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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
レトロゲー編 終章
42/126

酒場の冒険者


 アップデートを迎え、異世界の異世界っぷりに翻弄される俺である。



 冒険者たちが入り浸る、いつもの酒場だ。扉口に立って見上げると分厚い板切れがぶら下げられていた。

 『ガルギモッサの酒場』という文字が彫り込まれている。今まで気にしていなかったが、こんな店名だったのか。店主の名前だろうか?


 扉を押し開けて酒場に入る。

 商店と同じく、こちらにも冒険者たちが詰めかけていた。



「何だ、会合でも開いているのか?」

「わたしら呼ばれてねーっスな。内輪の集まりっスかね」


 この時間には珍しく結構な人数だ。いつものアイテム倉庫連中とは面子が違う。それはそうだ、奴らは商店の方へ行っている。

 おそらく熟練冒険者たちだろう。見たところ装備がしっかりしている。いくつかのパーティーが集まっているらしい。どいつもこいつも難しい顔で騒々しく会話を交わしている。



 酒場の真ん中でテーブルを囲んでいる一団がいた。卓上には雑多なアイテムが山積みされている。

 年季が入った装備の男たちだ。前衛職らしき者が多い。同じパーティーの仲間というわけではなかろう。ここにいる連中の(リーダー)だろうか。



「話を聞いてみよう。こっそり混ざればバレないだろう」

「うっス。わたし、そういうの得意っス」


 ニンジャと司教はこそこそと壁伝いに侵入する。酒場の中ほどまで進み、何食わぬ顔で壁に背中を預ける。潜入成功である。



「雰囲気が悪いな。厄介事でもあったのだろうか」

「迷宮にも行かずに何やってんスかね?」


 すぐ近くに、頭巾を巻いた小柄な男が、椅子の上で胡座(あぐら)をかいて座っている。鼻の高い、眠そうな目をした革鎧の男だ。おそらく斥候系であろう。口元を歪めて考え込んでいる。口内炎が気になっているだけかもしれん。

 よし、この男に声をかけてみよう。



「困ったことになったな。アンタはどう思う?」

 何となくそれっぽい感じの台詞で話を振ってみる。こういうのは堂々とやれば、その場の勢いで何とかなるものだ。


「はっ、どうもこうもねぇよ。見てのとおりだろ?」

 頭巾の男は鼻で笑い、顎で中央のテーブルを指し示す。



 テーブルを囲む男たちの一人が、山積みにされていたアイテムを両手で抱えた。酒場中の冒険者たちが口々に唸り声を上げる。何をやっているのだろう。よく知らないマイナー競技を観戦しているみたいな気分である。


 ふいに隣から腕をバンバン叩かれる。目を向けると、驚いた顔のアーウィアが相棒のニンジャに暴行を加えていた。反抗期だろうか。


「ッ! カナタさん! あいつ『アイテムを9個以上持っている』っス!」

「――何だとッ!?」



 そんな馬鹿な! 『アイテムは8個しか持てない』はずだ!


「そういうことさ。いったい何が起こってんだか……」

 頭巾の男は首の後ろで手を組んで、長い溜息をついた。





「皆、聞いてくれ。『迷宮ではアイテムを8個しか持てない』のは当然だが、どうやら外では持てるようになったらしい」


 場を取り仕切るように、大柄な男が呼びかける。鉄鎧に毛皮を羽織った荒々しい雰囲気の戦士だ。意外というか、語り口は冷静である。やはりパーティーを率いている頭なのだろう。器の大きさを感じる。


 冒険者たちが一斉にざわめき出す。


「そうとしか考えられねぇよな……」

「ってか、そもそも持ち歩く必要なんかねぇだろ。どこかに置いとけばいいじゃねぇかよ!?」

「待て、そんなことが……可能なのか?」

「訳がわからん、頭がどうかしそうだ」



 何ということだ。俺たちの常識が打ち破られた。

 これではアイテム倉庫などという存在は不要ではないか。



「それだけではないッ!」

 荒くれ大男がデカい声を張り上げた。騒いでいた冒険者たちが静まり返る。


「すでに耳にした者もいるだろう。ガル爺、説明してやってくれ」

「おお、よいとも」


 大男の呼びかけに、酒場の店主が返事をした。やはり、ガルギモッサというのは主人の名か。背は低いが筋肉質な老人だ。白髪交じりの立派な口ヒゲを蓄えている。おそらくドワーフという種族だろう。

