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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
異世界編
45/126

戦士ギドー


 連日会議に忙しいヘグンと別れ、俺たちは飯屋にやってきた。

 何度か利用して勝手知ったる『陽気な蛙亭』である。


 三人だと伝えると、愛想のいい飯屋の看板娘がパンを三つと大皿をテーブルに運んできた。



「パンをそのままテーブルに置かれるのは、まだちょっと抵抗があるな」

 自分で言ってて気付いたが、手掴みで持ってこられる方はあまり気にならなくなっている俺である。


「いちいち皿にでも乗せるんスか? 絵面としては面白いですけど皿を使う意味がねーっスよ」

「カナタって、ときどき変なことを言うわよねぇ」


 アーウィアはテーブルに転がったパンをむしりつつ、ルーは皿に手を突っ込みながら言う。残念ながら、この世界においては二人の方が正しいテーブルマナーである。赤ん坊か無精者かと聞かれると、混じりっけなしの蛮族(バーバリアン)である。地面に落とした飴でも平気で口に戻すであろう。


「きょうの料理は何だろう」

「魚よ」

「ニシンか何かっスな。塩漬けしたやつをリーキと一緒に炊いてるっス」


 大皿には三尾のお魚さんと、ぶつ切りにしたネギみたいな物が同居して湯気を上げている。美味そうだ。どうやら本日の献立は当たりの日であったらしい。


 指でほじったニシンの身と、リーキとやらを一緒に食べてみる。塩辛い魚とネットリとした甘みのあるリーキであった。あっさりとした味付けだが、まことに相性がいい組み合わせだ。海の幸と山の幸が奏でるハーモニーである。

 取り皿代わりにしているパンをむしって口に運ぶ。こちらの方はあまり美味くない。座椅子を破って中身のウレタンを食っているような感じである。やたらデカいので食うのが大変だ。



「いちいち指が汚れるのが問題だ。それに熱い。マイ箸を持ってくるべきだろうか」

 潔癖症のOLみたいな感じである。しかし俺たちにはアイテム欄の問題があるので迂闊に所持品を増やすことはできないのだ。迷宮内で箸を捨てれば済む話ではあるが、いかに悪のニンジャといえどポイ捨てには抵抗がある。


 むしろこの街の人間に箸の普及活動をするべきだろうか。しかしいきなり『手で食うな、箸で食え』などと言っても無駄だろう。人気者のヘグン辺りに箸の使い方を仕込んで広告塔になってもらうか? いや、あの男は不器用そうだから、きっと箸を握ったまま逆の手で食うだろう。食事中に握る謎の棒として流行されても困るのだ。きっと派手な装飾が付いたり巨大化したりして謎の文化として発展するに決まっている。いずれ『はは、食事中に英雄(ヘグン)棒を持たぬとは、とんだ田舎者だな』みたいな感じになってしまうのだ。


 形骸化した慣習というのはプログラマの敵である。ちゃんと仕様書通りに作っているのに、後になって不思議な業界ルールを持ち出して変更を迫ってくるのだ。その度に例外的な処理が追加され、無用となった後もシステム内に残り続ける。買ったはいいが二回くらいしか使わずに台所で何年も放置されているバルサミコ酢みたいなものである。捨ててしまえそんな物。



「この後はどうするの? 今日はもう迷宮には行かないの?」

 ニシンの頭をバリバリ食いながらルーが言う。

「もう魔法の回数が残ってねーっス。回復が使えないから危ないことはできねーっスよ」

 アーウィアも魚の頭をボリボリ噛み砕きつつ答える。


「それなんだがな、『修練場』に行ってみようと思う。そろそろ探索メンバーを増やしたい。今は駆け出しどもが大騒ぎしているから、酒場に行ってもまともな勧誘などできん。どうせ同じひよっこなら『修練場』で使えそうな新人を探すとしよう」


