並べて見世物にする。俺たちは皮と木箱を持って交易所の裏手、(むしろ)を吊って目隠しをした場所へと隠れることにした。

 そこら中に大蝙蝠(ジャイアント・バット)が干してある。杭の間に(ロープ)を渡し、蝙蝠をぶら下げているのだ。ちょっと間違った万国旗みたいな感じである。



「とりあえず皮は剥いできた。丈夫だから何かに使えるだろう」

「ええ、そっちは革職人の工房に持っていきます」

「毒があるかもしれんから気を付けろよ。角と牙の使い道は何かあるか?」

「すぐには思い付きませんね。大して邪魔にはならねぇんで、しばらく預からせてください」


 いきなり角など渡されても、すぐには用途など思い当たらんだろう。俺だって考えつくのは角笛とか印鑑くらいである。そんなものに高いカネを払うような富裕層はこの近辺にはいないだろう。ここは貧乏子爵領である。食い物にすら困っているのだ。


「ありゃ結構硬てーっス。細工するなら+2の武器くらいじゃないと駄目っスな」

「そうだなァ、下手に手を出しても道具の方が駄目にならァ」

「頑丈過ぎる素材というのも考えものですね……」


 やはりそんなものだ。目処がつくまで角と牙は放っておこう。


「……で、肉はどうします?」



 答える声はない。


 筵の向こうから聞こえるエルフの歌声と冒険者たちの喧騒。風に揺られる木々のざわめき。どこかで小鳥が鳴いている。


「……私が食べてみましょうか?」

 やはり虫だの木の根だの食ってきただけあって肝が座っている。何も考えず食うエルフとは違い、こいつは考えた上で食う方のタイプである。


「やめとくっス。毒くらいなら構わんスけど、頭に角でも生えてきたら取り返しが付かんっスよ」

「俺は似合うと思うが」

 小鬼娘だ。キャラデザとしては鉄板の部類だろう。

「そこは否定せんス。でも変な角だったらどうします?」


 ふむ、カブトムシみたいな角でも生えてきたら以前と同じように接してやれる自信がないな。ゲームでも神話でも、変な肉を食ったやつはだいたい変なことになるものだ。ここは見送るべきか。



「ひとまず干し肉と塩漬けにでもしておきます。最初は豚かガチョウにでも食わせてみましょう」

 妥当な落とし所である。


「くれぐれも他の肉と混ざらんようにしろよ。調理場も分けろ。何かあったときに真っ先に疑われるのはきっと俺たちだ」

「わかりました、俺の見ている場所で作業させます」


 頭に変な角が生えただの騒ぎになれば、こちらも英雄ヘグンに角を生やしてお揃いだと納得させるしかあるまい。そうなるとヘグンは兜を被れなくなって困るだろう。この男にばかり迷惑をかけるわけにはいかない。


「俺ァ食いたかねェな。よっぽど腹が減りゃ別だがよ」

「そうですね。悪魔の肉など食べたという話は聞いたことがありません」


 食わず嫌いな連中である。毎日同じ定食屋で三品くらいの定番メニューをローテーションで食っているタイプだろう。冒険者の癖に冒険心が足りないのだ。たまには変な物を食うのも人生の勉強であろう。俺はご遠慮させていただく。


「では、悪魔については任せる。他に何かあるか?」

 こういった話はギルドの商人派閥内で勝手に進めている。とはいっても、俺の指示でディッジ小僧が動いているだけだ。見事な傀儡政権である。


「北の連中が旦那を探していましたよ。ちょっと意見がもらいたいとか」

「わかった、顔を出してくる」



 せっかく身軽になったのに、新たに木箱を持たされて街の北に向かう。ついでにお遣いを頼まれた。我らがギルドは小規模な組織である。フットワークが軽いのはいいが、雑用も自分たちでやらなければならん。


「結構ガラが多いっスね。やっぱ肉が少ねーっス」

「丸干しだと言い訳が利かんからな。加工済みの方を主力商品にしたいのだ」

 箱の中身は蝙蝠の骨である。肉を削いだ後の残滓だ。


「ねえ、もう歌わなくていいの? わたし歌には自信があるの」

「もういいですよルー。じゅうぶんに堪能しました」



 街の北には川が流れている。ここオズローの街を支える偉大な取水源だ。

 ちんけな小川である。水量も少なく流れも緩やかな、オタマジャクシとかがいそうな感じの環境だ。

 そんなのでも水源には違いない。水を多く必要とするような施設は街の北に集中して建っている。この骨を運ぶ先もその一つである。




「いつ見ても雄大な景色だな」


 小川のはるか向こうに森が広がり、その更に向こうには切り立った山々が連なっている。山頂の方が白くなっているのは雪だろう。


「べつに面白くねー、ただの山っスよ。オズロー山脈っス」


 この街は山脈の麓にあることからその名が付いたのだろう。

 山の向こうに同じ名前の街ができたらどうする気だろう。条件は同じではないか。後先を考えてない命名である。


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