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ニンジャと司教の再出発!  作者: のか
レトロゲー編 終章
39/126

災禍


 第九層の『門番』(ゲート・キーパー)である。


 死んだ人間のことはさておいて、こいつを倒してしまえば準備万端アップデートを迎えられる。女神様の鬼畜っぷりを震えて待つばかりだ。



「さて、作戦を練るとしよう」

 粗末な木扉を前に、最期の作戦会議を開催する。


「門番を倒して勝利っス」

「そうだな」

「蔵を建てるんス」

「ああ、他に意見のある者は?」


 もはや雑音みたいな感じになってしまったアーウィアだ。会議と世間話の区別がついていない人みたいである。たまにいるのだ。何か関係あるのかと思って聞いていたら最終的に『最近の冷蔵庫って凄いよな』みたいな話だったりする。そういうのは後でお願いしたい。


「当然、強敵でしょう。どのような相手かもわかりません」

「ふむ、こちらとて万全の態勢なのだ。一息に攻め落としてしまえばよい。皆でわーっと行ってがーっとやれば倒せぬ相手などいないのだ」


 正体不明の強敵にわーっと行ってがーっとやるのは既定路線である。やはり情報がないので大した話し合いはできないか。結局、出たとこ勝負である。


「敵の正体がわからないのが問題なのね。じゃあ見てみましょうよ」

 ルーが扉を開けた。




 何か、すげー奴がいた。

 四枚の翼を持つ、土気色の肌をした人型。見上げるほどの異形な巨躯。魔神のような姿をした敵だった。

 およそ、人が戦いを挑んでいいような相手ではない。




 扉がぱたりと閉ざされる。


「あんな感じだったわ。どうするの?」

 やはりこのエルフは頭がどうかしている。


「……見逃された、か?」

 扉の向こうからは何の反応もない。よく考えれば無理もない。そもそも扉をくぐれるサイズではなかった。こちらに来ることはできないようだ。心臓に悪い。


「……すまねぇ兄さん、しかし、アレが相手か……」

「……あれと……戦うのですか……?」

「……むぅ……」

「蔵を建てるんス。みんなに自慢するんス」


 一気にテンションが落ち込む一同である。


「で、どうするの?」





 作戦は決まった。遺憾ながらルーのおかげである。


「姉御、やってくれ!」

「おぅ任せろ! 『兎足』(ラビッツ・フット)ッ!」


 アーウィアの魔法を合図に扉を蹴り開けたヘグンとユートが部屋に突入。巨大な魔神が侵入者へと向き直る。


「なーっ! 『対魔防殻』アンチ・マジック・シェル!」

『広域守護』(マス・プロテクション)!」

 魔術師と僧侶による防御魔法。ニンジャはパーティーから離れ、魔神の背後へと忍び寄る。


 魔神の拳が前衛を襲う。紙一重、聖騎士が転がるように回避。

「立てユートぉ! 次が来るぞッ!」

 潜伏したニンジャが駆ける。跳躍、魔神の背を蹴って首にしがみ付く。後はひたすら手刀を振り下ろすのみだ。


 名付けて『首が切れるまで頑張ろう作戦』である。



 爆発するが如き勢いで暴れまわる魔神。ヘグンとユートが猛攻を何とか耐えしのいでいる。隙をみてヘグンが治癒薬を飲む。慌てて飲んだせいでむせた。鼻から赤い薬液が霧となって噴射。笑ったユートが魔神に殴り飛ばされた。すかさずボダイが回復魔法を飛ばす。ニンジャは手刀で魔神の首を何度も叩く。


「うらぁーッ! おらぁぁーッ! どらぁーッ!!」

 やることがないアーウィアが叫ぶ。魔神は動きを止め、低く唸り始めた。

「気を付けて! 攻撃魔法がくるわ!」


 直後に凄まじい爆発が起こった。魔神の首にしがみついたニンジャ以外、前衛も後衛もまとめて吹き飛ばされる。紙袋から溢れ落ちたリンゴが坂道を下るような勢いで転がった。昔のドラマでよくあったシーンである。あんなにリンゴばかり買ってどうするのか。たまにレモンだったりもする。ジャガイモのほうが現実的であろう。