 俺の分の頭をアーウィアのパンに乗せてやる。栄養の足りない育ち盛りの娘である。しっかり食わせてやらないといかん。


「そっスか。まぁ暇ですし、期待せずに見に行くだけ行ってみますか」

「話を聞いてなかったけど、それでいいと思うわ」


 ルーが羨ましそうに見ているので骨の方をくれてやった。嬉しそうにバリバリ食っている。本当に、エルフというのは何でも食うらしい。





 飯代を払って水瓶で手を洗い、一同は『修練場』へとやってきた。

 ここに来るのは久しぶりだ。名前変更以来である。


「新人を探しに来た。前衛職で募集をしたい」

 何となく見覚えのある職員の男に声をかける。


「はい、それでしたら向こうの壁に書かれているのが新人の来歴と教官の評価です。文字が読めなければ代読しますが」

 相手の方はおぼえていないらしい。もしかしたら別人だったかもしれん。

「いや、不要だ。では拝見させてもらう」




「結構いるっスね。命知らずの馬鹿野郎どもっス」

 黒く塗られた壁一面が細かい文字で埋まっている。新人たちの情報が白墨で記されているのだ。


「紙に書いてくれれば読むのもラクなんだがな」

 下の方に書かれた奴は気の毒である。もっとも、そんなところに書かれる奴は教官の評価も低いようだ。逆に、目線より高い位置に書かれている奴も何かしら問題がありそうな印象である。


「羊皮紙だってタダじゃねーっス。稼ぎのない新人の扱いなんてこんなもんスよ。あ、カナタさん、コイツなんてどうっスか?」

「どれどれ」


 アーウィアが推薦する新人の情報を見る。なかなか能力値が高いようだ。しかし問題がある。名前だ。


「冒険者名の登録が『えういあ』か……。やめておこうアーウィア。この手の名前は何か不吉な予感がする」

「贅沢っスな。名前なんて後で変更すればいいっス」

 アーウィアは鼻息をふんすと漏らして別の書き込みに目を向ける。



 アップデート以降、色々と思うところがあるのだ。こういう適当な名前の人物を呼び出すことで、何か良からぬ事態に発展しそうな気がしてならない。

 そして、アーウィアに対しても気になっていることがある。


「――名前か。そういえばアーウィア、お前はどのように登録したんだ?」

 壁の文字を目で追う振りをしながら、心臓バクバクで聞いてみる。


「あー、アレっスか。わたし、読む方はイケるんスけど書く方はそこまで得意じゃねーんスよ。故郷じゃ文字を読める奴も少なかったんで。緊張もしてたんで登録のとき代筆を頼んだら間違えられたんス」



 良かった。

 本当によかった。


 コイツは謎の空間からランダム生成された謎人物ではなかったのだ。

 いや、すべては俺の想像だ。しかし心の底に溜まっていた疑念が払拭された。また一つ憂い事が消えてほっとする。


「ねぇ、まだなの? そろそろ退屈だわ」

 床板をみしみしと軋ませながら、ニンジャ式高馬に乗ったルーがやってきた。新たに増えた方の憂い事である。


「こら、床が抜ける。外で遊んでいろと言っただろう」

「わたしらは忙しいんス。暇なら手伝え。上の方のやつを読んでるっス」


 落ち着きのないエルフである。同じヘッポコでも会話が成立する方のヘッポコであるアーウィアの方が遥かに優秀である。今もこうして手伝ってくれているのだ。



「あら、この人すごいわ。とても新人とは思えない評価よ。戦士希望ですって」

 竹馬に乗っているルーが天井近くに書かれた一人の新人に目をつけた。


「……ちょっと代わってくれ。俺も見てみたい」

 たまに神がかったところのあるルーだ。俺の直感にも訴えかけるものがある。


 竹馬を借りて最上段の書き込みを読む。

 確かに凄い。新人の中では他を圧倒して図抜けている。


「名前は、『ギドー』か……。よし、こいつを呼んでみよう」


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