 ドワーフか。生前の彼方奥次郎さんの知識にもある。酒を飲んだり鍛冶をしたり斧を振り回したりするイメージだ。縄跳びをしたりガムを噛んだりしないイメージである。


「今朝早くに『修練場』から知らせが届いての。何でも、年に小金貨一枚の税を納めれば、迷宮へ立ち入る許可を出すとな。一人が払えばパーティー六人で迷宮へ行ってよいそうだ。手続きは、うちの店でも受け付けとるよ」


 衝撃的な内容であった。




「カナタさん、どうなってるんスかね?」

「商店に押しかけていた連中は、そういうことか」


 朝早くから酒場にいる倉庫連中だ、当然耳にしたことだろう。寄せ集めでも六人もいれば小金貨一枚くらいなら工面できる。彼らとて冒険者。ただ座っているより、迷宮で一攫千金を狙いたいはずだ。

 主力の連中に手持ちのアイテムを押し付けてパーティーを脱退したのだろう。そのとき、アイテム欄の上限を無視して渡せてしまったのだ。

 きっと、そんな流れだろう。



「こりゃやべーなぁ」

 他人事のような口調で鼻高の斥候が呟いた。

「第一層は、駆け出しパーティーで埋め尽くされるぜ。何人生き残れるかねぇ」





「何か異変が起こっている。誰か原因に心当たりはないか?」

 荒くれ男に答える声はない。

 ここは俺の出番だろう。


「知っているぞ」

 ニンジャの言葉に、酒場中の視線が集まった。

 仲間の司教だけ、面白い話を期待するような顔をしている。やめろ、今はそういう流れじゃない。


「何だお前は――いや、最近、毎日のように馬鹿騒ぎをしていた連中だな?」


 毛皮の大将が睨み付けるような目を向けてきた。

 意外と悪目立ちしていた様子の俺たちである。主にアーウィアのせいだ。放し飼いにしていた俺の責任でもある。



「昨日、迷宮第九層の主を倒した男がいる。ヘグンという名だ」

「――第九層だと!?」

「おそらく、それで迷宮の瘴気が弱まったのだろう」


「……なるほど、『神の欺瞞』か……」


 冒険者たちがざわめく。



 もちろん嘘情報だ。流言飛語の類である。

 原因は間違いなくアップデートの影響であろう。しかし説明しても理解されそうにないし、最悪お前が悪いという話になりかねない。誰かに濡れ衣を着せてしまうのが一番だ。

 正体不明のニンジャならともかく、あの男であれば少々のことは名声に変えられるだろう。人徳の差である。



「諸君も気付いているだろう。今までメシを食わずに生活できたのも、きっと『神の欺瞞』の影響だ!」

 反応がいいので調子に乗っている俺である。人前で喋るのが割と嫌いではない俺である。目立ちたがりというか、お調子者なのだ。


「いや、俺たちは普通に食ってたぜ?」

「宿でメシが出るだろ、一等室なら」

「こいつ、馬小屋にでも泊まってたのか?」


 ――余計なことまで言わなければよかった! そうなのか!?


「そうだったか? おぼえてねぇな」

「俺は食ってないぞ。すっかり忘れてた」

「いや待て、宿での朝食しか食ってない。それだけで腹が持つはずがねえ」


 どうやら、個人差があったらしい。

 いい大人が集まって、大真面目な顔でメシを食った食わないの話をしている。




「とにかく、ヘグンという男を探すぞ!」

 場を仕切っていた男の号令で、その場は解散となった。



「カナタさん、さっきの話ほんとうです?」

 アーウィアが疑わしそうな視線を俺に投げる。

「作り話に決まってるだろ。だが、迷宮と世界の間にある歪みが修正されたのは事実だろうな」


 そもそも、白ひげ神の作ったレトロゲーシステムで世界が汚染されたという話だったのだ。女神様はそれを正常化すると言っていた。

 俺の想像が正しければ、『神の欺瞞』はレゲーシステムを無理やり世界に組み込むための仕様だ。世界を正常化していけば、やがて影響を失っていくことだろう。



「しかし、第一弾のアプデはバランス調整と言っていたはずだが。ずいぶん大規模な改修じゃないか。この上、どんなアップデートがあるというんだ?」


 ただでさえ生活環境が激変して途方に暮れているというのに。生活費の増大は避けられまい。今のところ、迷宮以外に収入のアテがない俺である。


「何言ってるかわからんス。そろそろ商店でカネを回収してきましょう」


 そうだな。カネの力で何とかするしかない。


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この世界観といいキャラ同士のやりとりといい基本コミカルなのほんと大好き
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