 真っ先に立ち上がったのはアーウィアだった。『大賢者の護符』アミュレット・オブ・ワイズマンに守られたのか蔵への執念か。他の連中はダメージが大きそうだ。


「起きろ坊主ッ! 回復するっス!」

 アーウィアが『軽傷治癒』キュア・ライト・ウーンズをボダイにかける。自分の魔法ではパーティーを立て直せないからだ。ニンジャはひたすら手刀を振るう。


「皆、何とか持ちこたえてくれ!」

 手刀を打ち下ろしながらニンジャは叫ぶ。アーウィアから回復魔法を受けたボダイが上位の回復魔法を唱える。他の連中も何とか立ち上がる。そして魔神に向き直ったかと思うと、そのまま呆然と立ち尽くしている。


 まさか、ここにきて心がくじけたとでも言うのか!?



「カナタさん、切れたみたいっスよ、首」

 手元を見ると、俺は首のない魔神に向かって無意味に手刀を振るっていた。はて、いつの間に刎ねたのだろう。

 下りるタイミングを逸したせいで、横倒しになる魔神から転げ落ちるニンジャであった。





 横たわる巨体の足元に木箱がある。

 知らない間に魔神を倒し、まるで達成感のないまま罠解除である。


「ルー、殴るなよ?」

「えっ!? 何を言っているの……?」


 一晩眠ってすっかり忘れたのだろう。再起動で不具合が解消したようだ。

 さて、まずは罠判別だ。




 そうして俺たちは第九層の証、円盤状の何かを手に入れた。

 宝箱に仕掛けられていた罠は毒針であった。構造は単純だ。解除は容易である。


「カナタさん、はやく解毒薬(アンチドート)を飲むっス。おかしな顔色になってますよ」

「すまんアーウィア。手元が狂った」


 ちょっとした問題はあったが、無事に目標は達成した。

 解毒薬を飲んで周囲を見渡す。広間である。首を刎ねられた魔神と木箱、四人の貧乏人と一人のアーウィア。そして広間の片隅に、ガラクタのような物があった。


「ここにいたか」


 もう骨になってしまっている。

 ガラクタのように見えたのは、彼らの装備品と骨だった。


「兄さん、そいつらか?」

「ああ」


 全滅したパーティーだ。どれが『オージロ』だろうか。もはやどの骨が誰のものであったかも見分けが付かない。


「こうなってしまっては、もはや儀式にも耐えぬでしょう」

「安らかに、眠らせてやるのだ」


 ボダイとユートが、床に散らばった骨に祈りを捧げる。


「骨だわ」

「骨っス」


 そう、骨である。拾ってやらねばなるまい。


「ひとまず、部屋から運び出すとしよう。門番が復活すると面倒なことになる」



 生き残った冒険者たちは、手分けして骨と装備を運び出す。

 木扉を出て昇降機の手前にそれらを積み上げる。搬出準備完了である。


「さて、いったん脱出といこう」

「うっス。もしこれで昇降機が動かなかったらやべーっス。次はわたしらが骨になる番ス」

 だから変なフラグを立てようとするな。


 今しがた手に入れた円盤状のアイテムを掲げると、縦穴から轟音が響いてきた。

 姿を現した鉄籠に乗り込む。骨は置いて行こう。まずは俺たちが無事に地上へ戻ってからだ。


「行くぞ」

 ヘグンは昇降機のレバーを押し上げる。

 鉄籠は縦穴を昇り第七層で停止する。


「この昇降機は上に行けるのだろうな?」

 レバーを上げる。ユートの心配をよそに、鉄籠はさらに上へと昇っていく。

 一階層上の第六層で停止した。


「ここは第六層ですね。やはり、この昇降機は一番機のようです」

 長い縦穴を通り抜け、俺たちは第一層へと帰還した。


「ひとまず回復だな。『商店』へ行こう。装備品の処分についても話をしなくてはならん」

「うっス」

「埋葬の手はずは……どうするんだ?」

「坊主、頼んだっス」


 ひとまずノルマはクリアだろう。

 そこそこレベルも上がったし、装備も充実。

 金銭問題も何とかなりそうだ。


 しばらくは、のんびり暮らせることだろう。


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