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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
異世界編
49/126

異変


 異変が発覚したのは三日後。ニコがレベル7になった日のことであった。



「はっ! 『忍法・煙玉』ニンポ・スモークボール!」

 くノ一の手から謎の球体が放たれ、小悪魔(インプ)の群れが白煙に包まれる。


「何だ、あれは……」

「知らねーっス」


 少々動揺しつつも、アーウィアと一緒に小悪魔どもを始末していく。

 空飛ぶ厄介者たちは謎の煙に幻惑されている。滅茶苦茶に飛び回る奴らへ向けてカタナを一振り。翼をもがれて転がる相手を唐竹割りに真っ二つに切り裂く。炎の魔法さえ使ってこなければ大した相手ではない。


「うらァー! やっちまえーッ!」

「死ねェェェ――ッ!!」

 アーウィアとニコも敵の群れに襲いかかっていく。司教の戦棍が叩き落とした奴を、ニンジャ二号が短剣でめった刺しにしている。余計な世話かもしれんが、もう少し健全に戦えないのだろうか。ちょっと心がざわざわする戦闘風景である。


「まぁ、すごいわねぇ」

 ルーは見たままの感想を述べるだけである。





「……先生、やっとニンジャの戦い方が理解できました」

 戦闘を終えたニコがおかしなことを言ってきた。先輩ニンジャとしては、さっぱり心当たりがない。さっきのは何だったんだ。


「ああ、今の感覚を忘れるな」

「……はい!」

 適当なことを言っておこう。何それ知らないなどと言ってはお互いに立場を失ってしまう。正直に話をすればいいというものではないのだ。



「ニコ、さっきの煙はなんスか?」

「わたしも見たことがないわ。魔法かしら?」

 いい質問だ。ぜひとも俺の代わりに掘り下げていただきたい。女子の会話に聞き耳を立てるニンジャ一号である。


 二人の問いにドワーフ娘は不敵な笑みを浮かべた。


「……ご存じないのですか? 初歩の『忍術』(ニンジャ・アーツ)です。ようやく習得できました」


 ほう、そうなのか。


 話を聞きながら、こっそりメニュー画面で確認してみる。俺のスキルには、そんな得体の知れない代物はない。知らぬ間にアップデートがきて追加されたとかいう話ではなさそうだ。


「よくわからんスけど、強くなったのは喜ばしいことっスな!」

「……はい。これで私も一人前のニンジャです。まだまだ先生には及びませんが、これからは戦闘でもお役に立てることでしょう」


 アーウィアは怪しげな術を使う女子中学生みたいな奴の肩をバンバン叩いている。せっかくニンジャ仲間を増やしたのに、何だか妙な成長をし始めた。これでは俺の持っているノウハウが活かせんではないか。


「すごいのねぇニンジャって。カナタも使えるの?」

「凄いだろう。これがニンジャというものだ」


 論点のずれた返事をしておく。余計な知ったかぶりをしたせいで、退路を失っていく俺である。





「そろそろ昼だな。引き上げるとしようか」

「うっス。今日はパン屋が窯に火を入れてるはずっスな。メシの前にひとっ風呂いきますか」


 パンを焼いてくれれば隣の風呂屋で蒸し風呂に入れるのだ。長屋暮らしの身の上では内風呂など望めない。パン屋の都合に合わせるしかないのだ。


長衣(ローブ)も洗濯したいわ。さっきから犬みたいな匂いがするの」

「……それはアー姐さんの法衣です。噛まれまくってたので」


 ガランゴロンと鐘のように喧しい昇降機(エレベータ)に揺られ、迷宮を脱出する一同である。





「大司教アーウィアとパン焼き窯に、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 朝から身体を動かしてサウナに入り、真っ昼間から宴会である。

 会社の慰安旅行か何かのような生活だ。我ながらふざけた連中である。迷宮探索の代わりにゴルフとかをすれば両者は限りなく同一に近づくであろう。


「第六層での探索は順調だったな。明日からは昇降機を使おう」

「そっスな。深いところで仕事したほうが手間が少ねーっス」


 今日はニコの第六層デビュー戦であった。

 低レベルのままいきなり連れていくと、小悪魔の魔法に焼かれてしまう。レベル1のへなちょこ冒険者など、さぞかしよく燃えることだろう。いろいろ手間を掛けたのだ。そう簡単に燃えてもらっては困る。

 ひとまず様子見のつもりで行ったのだが、問題はなさそうである。


 今まで第二層や三層で淡々と骨やら何やらを大量に狩っていたのだ。アイテムもたくさん拾ったので長屋の床下がパンクしそうになっている。こっそり穴を掘って収納限界を拡張しようか検討中だ。まるで古いサンダルやテニスボールなんかのお気に入りを小屋に隠している犬みたいな連中である。


「ねぇ、ヘグンの持ってきたお肉はもうないの? 何か食べたいわ」

「……とっくにないです。骨も煮込んでスープにしました。虫でも捕まえてきましょう。何匹くらい食べますか?」

 雑煮に餅を何個入れるかみたいな感覚である。正月のお母さんである。

「いらんス。何か買っとくから今は指でも舐めてろっス」


 ヘグンは相変わらず忙しそうにしている。冒険者間の話し合いは遅々として進んでいないようだ。無理もない。指先一つでメッセージを送り合えるような世界ではない。電話どころか郵便システムだって整備されていないのだ。話をする前に相手を探すところから始めないといけない。しかもお互いに住所不定だ。何かと絶望的である。



「あの男も大変だな。この世界には冒険者ギルドとかいう組織はないのか?」

 異世界だとかファンタジー世界ではお約束だろうに。それっぽいのは『修練場』なのだが、どうも迷宮へ立ち入る者に対して口を出すだけで、後は勝手にやれという感じらしい。


「なんスかそれは。冒険者なんてしょせん流れのチンピラっスよ。集まったところで山賊くらいにしかならんス」

 自分を棚に上げて正論を振るうのに特化した小娘である。しかしこの面子を見ると他に表現がないのも事実だ。飢えたならず者の集まりである。得意なことは暴力くらいで、虫を食うほど切羽詰まっているような輩だ。


「だからこそ、冒険者を規則で管理統率して仕事の斡旋などを行う組織が必要なのではないか」

 確かそういう建前で存在しているはずだ。聞こえはいいが、よく考えると反社会集団と紙一重である。


「そんなこと言われてもねーもんはねーっス。駄々をこねないでください」

 まるで聞き分けのない子供のような扱いである。


「そんなに欲しければ作ればいいんじゃないの?」

 DIY精神である。自分でやれの精神だ。


「……火を通せば悪くないですよ。私は生で食べていましたが」

 今はその話を聞きたくない。



 よかろう、俺もエンジニアの端くれだ。

 俺たちのような仕事は『自分で作れ』が合言葉のようなものだ。

 責任を負うのは御免だが、作れそうなものがあったら作ってみたくなるタイプの人間である。作ってはいけない物まで作ってしまってお縄になるような奴らも多い。興味本位で行動する生き物なのだ。

 できるかはわからんが、ここは試しにやってみるとしよう。



「ヘグンを見かけたら話をしてみるか」

 例によって責任を被るのはあの男である。人望のないニンジャは裏で暗躍するのみだ。他に使えそうな手駒はあるだろうか。


 そんなことを考えていると、酒場の入口に見覚えのあるヒゲがいた。

 干し肉を抱えた我らが英雄ヘグンである。


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